11 勇者と称えられし者
光の剣開発のために、いくつもの術式を試してゆくレクスとアナであったが、それを続けていくうちに、だんだんとレクスの目つきが冷たくなっていくのをアナは感じた。
「レクスさん、もしかして、そろそろきつくなってきましたか? だったら一度休憩を…」
「いや、そうじゃない」
「えっ?」
「なんだか鬱陶しい視線をいくつも感じる」
そう、つい先ほどから、少しだけレクスとアナの近くに寄ってきて、そして二人のことをじーっと眺めている女子生徒が何人かいたのである。
「レクスさんの魔法がすごいから、きっと皆さん気になっているんですよ」
「とてもそんな感じには思えないが」
「そうですか?」
そう、アナの予想は完全に外れている。
彼女たちが気になっているのは、アナとレクスとの関係である。
アナは学校ではあまり男子生徒と話すことはなく、たまに話すときでもずいぶんと緊張した感じになってしまっているため、レクスに対しては完全に打ち解けた感じで話しているアナの態度が気になって仕方ないのである。
あの男は本当にただの研究協力者なのか?
あんなにも親しそうに話しているだなんて、実はそれ以上の関係なんじゃないのか?
そんなことばかり気にしてしまう年頃の女子生徒たちは、自分の研究よりもそっちが気になってしまって、もう二人から目が離せないのである。
だがしかし、冒険者ギルドで散々周りの冒険者たちから誹謗中傷を受けてきたレクスは、彼女たちの視線も同じようなものではないかと疑ってしまい、何やらひそひそとした声が耳に届くたびに、どんどん不機嫌な態度が体からにじみ出ていた。
すると、そんなレクスの様子を察した一人の女子生徒が、このままの状態を続けるのはあまりよくないと思ったのか、アナのもとへとやってきて声をかけてきた。
「アナさん、研究のほうは順調かしら」
「まだ結果は出ていないですけど、レクスさんはすごい魔導師ですから、絶対に光の剣は完成するはずです」
女子生徒は、これまで学校では一度も見たことないような自信満々な笑みでそう答えるアナを見て、にこりとほほ笑んだ。
「そう、それはよかったですわ」
「シオンさんのほうはどうですか、魔法薬の研究」
「さっき、とてもいいマジックポーションが出来たので、よかったらパートナーさんにどうぞ」
「ありがとうございます」
こうしてシオンはアナにマジックポーションを手渡すと、その直後にあることを訪ねてきた。
「ところで、お二人はどこまでいっていますの?」
シオンは考えた。
二人に視線を向けている女子生徒たちが気になっているのは、きっとこれであろうと。
だから彼女たちが知りたがっている答えさえ得てしまえば、みな満足して自分の研究に戻るのではないかと。
そんなシオンの行いを回りで見ていた女子生徒たちは、心の中で彼女のことを勇者と称えていたそうな。
だがしかし…
「この前レクスさんのゴブリン討伐クエストに、一緒についていきました」
アナが質問の意図を全く理解していなかったため、皆の求める答えは何一つとして得られなかった。
そんなわけで、アナに対して回りくどい聞き方では何も伝わらないと思ったシオンは、アナの耳元に口を近づけて何かをささやいた。
「ねえ……………」
「っ!」
すると次の瞬間、突然アナの顔が真っ赤になった。
シオンがアナに対して何を言ったのかは分からないが、このアナの反応を見た周りの女子生徒たちは、さすが勇者!…とシオンの行いに感激した。
その後、シオンはもう一度アナに尋ねる。
「……で、どうなのかしら?アナさん」
「わ…わたしたち…は、まだ…そういうのじゃ…」
「そう、まだ…なのね。ふふっ…」
こうして聞きたいことを聞き終えたシオンは、最後に…
「それじゃあがんばってくださいね、アナさん。応援していますから」
その応援が魔法開発に対してのものなのか、それとも全く別のことに対してのものなのかはシオン本人以外知る由もないのだが、とにかくシオンはそう言い残してアナたちのもとから去っていった。
「……さ、皆さんもご自分の研究に戻りましょ。お二人はまだこれからなのですから、そっとしておいてあげませんと」
「そうですね、勇者様!」
「ゆ…勇者? 何のことですの?」
そしてシオンが去って行った後も、アナは顔を真っ赤にしたままで様子がおかしかったので、そのことについてレクスはアナに尋ねた。
「いったいあいつに何を言われた?」
「えっ? い…いや、あのっ…そのっ、別に大したことは言われてませんよ。そ…そう、レクスさんが気にするような話じゃ全然ないですからっ!」
「ならいいが、その状態で術式はまともに作れるのか?」
「だ…大丈夫です、全然問題ありませんからっ!」
だがこの後アナが作った術式はどれもぐだぐだで、一つたりとも魔法っぽいものは発動しなかった。




