再恐怖
徐々に足音が近づいてくる。それとともに引きずる音も近づいてきている。
目の前の曲がり角、そこから4人の男女が現れる。全速力だ。そしてそれを追うように血まみれの女の子が現れる。その子は誰かの死体を引きずっている。一瞬でわかる。ただ事ではない。近づくたびに足音が俺たちを焦らせてくる。そこで夏海が声を上げる。
「全員逃げるわよ!」
その声に反応して俺たちはダッシュで逃げる。先頭を俺と龍二、続くように裕司、最後尾は夏海だ。運動能力はないらしくどんどん夏海の足が遅くなっていく。このままじゃ捕まる。4人との差は10メートルもない。女の子との差は15メートル程度といったところか。異様に長い廊下、それがさらに心を揺さぶってくる。
「クソが!」
俺はペースを落とし夏海の横について、一気に抱き上げ、背中に担ぐ。
「ちょっ!ちょっと!」
「黙ってろ!捕まったら確実にヤバい…」
俺は一瞬だけど後ろを振り返る。女の子の顔は髪が長すぎて見えないが少しだけ見える口元は異様なほど笑っている。その口元すらも血に塗れ、引きずっている死体は徐々に擦れていき皮が取れて行っている。見るだけで吐き気を催す。俺はすぐに前を向き走る。
「階段!降りろ!」
目の前の階段、下の階にも同じような奴がいるかもしれない。だが、このまま追われてもジリ貧だ。俺たちは階段で下の階に下がっていく。
「左の部屋!」
咄嗟に左の扉を開いて中に入る。後ろにいた奴らを含めて、全員入ったのを確認してから扉を閉める。机や椅子を扉にかけて開けられないようにする。
「はぁはぁ…助かりました」
「ふぅ…それはいいんだが、お前たちはなんなんだ?」
「あ、そうですね。まず自己紹介からですよね。僕は原山薫です」
「私は山本玲奈よ。」
「僕は井口玲穏です」
「…東雲陽奈…」
「俺は柳雪だ」
「私は冬坂夏海よ」
「僕は冬坂龍二です」
「俺は小鳥遊裕司だよ!」
「てことで、あれはなんなんだ?」
「…まずは僕たちが目覚めた辺りから話さないといけませんね」
・・・
僕たちは同じ教室で目覚めました。最初は10人いたんです。そして皆さんも聞いたと思います。あの放送を。あの放送がなり終わり僕たちは教室を散策していました。全部探し終わり、どうしようか話していると徐々に一人様子がおかしくなっていったんです。原草沖奈さんでした。どんどん話す言葉がカタコトになっていきました。その時、沖奈さんと一緒に来ていた田口結衣さんが話しかけたんです。一瞬でした。沖奈さんの手が結衣さんの心臓を突き刺していました。そこからは急いでその教室を出て、4.4で別れました。
・・・
「じゃあ、引きずっていたのが沖奈ってやつで、引きずられてたのが結衣ってやつってことか?」
「そうなります。でも最初に話したときはあんな雰囲気はなかったんです。もっと大人しくて…」
「…」
少しの静寂が訪れる。それほど相手側からしたら衝撃的なことだったのだろう。
その時だった。後ろから声が聞こえた。
「みーつけた」
聞き覚えのある声、俺たちがここに来たときに聞いた声。背筋が凍るように、悪寒が体を蝕んでいく。体は前回と同様で動かない。だが声の方向は今回は裕司の目線の先だ。裕司はゆっくりと目だけをその声の方向に向けようとする。瞬間だった。裕司の片目が破裂した。血飛沫が舞う。全員の顔から血の気が引く。全員視線を下にやる。足音が聞こえてくる。近い。
「ねぇ、もっとあそぼーよ」
声はさっきとは比べ物にならないぐらい近い。呼吸が荒くなる。死を間近で感じ取ってしまう。それほどまでの恐怖。得体の知れない恐怖はさっきの追いかけてきたやつ以上だ。
「そーだなー。じゃあ、雪お兄ちゃんと夏海お姉ちゃん、薫お兄ちゃん。屋上で待ってるね?そこでたくさんあそぼ」
そういうとその声の主は消え去り、体も動く様になる。すると薫たちは一斉に嘔吐した。龍二もだ。冷静なのは俺と夏海、そして裕司だけだ。俺は裕司に近づく。
「大丈夫か?」
「ああ、モーマンタイよ!」
「そんなわけあるか!ほら、止血はしてやる」
俺は自分の下着を脱ぎ、破り、布がわりに裕司の目を止血していく。だが俺は素人だ。そんな綺麗にはできない。だが不思議なことに裕司の血は徐々に治っていった。
「あれ、なんでだ?」
「…わからん。でもよかったな。で、何か見えたか?」
「んや。何も見えなかった。足元だけは見えたが、見えた瞬間、パンッだったからな」
こんな状況でも元気でいられるのは才能だな。




