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ペルセウス流星群の下で③

「絶対の存在だった親の言うことに逆らいたいと思い、親の言う通りになっていた自分を嫌悪した。立派な反抗期じゃないかな。おめでとう、ひとつ大人になったんだ」

「私が、大人に……?」

「そうだ。自分のこと、自分の気持ち、自分の考えをしっかりと持って、自分の世界を作っていく段階に入ったんだ」

「なんか、アクア先輩ってお父さんみたい」


 走り回っていたはずの沙代がちゃっかり姫乃の隣に座っていた。玲奈と美代はまだ戯れている。


「失礼な。せめてお母さんと言ってくれ」

「だってお母さんはすぐヒステリー起こすし、成長しろって言う割に1人でやろうとすると怒るし」

「えー! お父さんなんてぜーんぶ放置の放棄のほっぽりっぱなしだよー。たまに話し掛けてきたと思ったら有難―いお説教だし。お母さんの方がマシだと思うなー」


 また唐突に美代が会話に入ってきた。「お父さんのがマシー!」、「お母さんのがマシー!」と言い合う双子の間を玲奈が割って入ってくる。


「介護押しつけられるよりマシー!!」


 今日一番の大声で玲奈が叫んだ。全員が驚いて固まった後、全員同時に笑い出す。


「こうやって笑い合えるのを、友だちだと呼ぶんだと思う。エアリーは私たちをどう思ってる?」

「私は、みなさんのこと」


 笑い声が静かになって、4人の視線が姫乃に注がれる。姫乃はその視線を、怖いと感じなかった。


「親友だと思ってます!」


 玲奈が勢いよく姫乃に抱きつき、2人は床に倒れた。美代と沙代もその上に被さる。


「お、重いです……」

「あたしもエアリーのこと親友って思ってるよー! まだ知り合ってそんな経ってないけどー!」

「ピースもくっつくー!」

「シーズは乗っかるー!」

「3人ともやめるんだ。エアリーが潰れてしまう。そうなったら黒岩さんがどうするかな?」

「「「はいどきます!」」」


 3人が一瞬で姫乃の上からどいた。優紀はお腹を抱えて笑っている。


「そういうことだエアリー。ここからは、自分がどうしたいかで考えてみてくれ。ここで家出作戦を決行してもよいだろうか?」

「もちろんです! やりましょう!」

「うわお即答!」

「食い気味だったー!」

「お泊まり会だー!」

「あとついでに勉強合宿も一緒にやる」

「「「えー!」」」


 玲奈と美代と沙代のブーイングが重なった。姫乃と優紀は顔を見合わせて笑う。


「家主の許可は取れたし、家出決行日は8月1日。そこからペルセウス座流星群極大日の13日までを星見会合宿とする!」

「「「「ラジャー!」」」」


 家出作戦は夕方までかかって綿密に計画を立てられた。もちろん花野と黒岩も共犯だ。こうして姫乃と玲奈の教室復帰作戦が実行された。

 そして夏休みに入り、作戦は第2段階に突入。それぞれが日常生活を送りながら内密に準備を進め、決行日である8月1日を迎えた。お昼過ぎ、みんなを乗せた黒岩の車が玄関の前に停まる。

 

「みなさん、すごい荷物ですね」

「そりゃあね。色々持ってきたよー!」

「私は主に勉強道具と着替えだが」

「ピースはお菓子持ってきましたー!」

「シーズはゲーム持ってきましたー!」

「おいおい。みんな目的を忘れてないか?」

「荷物重いから黒岩さんが迎えに来てくれてほんとに助かったぁ」

「ふふふ。とりあえず私の部屋へどうぞ」


 姫乃の部屋に荷物を置いて5人はひと息ついた。花野がしっかりと冷えた瓶ラムネを持ってきたので、5人は遠慮無く受け取り、お菓子を広げて乾杯した。

 美代はダイニングテーブルの上に『沙代と家出する』とだけ書いたメモを置いてきた。沙代も、『美代と家出する』というメモを書いてダイニングテーブルの上に置き、祖母には別の手紙を書いて渡して来た。その時祖母は何も聞かずに、「行ってらっしゃい」と沙代に言うだけだった。

