29 黒い経営
本日レクスたちは、予定通り白いゴーレムの像を作るのに必要な道具を見に、それが置かれているという骨董屋へと行くことになっているのだが、その前に一か所よらなければならない所があった。
その場所とは闘技場である。
昨日レクスは闘技場の支配人から金貨五十枚でオーガの捕獲依頼を請け負い、そして見事そのオーガを行動不能にした。
だがそのとき支配人は身一つで逃げ出していたため持ち合わせがなく、報酬の支払いは後日…ということになっていたのである。
そんなわけでレクスとアナは、骨董屋に向かう前に闘技場へと立ち寄ったわけだが…
「閉まってる? いったいどこから入ったらいいんだ?」
闘技場の入り口の扉が完全に閉まっていて、中には入れない様子。
だがそんなときアナはあることに気づく。
「あ…あのっ、レクスさんっ」
「何だ?」
「えと…そのっ、あのっ…」
アナの頭の中には今朝のあの出来事に関する記憶がまだしっかりと残っているせいで、あれは夢だとは思っていても、レクスの顔をまともに直視することが出来ないようである。
「あうぅ……」
結局アナが顔をそらしてしまい話が止まってしまったため、レクスはアナの頭をつかんで自分のほうに向ける。
「……で、何だ?」
「えと…えとえとえと、何だか今日は、騎士さんや役人さんらしき人が、ちょっと多いかな…って」
「なんだ、そんなことか」
そして話を聞き終えたレクスはアナの頭から手を放し、アナもほっと一息。
「はぁっ、はぁっ……」
だがアナの言う通り、今日のこの場に騎士や役人らしき者が妙に多いというのは事実。
そしてそんな騎士のうちの一人が、闘技場の入口の前で立ちすくんでいるレクスたちに話しかけてきた。
「闘技場を見に来たのかい? 今日は闘技場には入れないよ」
「どういうことだ?」
そう尋ねたレクスに、騎士の青年は今のこの闘技場の状況を説明した。
「実は昨日、この闘技場で戦わせるために運ばれていた魔物が、その途中で逃げ出しちゃってさ」
「それは知ってる」
「そうか。それでさ、その件でこの闘技場が冒険者ギルドから色々と問い詰められた結果、かなり法に反する経営を行っていたことが発覚して、今こうして調査中というわけなんだよ」
オーガで虐殺ショーをやろうとしていた闘技場は、やはり思いっきり黒であった。
「過去の試合の記録を見てみると、闘技者の実力よりもかなり格上の魔物と戦わされているケースが多かったみたいだし、あと他にも、ローパーに女性を襲わせるいかがわしい見世物を特別会員向けにやっていたとか」
「ああ、それでローパーがいたのか」
無数の触手を持つ魔物、ローパーの使い道といえばやはりそれである。
だがしかし…
「ロー…パー?」
アナはなぜローパーでいかがわしい見世物になるのかが分かっていない様子。
そこで真面目そうな感じのこの騎士は、まだ幼く見える少女にこんな話を聞かせるべきではないと、すぐに話を切り替えた。
「というわけなので二人とも、今日は何も見れないので早めに帰ったほうがいいよ! さあっ、さあっ!」
騎士の青年はさっさと二人を帰らせようとしてくる…が、ここで帰るわけにはいかない理由がレクスにはある。
「俺は試合を見に来たわけじゃない。こいつをもらいに来たんだ」
レクスはオーガ捕獲依頼の契約書を見せつけた。
「あのオーガ、君が倒したのか? じゃあ騎士団に入らないか!」
「入らねえよ」
騎士の青年は色々と話が飛びすぎである。
「そんなことよりも、支配人はどこだ? 報酬の金貨五十枚を…」
「うーん、支配人の人に会うのは難しいんじゃないかな。今回の件でずっと取り調べを受けていて、当分は帰ってこれなさそうな感じだし」
「は?」
「あとそれと、今回の件やこれまでのことに対する慰謝料、損害賠償、罰金とかで、この闘技場は潰れる可能性が高いらしいって…」
「ちょっと待て! じゃあ俺の金貨五十枚はどうなる?」
「まあ、この契約はあくまで支配人の人、個人との契約みたいだし、闘技場が潰れても無効になることはないと思うけど…」
「そうか……」
金貨五十枚の報酬がなかったことにはされないと知り、ほっとするレクス。
だがしかし…
「でも個人の資産もすでに差し押さえられてるみたいだから、すぐに支払ってもらうのは難しいんじゃないかな」
「……は?」
結局金貨五十枚はすぐには手に入らなかった。
「俺の…金貨…五十枚…」
「あのっ、レクスさん…」
「五十…枚……」
金貨五十枚は当分お預けである。
そしてちゃんともらえる保証はどこにもない。




