始まりの出会い③
お菓子の取り合いをしている2人と、そのやり取りを微笑ましく眺めている女子1人。どうやら今日のデザートの取り合いを2人はしているらしい。2つあるのだから1つずつ食べればいいのに、2人とも食い意地が張っている。
最初に玲奈の言葉に応えたのはそのやり取りを見ていた女子だった。軽くウェーブのかかった長い髪が揺れてこちらを向く。
「相変わらずレオは元気だな」
「「レオ先輩こんにちはー!」」
「転校生というのはその子か?」
「うちのクラスに来た、筑比地姫乃さんだよ」
「かわいいー!」
「でもミステリアス!」
「ここに連れてきたということは、例の物を持ってるってことかな?」
「れ、例の物? あ、さっきのストラップ?」
「そうそう! 姫乃ちゃんは牡羊座でした!」
「なるほど。それなら我らが星見会への入会を許可しよう」
「え、え……え?」
矢継ぎ早に話されてわけもわからなくなる姫乃。ウェーブヘアの女子はその様子にきょとんとする。そしてはっとして厳しい視線を玲奈に向けた。
「まさか、説明もしないで連れてきたのか?」
「えへ、へへへ……」
「まったく」
「だって、話したら仲間になってくれないかもしれないじゃないですかぁ」
「強制したり騙したりして入っても楽しくないだろう。ここは星を好きな人が周りを気にせずに共通の話題で楽しむための会なんだから」
「うぅ……ごめんなさい」
「筑比地、さん? だったか。レオがすまない。改めて紹介したいのだが、いいだろうか」
「え、えっと……」
姫乃が悩んでいると、玲奈のお腹がけたたましく鳴った。ここにはお弁当を食べに来たということを姫乃はすっかりと忘れていた。思い出した途端、姫乃のお腹も空腹をしっかりと訴える。
「まずはお昼にしよう。折角だし、筑比地さんも一緒に食べよ。食べながら説明する」
それぞれのお弁当を広げて、「いただきます」とみんなで言って食べ始める。姫乃はそれぞれのお弁当をさりげなく観察してから自分の分を広げることにした。
玲奈のお弁当は肉と卵焼きがたっぷり入ったタンパク質たっぷり弁当。野菜は申し訳程度のタマネギくらいしか見当たらない。全体的に茶色い。
ウェーブヘアの女子のお弁当は玲奈と反対に野菜とお肉がバランス良く入っていて、彩りもいい。つい一口ちょうだいと手を伸ばしそうになる。特に唐揚げがおいしそうだ。
お菓子の取り合いをしていた2人は同じお弁当箱を使っていた。お弁当箱には3色そぼろがぴっちりと詰まっている。別のタッパには果物も入っていた。果物も持ってきているのにお菓子の取り合いをしていたのかと、姫乃はその胃袋に内心目を丸くした。
姫乃は隠すようにして自分のお弁当箱を開けた。お弁当は飾り切りが施された野菜たちとふっくらとしたハンバーグ。それに3色ゼリーだ。金粉付きの。
隣に座っていた玲奈が姫乃のお弁当を覗き込み、「豪華ぁ!」と声を上げた。姫乃の隠蔽虚しく、一同が姫乃のお弁当を覗き込む。姫乃は顔から火が出る思いだった。
「随分とお洒落なお弁当だな。すごくおいしそうだ」
「筑比地先輩のゼリーきれいー!」
「なんだかとってもお高そー!」
「た、たまたまです。今日はほら、転校初日だから……」
姫乃が言い淀んでいると、玲奈が目を輝かせてウェーブヘアの女子のお弁当を覗き込む。
「アクア先輩の唐揚げ、今日もおいしそー! 1個貰ってもいいですか!?」
「レオにはこの前やっただろ! 今日はダメだ!」
「えー」
「それよりも、食べながらみんなの紹介と、この会の説明をしよう。昼休みが終わってしまう」
「あ、時間やば!」と言って玲奈はお弁当を口に頬張り始めた。それを合図に全員で食事を開始する。
「私は3年の藍沢優紀。私がこの会を作ったから、実質私が会長。そっちの双子は1年の真壁美代と沙代」
「美代でーす」
「沙代でーす」
「2人は二卵性の双子で、顔は似ていないが性格は双子らしくそっくりだ」
「ピースとシーズは髪型もボブでお揃いにしてるもんね」
「レオ先輩は一言余計でーす!」
「でーす!」
「よろしくです」と揃う声。確かに笑うと目元はそっくりだ。
「レオは同じクラスだし大丈夫だな。さてこの会についてだが、ここはあんまり上下関係とか気にしないで、みんなで好きな星とか宇宙の話とかを楽しむための会なんだ。たまに夜に集まって星見なんかもしてる。だから筑比地さんも、もし星が好きなら仲間になってくれると嬉しいな」
「あ、ありがとうございます。あの、ずっと気になってたんですけど、皆さんがさっきからそれぞれを呼んでる名前は、あだ名ですか?」
「あぁ。この会だけの秘密の呼び名だ。それぞれの星座の名前から取ってるんだ。雰囲気出るだろ?」
「じゃあ……木崎さんは獅子座だからレオ?」
「そうだ。私は水瓶座だから、アクア。美代と沙代は魚座だから、美代がピース、沙代がシーズ」
「なるほど」
「筑比地さんはストラップを見るに牡羊座だから……エアリー、かな」
アクアと呼ばれる優紀はふふふと笑う。心からの歓迎の意を込めて。双子や玲奈も賛同した。
「いいね! 姫乃ちゃんにぴったり!」
「エアリー先輩、すごくいいです!」
「レオ先輩と違ってお淑やかな感じ!」
そう言った沙代に玲奈は、「なんだってぇ!?」と襲いかかる。「きゃ~」と棒読みで言う沙代と、「シーズやっちゃえー!」と茶化す美代。
姫乃は少し迷っていた。それを感じ取った優紀は、口に入れていた唐揚げを飲み込んで、残っているもう1つの唐揚げをお弁当箱ごと差し出す。
「私たちが筑比地さんを歓迎している証拠に、この唐揚げをあげよう」
「あ! アクア先輩の唐揚げ!」
「シーズも欲しいです!」
「ピースも!!」
「ダメだ。これは筑比地さんが貰って然るべきものだからな。レオが無理矢理連れてきて悪かった。その詫びだと思って貰ってくれ。入るかどうかはじっくり考えてくれればいい」
「はぁ……ありがとう、ございます」
「無理矢理じゃないですぅ」
玲奈が小声で反論したのを、優紀は聞き逃さなかった。
「次からはきちんと説明してから連れてくるように」
「うっ。はぁい……」
優紀は姫乃のお弁当の中に唐揚げを入れる。姫乃は手を付けないのも悪いと思って、すぐにその唐揚げを口に入れた。
「美味しい……」と言って目を丸くした姫乃を見て、優紀は満足そうに目を細める。妹たちも飛びついてきてあっという間に無くなってしまう、自慢の唐揚げだと優紀は鼻を高くした。
お昼休み終了の時間が迫っていたので、全員慌ててお弁当を食べ終え、昼の集まりは終わった。それぞれが教室へと戻っていく。優紀は新たな仲間になるかもしれないその背中を見送りながら、言いようのない寂しさを感じていた。




