15 白い悪魔
レクスが戦う意思を見せると、カーマは再び両手を天に掲げ、火属性の力が付与された浄化の攻撃魔法を発動する。
「くたばれ、レクス! ホーリージャッジメント!」
カーマは神聖魔法の超エリートと自称するだけあって、実際光属性魔導師としての能力はかなり高い。
それは、レクスが神聖魔法を使えず落ちぶれたことを神に感謝したおかげで、それが結果としてカーマの神に対する信仰心を高め、より大きな神からの祝福を得られたからである。
そんなカーマの放った浄化の光が次々とレクスのもとに降り注ぐ…が、その攻撃は一つたりともレクスには当たらない。
「くっ、なぜ当たらない」
どうしてカーマの攻撃がレクスに当たらないのか。
それは、カーマとレクスとの戦闘経験の差である。
四年近く冒険者として実戦経験を積んできたレクスとは違い、あくまで魔法学校の生徒でしかないカーマは、実際に何かと戦った経験はほとんどない。
そもそも光属性の神聖魔法には普通の攻撃魔法が存在しないため、攻撃魔法を的に命中させるための練習も、他の属性の魔導師ほどは行っていない。
故にレクスにしてみれば、そんなカーマの放つ攻撃は、いくら手数が多くとも読みやすくかわしやすい攻撃でしかないということである。
そしてレクスはカーマの攻撃を次々とかわしながら、どんどんとカーマのもとへ近づいていく。
するとそんなレクスに恐怖を感じたカーマは、攻撃の手を止め守りに切り替えてきた。
「サンクチュアリウォール!」
強固な結界の防壁を展開する神聖魔法。
この結界による防壁の強度は、土属性や氷属性の防御魔法をはるかにしのぐ硬度であり、まさに最強の防御魔法といえるものである。
「ふははっ! この前みたいに光で目をくらまそうとも、攻撃が届かなければ意味はない! そして落ちこぼれのお前が、この結界を破る手段など持っているわけがない! やはりお前ごときが、オレ様にかなうわけが…」
だがレクスはこの防壁の前で、手にしていた短い杖にありったけの魔力を込めた。
そしてその込められた魔力は杖の先端の魔鉱石から一気に放出されるが、レクスはその放出される魔力を力業で無理やり一筋の光へと束ねた。
それはまさに、あの異界の書に描かれていた白いゴーレムが持つ光の剣。
レクスがその光の剣を前へと突き出すと、強固なはずの結界による防壁をいとも簡単に貫き、そしてその伸びた光の刃はカーマの頭をかすめた。
「ぎゃあぁぁぁっ!」
カーマの悲鳴が響き渡る。
なぜなら頭をかすめた光の刃によって、カーマの頭頂部の髪が焼かれていたからである。
「うわっ、うわっ、うわぁぁぁっ!」
「……………」
慌てふためくカーマを、レクスは無言でにらみつける。
するとひどく怯えたカーマは後退しながら再び結界の防壁を展開する。
「サンクチュアリウォール!」
だがその防壁は展開した直後に、光の剣の一振りであっけなく破壊された。
「そんなっ! くっ、サンクチュアリウォール! サンクチュアリウォール! サンクチュアリウォール!」
カーマは何度も何度も結界の防壁を展開するものの、レクスの光の剣はことごとくそれを破壊していく。
「あ…ありえな…い……」
神聖魔法の結界は神の力を借りた最強の防御魔法、神の盾ともいえる力。
それをいとも簡単に破壊する光の剣は、神にすら届きうる神殺しの刃かもしれない。
そう思ってしまったカーマの目には、その神殺しの刃を操る存在がこう見えた。
「白い…悪魔……」
その悪魔と呼ばれた存在が、光の剣を構えてカーマに迫ってくる。
だがそのとき、カーマはあまりの恐怖により、とっくに意識が途切れていた。
「そ…そこまでっ!」
審判役の者は、カーマが白目をむいて倒れた瞬間に決闘の終了を告げ、レクスを止めた。
「カーマ・セドッグは戦闘続行不可能とみなし、勝者はレクス・ヴァンダム! これでこの決闘は終了、これ以上の戦闘の続行は認めません」
「ふん、命拾いしたな」
意識を失い倒れているカーマに光の剣を向けながらそう言い放ったレクスの顔を見て、この戦いを見物していた者のうちの何人かはこう思ったという。
あれは本物の悪魔、化け物だ…と。




