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家出大作戦⑩

 杉本は長く息を吐く。吐ききって、玲奈と目を合わせて言った。


「家事もお祖母さんの介護も大変だっただろう。苦労した分、必ず幸せになるから。だから、これからは行政を頼ろう。親御さんにも然るべき対応をしていきたいと思ってる。いいか?」


 玲奈は静かに頷いた。杉本が話を続ける。


「まずは現状調査が必要だな。不審がられないように配慮はするが、家庭訪問をしたいと思ってる。都合の良さそうな日はあるか?」


 その質問に答えたのは玲奈ではなく、姫乃だった。


「そのことで、少しご相談があります」


 姫乃がにっこりと笑って言う。黒岩の笑顔と似ていると玲奈は思った。姫乃もきっと、怒らせたら怖い。

 そこから1学期の終業式まで、特に大きな問題無く終わった。強いて言えば玲奈が期末試験で赤点ギリギリを取りまくり、夏休みの宿題がたんまり出たことくらいだ。玲奈はまだ、介護と家事に日々追われていた。

 それでも以前と違って、クラスメイトが勉強や宿題、授業で用意する物の準備に積極的に協力してくれるようになった。朝に玲奈の家まで迎えに行く生徒も居たし、放課後は玲奈の家で家事を手伝う生徒も居た。佐々木も部活が休みの水曜の放課後に玲奈の家に行って、玲奈の祖母の話し相手を担うようになっていた。その間に玲奈が家事を片付ける。姫乃も一緒に行って、玲奈と佐々木の賑やかなやり取りを微笑ましい気持ちで眺めながら着替えの片付けなんかを手伝っていた。

 

「佐々木君は、どうして玲奈さんのお手伝いに? 部活も忙しいでしょうに」


 一度、姫乃は佐々木に聞いたことがある。佐々木は剣道部の副部長で、3年が引退したら部長を任されることも決まっていた。大会でも毎回上位入賞する強い奴だと、玲奈から聞いたのだ。


「別に」


 佐々木はぶっきらぼうに答える。


「信じるって言っといて何もしないってのは違うなって思っただけだよ」

「そうなんですか」

「あ、あとあれだ! 俺んち、じいちゃんもばあちゃんも居ねぇから、どんな感じなのかなって気になっただけだよ!」


 気になっただけで続けられるほど、認知症の老人の相手は容易いものではないが、佐々木は毎週欠かさず来ている。これを機に玲奈と連絡先も交換したらしく、夏休み中も手伝いに行くと言われていると、玲奈が困ったように姫乃に相談してきた。

 今は部活で帰りが遅い弟も夏休みになれば家に長く居る。異性が頻繁に家に来ていると弟から親に伝われば面倒なことになるだろうと玲奈と姫乃の意見は一致し、玲奈は佐々木に丁重にお断りの返事をした。返ってきたのは、『わかった。何かあったらすぐ連絡しろ。ゴリラ女だけじゃ心配だからな』というメッセージだった。それを読んだ玲奈は散々文句を言う。姫乃は呆れてため息をつきつつ、それを笑顔で聞いていた。

 そうして迎えた夏休み。作戦2が始まった。


次章『ペルセウス流星群の下で』に続きます

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