 優紀はキッチンに置いてあるコーヒーマシンのそばに、『家出する。友人の家に居るから』と書いたメモを置いてきた。父は朝だろうが夜だろうが必ず食後にコーヒーを飲む。だから夕食後にコーヒーを飲もうとする時には気がつくと踏んだのだ。奏汰にだけ、『明日になったら読んでくれ』と言って別の手紙を渡しておいた。

 玲奈は何日か分の祖母の着替えと食事の作り置きをしっかりと用意してから、弟が部活に行くのと母が機嫌良く出かけたのを見送って、『友だちの家に行く。おばあちゃんのことよろしく』と書いたメモを置いて家を出た。杉本と面談した時にこの作戦のことは話してあるし、3日目になっても親から何も無ければ杉本に連絡を入れる約束になっていた。その連絡を受けて杉本と杉本の知人である役所の人間が真っ先に玲奈の家に行くことになっている。聞けば杉本には福祉課と児童相談所に親しい人間が居るらしい。他にもあらゆる方面に知り合いが居るとかで、全員が思っていたよりも顔の広い教師だということが今回のことでわかった。

 それぞれ不安を抱えながらも、自分たちの意思で大人と戦っているという現実に全員の気持ちが昂ぶる。しかし玲奈の顔だけが急に曇った。


「お祖母ちゃん大丈夫かなぁ」

「さすがにレオが帰って来なければ自分たちでどうにかすると信じたいが……。まぁその為に3日という区切りを設けたんだ」

「そうですよ。万が一の時は杉本先生も来てくれますし、今は合宿を楽しみながら結果を待ちましょう」

「シーズと一緒に居られるの嬉しい!」

「ピースと一緒に寝られるの久しぶり!」

「うん……そうだね」


 その時玲奈は笑って見せたが、姫乃と優紀はその奥に隠した罪悪感を見逃さなかった。

 気分転換にと、姫乃は家の中を案内して回った。1階にあるのはみんなが靴を脱いだ玄関ホール、花野の城であるキッチン、そして食堂室。ランドリールームに書斎、黒岩の部屋、花野の部屋、その他のハウスメイドやSPたちが休んだり泊まったりする為の部屋がいくつか、普通の家のお風呂の10倍はあろうかという広いお風呂、大きな鏡とふわふわなタオルが置かれた広い脱衣所、貴族たちが座ってそうな赤いソファーが置かれた客間、それから何畳あるのかわからないほど広いの和室だ。ここでは茶道の先生と華道の先生が稽古をつけてくれている。床の間には庶民にはなんの為にあるのかわからない壺と、高そうな掛け軸が飾ってあった。


「先生方にみなさんのことをお話ししましたら、ぜひお会いしたいと仰ってくださって。ちょうど明日の午前と午後に来てくださることになりました」

「それはすごい。やってみたいとは思ってたんだ」

「お花に茶道かぁ。あたし正座苦手なんだよなぁ」

「あの、それってお高いんじゃ……」

「そんなにお金、持ってきてないです……」

「あぁ! 大丈夫ですよ! みなさんが滞在中の費用は全て筑比地家が出します。みなさんの食事も花野さんが用意してくださいますから心配しないでくださいね。何かあれば黒岩さんが対応してくれます」

「いやいや。さすがにそれは申し訳なさ過ぎる」

「ちゃんとお金出すよ!」

「いいんです。私がそうしたいんです」

「しかし……」

「ごちそうさまでーす!」

「お世話になりまーす!」

「2人とも遠慮無いなぁ。ま、エアリーがいいって言うならあたしも甘えちゃおうかな!」

「甘えてください! 私や黒岩さんや花野さんから、みなさんへ感謝の気持ちです」

「そんな大層な感謝をされるようなことしてないんだがなぁ」


 最後まで渋っていた優紀も、姫乃の押しに負けて全面的に甘えることになった。


みなさんはどんな反抗期でした? 私は、ひたすら顔を合わせない、会話をしないという反抗でした。(作者)

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