28 眠りの呼吸
目が覚めたら腕枕状態になっていたことにドキドキしすぎて体が動かせず起き上がれないアナと、こんな状態になってしまっていることに対して知らぬ存ぜぬで通したいがため眠っているふりを続けるレクス。
そんな二人のいつまでたっても起きられない状況がしばらく続いたが、その結果レクスは腕がしびれてきて、さすがにそろそろなんとかしないとつらい。
アナがこのまま動く気配がないのであれば、レクスは自ら腕を引き抜くしかない…が、それをやったときにアナが起きてしまい、今のこの状況は自分が仕組んだものと思われるのだけは絶対に避けなければならない。
もっともアナはとっくに起きているわけだが。
そこでそうならないためにレクスがとった行動、それは寝返りである。
起きてから腕を引くのではなく、このまま寝たふりを続けながら寝返りっぽい動きに合わせて腕を引けば、たとえそれでアナが目覚めたとしても、この件に関しては知らぬ存ぜぬで通しきれる…とレクスは考えた。
だがしかし、寝たふりを続けながら寝返りっぽい動きで腕を引くとなると、それは結構雑な腕の引き方になってしまって、すんなりきれいにアナの頭の下から腕を引き抜くことが出来なかった。
その結果、体がこわばって固まったままの状態のアナは、レクスが引いた腕に引っ張られてころんと転がってしまい、仰向けに寝ているレクスの体の上に覆いかぶさるような形に。
先ほど以上に体が密着するような形になってしまい、あまりのドキドキに、もはや自分の意思では全く体が動かせそうにないアナ。
そしてレクスも、寝たふりをしながら抜け出すのがより困難な状況に陥ってしまった。
だがレクスには、もうあまり猶予は残されていない。
なぜならこの体勢になってしまったことで、アナの小さな胸がレクスの体にぴったりと押し付けられ、そしてレクスの首筋にはアナの吐息が。
さらにアナは寝間着としてレクスの服を借りていたため、小柄なアナにとってはぶかぶかなその服が先ほど転がった際に大胆にめくれてしまい、露出したアナのお腹がちょうどレクスの手のひらに密着してしまっている。
このような状況で何も反応せずにいられる男などそうそういない。
そしてそれはレクスも例外ではなく、このような状態が続けば間違いなく体は反応してしまう。
だがそうなってしまえば、自分がすでに起きていたことがばれてしまう。
レクスが耐えられる時間はもうあとわずか。
だからその前に何としてもレクスはこの状況から抜け出さなければならない。
しかしこのような体勢では自然に寝返りを打つことも不可能。
寝たふりを続けながら体を動かすことはもう無理と判断したレクスの最後の手段、それは寝息である。
眠っていても人は呼吸する。
ならばその呼吸が時折ちょっとばかり強くなっても、それは何ら不自然ではないとレクスは考えた。
自身の首筋に当たるアナの吐息から、アナの顔の位置は大体予想できる。
そこにちょっと強めの寝息を吹きかけることでアナを目覚めさせて、自分は寝たふりを続けながらアナにどいてもらう…というのがレクスの策である。
「ふぅぅっ…」
そのちょっと強めなレクスの息は、見事アナの耳に直撃した。
「ひゃわっ!」
このアナの声により、レクスは今のでアナが目覚めたことを確信した。
そしてこれでアナがどいてくれて万事解決…とレクスは思っていたのだが、一向にアナはレクスの上からどく気配がない。
なぜならアナは今ので目覚めたわけではなく、だいぶ前からとっくに目覚めていたけれど、ドキドキしすぎて体かこわばって動けなかっただけだからである。
だが目を閉じたままでそんなことは知らないレクスは、まだアナが寝ぼけていて完全には目覚めていないと予測し、もう一回強めの息を吹いた。
「ふぅぅぅ……」
「あっ…んんっ……」
やはりレクスの耳にアナの声が聞こえてくるものの、アナがレクスの体の上からどく気配はない。
それどころか、アナはレクスの体にしがみついてきてしまっている。
レクスには、なぜこんなことになってしまっているのかが全く分からなかった。
答えは、耳に息を吹きかけられたことでぞくぞくしてしまったアナが、ついつい手に力が入りその場にあったものをつかんだだけである。
だがその答えが分からず、もう他の手を考える余裕もないレクスは、とにかくアナを目覚めさせてどいてもらうために、ただひたすらに強めの息を吹き続けた。
「ふぅぅっ……。はぁぁっ……。ふぅぅぅ……」
だがその結果起こったことは、もうすでに目覚めているアナの耳を刺激するだけで、レクスの息がアナの耳に当たるたびに、アナはなまめかしい声を上げながらレクスの体つかんできた。
「ひゃうんっ……。ん…んんっ……。あん…んんっ……」
レクスの行いは完全に逆効果。
これではアナにどいてもらうどころか、より強い性的刺激がレクスの体に襲い掛かり、レクスの耐えきれる時間がぐっと短くなってしまうだけである。
さすがにこれはもうアウトか…と、レクスは一瞬あきらめかけたが、そのとき突然アナの声がぴたりと止まった。
そして先ほどまでレクスの体にしがみついていたその手にも全く力が入っておらず、それどころか体全体がぐったりしているようにも感じる。
そこでレクスは、これはもしや…と思い、恐る恐る目を開けてみた。
するとそこにあったのは、自分の上で完全に意識を失いぐったりとしているアナの姿。
そう、アナは何度も何度もレクスから耳に息を吹きかけられたことにより、そのぞくぞくがついには限界に達してしまい、こうして意識を失ってしまっていた。
レクスにとっては、まさに危機一髪の大逆転である。
こうしてレクスはアナが完全に意識を失っているのを確認すると、そのアナを自分の体の上からどかして起き上がった。
それからしばらくして目を覚ましたアナは、ずいぶんと顔を赤くしながら、しばらくの間どこか遠くを見つめていた様子だが、突然何か意を決したかのようにレクスに尋ねてきた。
「レ…レクスさん、今朝、何かおかしなこととか…ありませんでしたか?」
あった、思いっきりあった。
だがしかし…
「は? いったい何のことだ?」
レクスは、自分は寝ていたので何も知らぬ…という体で白を切った。
「そ…そうですよね、何もなかったですよね。あれはきっと夢、夢に違いないです。夢…あわわわわわっ……」
アナの中で、今朝のあの出来事は夢だったということで処理された。
だが、自分はいったい何という夢を見てしまったんだ…という恥ずかしさからか、思いっきり悶えているアナ。
その一方でレクスは、これでこのことがシオンやベルに伝わることもない。
完全勝利だ…と、心の中でこの勝利をかみしめていた。




