始まりの出会い⑥
「受験って言われてもなー。アクア先輩はどうするんですか?」
姫乃が来てから2週間ほどが経った星見会のお昼の集まりで、玲奈が優紀に話を振った。優紀は3年生。まさにこの夏から受験本番の当事者だ。しかし優紀の返事は芳しくなかった。
「うーん。正直、まだ何も決めてないんだ」
「えー! アクア先輩みたいに優秀な人でも決められないなんて! 万年赤点ギリギリのあたしじゃどうしようもないよぉ」
「赤点ギリギリだったんですか……」
「レオ先輩いつも補講受けてるよねー」
「受けてるー」
「いつもじゃなぁぁい! そういうピースとシーズはどうなのさぁ!」
「ピースは中間2位でした」
「シーズは5位だよ! ピースに負けちゃったぁ」
「ぐぬぬ……頭いい人しかおらんのかこの会は……」
「エアリーも勉強が得意なのか?」
「たまたま前の学校の授業が先に進んでいただけです。レオさんも教えればすぐに理解してくれるので、次の期末は大丈夫ですよ!」
今にも溶けてしまいそうな玲奈を見て、優紀が膝をポンと鳴らした。
「よし。夏休み中、星見会で勉強会を開こう!」
「え……えー!!!!」
全員の絶叫が旧棟に響き渡った。「そんなにイヤか?」と優紀は言った。驚きはしたものの、全員嫌そうではないのが姫乃にとって心地いい。
「私は受験勉強としての復習もできるし、人に教えれば脳に定着もしやすい。下の学年の勉強を見ればレオもどこが苦手なのかわかりやすい。エアリーにとっても、私たちをよく知ってもらう良い機会になると思うが」
優紀は楽しそうにそう言った。星見会の面々は、姫乃に入会するかどうかを聞いてこない。姫乃はそれが申し訳なくもあり、有難くもあった。ただでさえ公立の学校に転校するときに両親と軽く揉めたことを考えると、親の意にそぐわない人間関係を築くことでまた揉める可能性がある。しかし姫乃はもうとっくに入会する気でいた。それでもはっきりと言い出せなかったのは、面倒な揉め事は起こしたくないという気持ちと、言わなくてもこうしてみんなが受け入れてくれていることに甘えたい気持ちとがあったからだ。入会自体を悩んでいるわけではなかった。
だから、優紀はまだ姫乃が入会を悩んでいると思って、気を遣わないようにそう提案してくれたであろうことが、姫乃の胸を刺した。
「いいですね。みんなで勉強したらきっと楽しいです」
そう言うのが、姫乃にとっての精一杯だった。
ホームルームが終わって、玄関から姫乃が出ようとした時、星見会の双子が声を掛けてきた。
「エアリー先輩、じゃなくて、筑比地せんぱーい!」
「今から帰りですかー?」
姫乃は一瞬ぎょっとした顔をしてしまったが、すぐに笑顔を作る。
「はい。お2人も?」
「そうでーす!」
「先輩、方向一緒なら一緒に帰りましょー!」
突然の誘いに驚いた姫乃を無視して、美代と沙代は姫乃の前を陣取る。姫乃は戸惑いながら正直に話すしかないと腹をくくった。
「そうしたいのは山々なのですけど……迎えの車が来てるんです」
「え!? 先輩車通学なんですか!?」
「かっこいいー!!」
「家の人が心配性で……。あ、お2人の家はどっち方向ですか?」
「「駅の方です!!」」
「そ、そう。それなら私も駅の方に行くし、乗って行きますか?」
「「いいんですか!?」」
「はい。こちらへどうぞ」
ついそう誘ってしまったが、姫乃は内心焦ってもいた。普通の車だし、黒岩も私服で迎えに来てくれているから大丈夫だろうとは思うが、できるだけ関係を崩したくない姫乃は、「何も起こりませんように」と心の中で強く祈った。
そんな姫乃の気持ちも知らず、るんるんで姫乃に着いて行く双子。しかし車に着くと黒岩が深々とお辞儀をして、「お帰りなさいませ、お嬢様」と言ったのを聞いて、2人の足は止まってしまった。
次章『波乱』へ続く




