第二話 東部ズデーテンへ続く街
アレン「義母さん...流石に離乳食は...」
シャルロッテ「失礼ね、シチューよ」
アレン「あっはい」
翌日早朝、動きやすい服に着替え、荷物を持って家の鍵を閉める。外では既にオジェが待っており、最後に彼に鍵を渡して王都に別れを告げた。
ズデーテンに向かうには、数台の馬車を乗り継ぐ必要があるので、まずは東部最大の街であるチェロの街へ行く快速馬車に乗り込む事にした。道中の屋台で朝食を購入した後、王都から各地の主要都市へ行くための巨大な快速馬車乗り場へ向かい、東部最大の年であるチェロ行きの車両に乗り込んだ。
キャビンを開けるとどうやら他にも重戦士と魔法使い、弓使いと吟遊詩人が乗っているようで、イージスが乗り込むと吟遊詩人がさわやかな笑顔で挨拶をしてきた。
「初めまして旅の人、貴方もチェロの街へ行くのですか?」
ウクレレを鳴らしながら、彼はそういう。
「チェロの街のコンサートに興味があってな、君達は....パーティか?」
「おう、俺達は風の旅人達と言うパーティだ」
吟遊詩人に代わり、中型盾と手ごろな片手斧を持った重戦士がそういった。
「お客さん達、行きますよ~」
御者がキャビンの仕切りを開けて、駄賃を貰いに来た。ルクス王国王都からチェロの街へはとんでもなく遠いが、整備された〈魔力脈〉の主流脈を走る快速馬車に乗っているので、馬は休みなく全力で走り続ける事が可能だ。
(新幹線みたいなものだよな)
御者が全員分の駄賃を数え終えた後、彼は身軽に御者席に乗り込み、キャビンを引く4体の馬に鞭を入れた。
「出発しまーす!」
御者が腕に魔力を込めて、再び馬に鞭を入れる。金貨2枚、日本円にして約2万円と安くない運賃を払っているので、キャビン内は全く揺れる事も風の音がうるさい事もなく、快適に移動ができている。
「風の旅人の皆さんは何をしにチェロの街へ?」
「友人があっちで酒場を開いたらしくてな、全員で茶化しに行くわけだ」
「ついでに私も新しい楽器を探しに行くんです」
重戦士が豪快に笑いながら、吟遊詩人がウクレレを鳴らしながらそれぞれそう言った。
「へー、良いですね」
「貴方はコンサートと言っていましたね、もしや今話題の〈人魚の歌声・アイリーン〉のコンサートですか?」
「あっ、いや彼女じゃないんだ」
「そうなのですか、では誰を?」
「シャルロッテ、って分かるかな?」
「シャルロッテ.....シャルロッテ!〈マダム・シャルロッテ〉ですか!彼女は既に引退したとお聞きしておりましたが」
「昔世話になっていてな、もう彼女の歌声は聞けないと思うが、挨拶くらいはと思って、そのついで今は流行りの音楽について触れておこうと思って」
「なるほどなるほど、マダムのお知り合いだったとは、失礼しました。素人意見で申し訳ありませんが、アイリーンのコンサートはかなりおすすめですよ、〈人魚〉を思わせる彼女の歌声は、お聞きする価値はありますよ」
「分かった。聞きに行くよ」
吟遊詩人はイージスのその言葉を聞くと、満足げにほほ笑んだ後、ウクレレを鳴らして何やら喉の調子を整え始めた。
「えー皆様、ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁、神の思し召しかもしれません。なのでそんなご縁を称えるためにも、不躾ながら、ここで一曲歌わせていただきます」
なにを吟遊詩人が思ったのか、大げさな語り口調で急にそんな事を言い始めてウクレレを弾き始めた。
「悪いわね、彼の癖なのよ」
「がはは!こいつは楽しくなるといっつもこうして歌い始めるんだよなぁ、へたくそじゃないから、多めに見てくれ」
魔法使いらしき女性は呆れたように溜息をついてそういった後、申し訳なさそうにイージスを一瞥した。重戦士は大きな笑い声をあげ、どこからか取り出した干し肉をイージスに差し出しながらそういった。
そんな雰囲気の中、馬車はあっという間に進んでいき、気がついたら既にチェロの街に到着していた。
