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家出大作戦⑦

 優紀は少し気怠そうに笑って言う。それに対して反論したのは双子だった。


「アクア先輩は何も悪くないじゃないですか!」

「そうですよ! その女が先輩の家の輪を乱したんです!」


 驚いた優紀は目を丸くしたが、すぐに優しい顔に戻る。


「ふふ。奏汰にもそう言われたよ。すぐ下の妹なんだ。私の唐揚げを誰よりも美味しそうに食べてくれる、いい奴だ。少しレオに似ているかもな」


 優紀は天井を仰いだ。零れそうになる涙を一心に引っ込めようとする。しかし、涙が次から次へと溢れてきて止まらなかった。


「今、私の家はその女が中心になっている。この前、父からは再婚したいと言われたよ。死んだ母のことも私のことも置き去りだ。もう、私は用済みなのさ。だから、いっそ遠くの大学を受験しようかとも思ったんだが……」


 優紀が言葉に詰まる。4人はなんと言ったらいいのかわからず、そのまま優紀の言葉を待った。


「……やはり奏汰のことが気にかかってな。口が悪くてぶっきらぼうだが、可愛い奴なんだ。その女のこともあまりよく思っていないし、心配で。でも私のメンタルも結構限界で。いっそしがらみなんか全部捨てて自由になれたらって思っていたんだ。星見会ももう無くしてしまおうかと思うくらいに」


 優紀の欲する自由は、子育てに苦悩する母親が言うそれと同じだった。その顔は紛れもなく母の顔だ。子供への愛と自身の心を天秤になどかけられないという、深い愛の苦しみだ。


「あの、これはひとつの提案なんですけど」


 沈黙を破り、徐ろに沙代が口を開いた。


「いっそ、お試しで家を出てみるのはどうですか?」

「え?」

「アクア先輩は人に気を遣ってばかりで、自分のことは後回しにしすぎなんですよ」

「うちの母親なんてほら、しょっちゅう家出してましたし」

「そうそう。で、息抜きしたら帰って来る」

「でも、そんなことしても……」

「わかります。その女が居れば自分が居なくても誰も困らないって思うんですよね。それはそれで辛いって」

「……」

「だから、『お試し家出』です」

「お試し家出?」


 沙代の『お試し家出』という言葉に優紀がピンと来ていないという顔で首をかしげる。玲奈と姫乃も顔を見合わせている。


「んー。家出して、本当に自分が居なくても家族は困らないのか、それとも困るのか。それを見ればこの先のこともなんか見えてくるかもしれないなって」

「離れ離れになればわかることもありますし。うちらみたいに」


 双子はお互いを見て、俯いてしまった。確かに喧嘩ばかりな2人だが、お互いがお互いの良き理解者であり、半身でもある。自分たちの意思とは関係無く引き裂かれるつらさを思えばこそ、自分の意思で離れるかどうかを決めたらいいと、2人は優紀に伝えたかった。

 2人の様子を見ていた優紀は、「そうだな。考えてみるよ」と静かに微笑んだ。実際優紀自身、何度も家出は考えていた。ただ、それを実行に移す勇気が出なかった。現実を思い知らされるのが怖かったからだ。

 全員が自分の秘密を話し終えたところで、ちょうどデザートも終わってしまった。姫乃が空気を変えようと、「みなさんも展望室に行きませんか? レオさんもとっても気に入ってくださったんですよ」と提案した。玲奈が、「ほんとにすごいんだよ! ちょーすごいの!」と騒ぐお陰で、反対する者は1人も居らず、全員で展望室へとやって来た。

 初めて展望室にやって来た3人は呆然と立ち尽くし、2度目の玲奈は、「やっぱりここ好きー!」とはしゃいでいた。


「こ、これは一体……」

「お金持ち……」

「すごー……」

「あ、あの……決して自慢とかではなくて……」

「あぁ。もちろんわかっている。レオの言う通り『ちょーすごい』部屋だな、ここは」

「でしょー! もうあたしここに住みたいくらい! 見て見て! この天井全部開くんだよ!?」

「レオ先輩の家じゃないですよー!」

「ですよー! エアリー先輩の家ですよー」

「ふふ。いいんです。気に入っていただけて嬉しいです」

「で? 私たちをここに呼んでおしまいってわけじゃないんだろ?」


 優紀の鋭い質問に姫乃と玲奈が固まる。姫乃2人は顔を見合わせて、不安そうな顔をする姫乃に玲奈が頷く。姫乃もそれに応えるように小さく頷き、3人に言った。


「う、うちで、流星群の観測会をしませんか!?」

「え!?」

「ここで?」

「ですか?」


 3人が目を見開き、なんと言ったらいいかわからないというように口を開けたままになっている。姫乃が慌てて説明を繋ぐ。


「じ、実は! 父の知り合いに星の観測や写真を撮ってる人がいるんですけど、あの、私も星が好きなので仲良くしてもらってて。その人の話では今年のペルセウス座流星群でかなりの数の星が流れるんじゃないかと……」

「な、なるほど。それはぜひ見たいな。もしかしたら流星嵐というやつになるかもしれない」

「流星嵐?」

「流れ星が少なくとも1時間に千個以上流れて、まるで雨のように降り注ぐ流星群のことだ。流星雨とも言うな」

「それなら願い事言い放題じゃん!」

「ピースそれ見たいです!」

「シーズも!」

「その前にまず確認しておきたいことがあるんだが」


 優紀が姫乃に詰め寄る。


「エアリーは星見会に入会するということでいいんだな?」


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