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波乱③

 次の日、姫乃の姿は教室に無かった。いつも通り遅刻ギリギリの時間に滑り込んだ玲奈は、隣に居るはずの姫乃が居なくて心底驚いた。それにクラスメイトが何やらこっちを見てひそひそと話をしている。

 朝のホームルームで杉本に、「今日は筑比地さんは体調不良で休みなー」と言われ、玲奈は心配になった。転校の疲れが出てしまったのだろうか、少ししつこく絡みすぎたのだろうかと玲奈が考えていると、玲奈の机の周りを件の3人組が取り囲む。


「何? なんか用?」

「せっかく嘘つきを教室から追い出したのに、なんでお前学校来てんの? もしかしてあいつから連絡来てないの?」

「は? なんのこと?」

「わーかわいそ。ほんとに表面だけの薄っぺらい友だちごっこだったんだ」

「あいつって姫乃ちゃんのこと?」

「そうに決まってんじゃん」

「他に誰がいんの?」

「姫乃ちゃんに何したの?」

 

 玲奈が声を低くしてすごむ。それでも3人組はニヤニヤと玲奈を覗き込む。


「何かしたのはあいつだろ? みんなのこと騙して、自分はお金持ちのご令嬢ってこと隠して、おまけに前の学校では人を階段から突き落としたんだぜ? そんな奴このクラスに要らねぇだろうが。だから学校来んなって言ってやったんだよ」

「は?」


 そんな話、確かに玲奈は聞いていない。でも姫乃がわざと人を突き落とすような人間には思えないし、親が金持ちなのがなんだ。玲奈はクラスを見回した。


「あんたら、それで朝からひそひそ話をしてるってわけ?」


 誰からも返事が無い。


「姫乃ちゃんが訳も無くそんなことする人間じゃないのはみんなだってわかってんじゃないの!?」

「……でも」

「あのT-コラボレーションの社長なんて一言も聞いてなかったし」

「隠してたのは本当だよね」

「あぁぁぁもう! 本人から直接聞いたのかって言ってんの!!」


 玲奈は怒鳴った。それでもクラスの雰囲気は変わらない。嫌な予感がした。3人組はずっと変わらずに下品な笑顔を玲奈に向けている。他にもこいつらは何かやっていると姫乃は直感した。


「パパ活してる人間の話なんて誰も聞くわけないじゃん。いくら学級委員長と言ってもねー」


 その瞬間、玲奈の中で何かが切れた。


「そうか……。中学の時にその噂流したの、お前か」


 いつもの玲奈とは違う冷たく低い声と雰囲気に、一瞬3人組が怯む。クラスの温度が一気に下がった。


「な、なんのことだか」

「あたしがパパ活してるって噂流して学校に居づらくさせたのはお前だなって言ってんだよ」

「証拠も無いのに何言ってんの?」

「犯人はすぐ証拠って言う。ほんとにやってないならまず否定する」

「ふ、ふん。すぐに先生がその噂は嘘だってみんなに説明して収まったじゃん。まさかなにー? 先生のことも誘惑したとか?」


 その瞬間玲奈の手はリーダーの顔を殴りつけていた。リーダーは鼻血を出して倒れる。玲奈は机に掛けたばかりのカバンを持って、机を思いっきり3人に向かって蹴り飛ばしてから教室を出て行った。後ろから、「何しやがる!」と怒鳴る声が聞こえたが、後のことなんて何も考えていなかった。

 職員室に行った玲奈は杉本を見つけると、「今日はもう帰る。川島のことを殴った。どんな処分も受ける」とだけ言って走って学校を出た。先生が何か言っていた気がするが、玲奈はすべてから逃げるように走り続けた。


——姫乃ちゃんに、このクラスの人間はいい奴だと言ったのに。星見会にも誘ったのに。自分は何も知らなかった。学校に来られなくなる辛さは誰よりも知っているはずなのに。


 玲奈はひたすらに走った。走って走って、そして気づいた。


「あたし、姫乃ちゃんの家知らないや」

 その日の昼休み、星見会の昼食会も空気の重いものとなっていた。美代と沙代が昨日の出来事を優紀に話したのだ。


「そんなことが……。やはり、エアリーは星蘭学園からの転校生だったんだな」

「アクア先輩知ってたんですか?」

「まぁな。身内に関係者が居るんだが、この前家に来た時にぽろっと言ったんだ。『お嬢様学校から転校生が来る』って。ここら辺でお嬢様学校と言ったらそこしかないだろう? まさか自分に縁ができるとは思ってなかったが」

「関係者の話初耳ー。どういう人ですかー?」

「ん。まぁいろいろだ」

「アクア先輩も隠し事ですかー?」

「隠し事ってほどじゃないが、あまり人に言わないでくれって言われてるんだ。勘弁してくれ。それにしてもレオはどうした」

「何かあったのかなー」

「どうだろー。20分休みに職員室に行ったらなんか先生たちがてんやわんやしてたけど」

「うーん、もしかしたら何かあったのかもしれん。あとで連絡を入れてみるか」


 こうしてお昼の集まりは重い空気のままチャイムの音で強制終了となった。優紀は岩を背負ったような気分のまま午後を過ごし、家路についた。

 なんとか家に着くと、玄関には真新しい女性物のパンプスが置かれていた。帰ってまず最初にそれを見てしまった優紀は、眉間にシワを寄せる。


「ただいま」


 優紀の声にはなんの反応も無く、代わりにリビングから楽しそうな笑い声が聞こえる。どうやらテレビゲームをしているらしい。最近妹たちがハマっているカーレースのゲームだ。妹たちの声に混ざって、大人の女の声が聞こえる。


「ただいま」


 リビングに入って、もう一度優紀は言う。


「あ、おかえり! ごめんね気づかなくて」

「ねぇちゃんおかえりー」

「お帰りお姉ちゃん」

「見て見てー! るり1番とったー!」


 妹たちに囲まれた女は、何も違和感なくそこに居座っている。本来であれば優紀の場所だったそこに、急に割って入ってきた女。父の交際相手だ。

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