「到着しましたよ皆さん、お待たせしました」
「ありがとう、またどこかで会おう」
「それでは、貴方にも良き旅があらんことを」
「またな!」
すっかり打ち解けた風の旅人達の4人に挨拶を言い、イージスは馬車から降りて一足先にシャルロッテの元へと向かった。
「チェロの街、久しぶりだ」
街中至る所に吟遊詩人や野良の音楽家が様々な楽器を奏でている。小さなバンドを即興で組む人もいれば、一人で自ら奏でる優雅なヴァイオリンに酔いしれる人もいる。それが音楽と芸術の街〈チェロ〉だ。
「シャルロッテは....ここか」
20分ほど歩いてたどり着いたのはチェロの街のはずれ、音楽の街の中とは思えない程静謐で質素な邸宅がそこにはあった。年老いた門番が1人入口に立っており、イージスの姿を見つけると、柔らかく笑いかけた。
「ぼっちゃん、お久しぶりです」
「久しぶり、おっちゃん、元気?」
「いやぁ、もう腰が、もう歳にはかないませんな」
「シャルロッテさん、いる?」
「いますよ、丁度起きた頃でしょう」
「ありがとう、これ、お土産」
「おお、プラムの実ですか、ありがとうございます」
「それと、腰だっけか、後ろ向いて」
「え?ええ、おお、暖かい」
右手に魔力を込め、後ろを向いたおっちゃんの腰に手を当てる。強力な魔法は使えないが、こうして火魔法の応用くらいはできる。
「それじゃ」
「はい、ゆっくりしていってくださいね」
門番のおっちゃんに軽く一礼して、シャルロッテの邸宅に足を踏み入れた。
〈マダム・シャルロッテ〉
チェロの街で最も有名だった歌手であり、一斉を風靡した伝説の歌姫でもある。若かりし彼女の妖艶な美貌とその歌声は妖精の囁きとも、女神の音色とも言われていたが、世界巡回コンサートの際に魔物に襲われ、それ以来昔の声が出なくなってしまった。
庭師に挨拶をし、小さい頃から見慣れたバラ園を抜け、本邸の扉を開ける。少し年老いたメイドに挨拶をし、シャルロッテのいる場所に連れて行ってもらう事にした。
「奥様、ぼっちゃんがお見えになりました」
「あら、アレンが来たの?早く顔を見せて」
「久しぶり、義母さん」
老年の年老いた女性が、東屋で傍にある薔薇を愛でながら、こちらを振り向いた。彼女は孤児だった俺を引きとり、アレンと言う名前をくれ、女手一人で一生懸命、世界各地で歌って俺を育て上げ、高価な騎士学校に通わせてくれた、偉大な義母だ。そんな〈チェロの音楽神〉と呼ばれていた伝説の歌姫が、我が子を慈しむように俺に微笑みかけていた。
「王都の仕事をクビになってね、代わりにズデーテン領領主として男爵位を貰ったんだ」
「あら、まずはお疲れ様かしら。それとおめでとう、騎士から男爵に昇格ね」
義母としてまだまだ若いはずのシャルロッテは、その年齢以上に老けた見た目を気にする事もなく、少々恥ずかしいアレンお構いなしに両手で顔を抱いてその胸元にアレンの頭を押し付け、子供をあやすように頭を撫でた。
「か、義母さん」
「貴方を拾ってからもう20数年かしら、すっかり大きくなって」
「そうだね、随分と世話になったよ」
「今じゃすっかり大人になって、もう昔のようにおむつを替える必要もなくなっちゃったわね」
「いつの話だよ義母さん...」
「ふふ」
冗談を言っていたずらっぽく笑うシャルロッテ、相変わらず勝てないなと思いながら、自分の魔法袋から王都のお土産を取り出した。
「はいこれ、新しい花瓶、義母さんここのメーカー好きだったよね」
「まあ、これ新作よね、買おうか迷っていたのよ、ありがとう」
「良いよ良いよ」
「それでズデーテンに行くんだったわよね、最近ズデーテン領でまた魔物の襲撃があったみたいで、丁度この街からも支援物資を載せた馬車が出るから、乗せてもらうと良いわ」
「ありがとう」
「良いのよ、明日朝馬車が出るから、今日は泊っていきなさい」
「分かった、今日は甘えるよ」
「うふふ、いつでも甘えていいのよ」
数年ぶりに会った義母とここ数年の話を交わしながら、アレンは久しぶりにゆっくりとした日を過ごした。




