第六話 ズデーテン領の今後について
「失礼する」
幸いにもレティシアとなっていると、時間通りに各分隊長がやって来た。
「〈鉄杭〉部隊長、〈ダリオ・ヘルマン〉だ」
筋肉質の中年でどこかで見たことある精悍な男性が大きな盾と重装鎧を装備したままレティシアの隣の椅子に座った。入って来た時に自然と王都式の敬礼をしている姿から、元同僚かもしれない。
「〈風烈〉の部隊長、〈グレン・ラハルド〉です」
「部隊長だったのか」
「実は…へへ」
隠す事でもないが…まあ見知らぬ人を警戒するのは悪い事ではない。グレンはダリオのそばに座った。
「〈流杭〉の部隊長、〈ミナ・エルフェルト〉です!よろしくお願いします!」
亜麻色の長い髪を三つ編みツインテールにした、そばかすと背中の大きなカバンが特徴的な背の低い女性が深々とお辞儀をして来た。
「よろしくね」
ミナは頭を上げると、そのままグレンのそばに座る。これそのままぐるっと座るつもりだろう。
「〈黒灯〉、レイン」
全身黒ずくめの細身で背の高い男性が短くそう言い、素早く椅子に座った。
「〈雷火〉部隊長、〈バルク〉だ」
小柄な猪を3体ほど纏めて叩き潰せる程の巨大なミートスマッシャーのような武器を持った大柄で身体中に傷のある男性が入ってきた。
「〈蒼祈〉部隊長、〈セリナ〉です。初めまして、イージス様」
青い髪に銀色の、教会の紋章が刻まれた軽鎧を来た綺麗な女性が入ってきた。
「これで全員よ、アレン」
「よく集まってくれた。ここにきてくれたと言う事は、私に協力してくれるということで間違い無いだろう。では早速、今後のズデーテン領の発展について話そうと思う」
それからアレンは、部隊長達が集まるまでレティシアと話していた内容を流暢に話し始めた。
アレンの発展計画は大まかに分けて三つの段階に分けられる。
第一段階から〈中央集権〉〈人材招来〉〈大規模開発〉
まずは議会にレティシア・アレン側の人材を多く差し込み、できれば形骸化させる。そして権力を取り戻したのち、世界各地から防衛や発展に必要な人材をかき集める。そうして最後にズデーテン領の未開発の資源地帯を大規模に開発。そういう流れだ。そして大前提となるのが…
「資金だな」
「どうするつもりなんだ?」
「暫くは、魔物の撃退戦を行う。俺は〈ガス抜き〉と言っているが、要するに周囲の比較的安定した〈節点〉を強制噴出させ、魔物を人工的に出現させる。そうすれば一定期間は安定し、以前のように不定期に出現する事は無くなる」
「魔物を無理矢理出現?お前魔族か?」
ダリオが少し不機嫌そうな顔でアレンを睨みつける。
「違う。これは王都や比較的大きな都市で行われている一種の防衛術でもある。リスクもあるが、上手く扱えればこちらで魔物の出現をコントロールできる上、何かあっても事前に〈ガス抜き〉をしていたおかげで小規模に収まったという実績もある」
「ダリオ、百聞は一見にしかずよ、後でやってみましょう」
「それからまずは砦の周辺土地の再開発だ。今のままだと指示が出しずらく、分かりずらい、一定距離に線を引いて、それを区画化し、撃退戦や防衛戦はその区画に向かってもらう。まずは簡易的で良い、一般労働者と整備班とミナの部隊に後で仕事を任せる。それで幾分か戦いやすくなるはずだ。もちろん対価は支払うよ」
「分かりました!」
「よし、ではミナは整備班を呼んできてくれ、他の隊長達は早めに休んでくれ、早くて明日の午後、再び戦ってもらいたいと思っている」
「分かったよ」
そうして解散の合図を出すと、ミナとレティシアだけが執務室に残った。
「レティシア、ミナ、早速地図を持って外に行こう。明日の早朝から施工を開始したい。まずは実地調査だ」
「了解です!」
「分かったわ、行きましょう」
レティシアは自分の魔法袋に地図を入れていたようで、早速地図を取り出すとそれをミナに手渡した。ミナも自分の服の胸ポケットにペンや定規を入れていたようで、3人は砦から外へ出ると、早速地図を参考に具体的な区画を整理し始めた。
「ここと、ここと、ここが比較的大きな〈節点〉だな」
「なるほど…」
〈携帯型流量測定器〉と言う、いわばアレンの〈魔眼〉の効果を模倣した小さなメガネをアレンは2人に貸し、自分も一応かけている。これはアレンが特許申請した魔道具の1つであり、王都防衛官時代は、〈節点杭〉を打ち込むミナのような兵士の必須携帯道具の1つだった。
「幸いにも〈節点〉はあまりバラついていない、ここから魔物が出現すると仮定して、そこを含む大きな正方形を地図にひいて、それを当分割しよう。縦線は左から1、2、3…横線はA、B、C…1番左上の区画はA1、そこから右に一個行った区画はA2、そこから下はB2…分かるかな?」
「分かるっす…」
「良かった、それじゃあ戻ろう」
日が明けてきたので、3人は急いで執務室に戻る。
「ミナ、レティシア、こんな時間まですまない。後は私の方で書き写しておくよ。もう日が上りそうだが、戻って休んでくれ」
「そうね、私はそろそろ眠るわ」
「ありがとうございますアレンさん!自分も一旦休んできます!」
「レティシア、思ったより時間がかかってしまった。明日は昼から仕事を始めよう」
「分かったわ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
2人を見送って、アレンはそのまま執務室に残って地図を書き写し始める。コピー機のような機能を持つ〈小型複写魔道具〉を日頃から携帯しているので、アレンはそれぞれの部隊の寮部屋の壁に貼れるほど大きな物と、個人で携帯出来る用の小さなサイズの地図を200枚ほど複写した。
「流石に俺も疲れたか」
ラプリッツ砦についてから慌ただしくしていたので、そろそろまともな休憩を取らないと身体がついて行けそうにない。もう動く事すら辛いほど瞼が重いので、アレンは執務室の椅子を並べてそのまま眠る事にした。




