家出大作戦④
――ようやく玲奈から優紀の携帯に返事が返ってきたのは、深夜0時近くになった頃だった。眠れなかった優紀は、明日は土曜日だしと無理に眠ろうとせず、英単語のCDを聞き流しながらベッドの上でボーッとしていた。
イヤホンから唐突にメッセージアプリの通知音が鳴り、慌てて見てみると星見会のグループチャットからの通知だった。
『日曜のお昼の12時に東森公園に集合してください。お話ししたいことがあります(筑比地)』と書かれたメッセージが玲奈のアカウントから送られてきていた。まだ正式入会ではなかったから招待していなかったのだが、何か2人の間にあったのか。
個人チャットの方には玲奈からの返事が入っていた。『返事遅くなってすみません。なかなか体が空かなくて。今日学校でちょっとやらかしちゃって、あたしからも話したいことがあるので日曜日会いたいです』と書かれていた。優紀は、『わかった。日曜日必ず行く』と返事をして、無理矢理眠りについた。
約束の日曜日の12時。優紀が指定された東森公園に着くと、すでに姫乃と玲奈が待っていた。美代と沙代はまだ姿が見えない。
「すまない。待たせてしまったか」
「全然です! あたしも今来たところで!」
「ピースとシーズはまだか」
「はい。できればみなさんに聞いてほしいので、もう少し待ってもいいですか?」
「もちろんだ」
「昨日、行くって返事くれたから、たぶん来ると思うんだけど……」
3人のその様子を双子は影から見ていた。姫乃のことと玲奈のことを3人組から聞いて、その真偽はどうあれ自分たちのこともこれを機に全部話した方がいいと、姫乃からのメッセージを読んだ後散々話し合った。
しかしいざ話そうと思うと勇気を出せず、約束の30分前から居るというのに一番最後になってしまったのだ。余計に出て行きにくい。「どうしよう」と美代が顔を青くする。「行くしかないよね」と沙代が先に集まっている3人を見ながら言った。
「でも怖いよ」
「でも自分のことだけ話さないってのは」
「うん。平等じゃないよね」
「やっぱり行こう」
「行くしかないよね」
沙代の後ろに美代が隠れるようにして、双子が3人と合流した。美代の方が姉ではあるが、沙代の方がこういう時思い切りがいい。
「お、遅くなりましたー」
「なりましたー」
「よかった! 来てくれたんですね!」
「私も今来たところだ」
「う、なんか緊張してきた」
「レオが緊張するような話なのか。金曜日に何かあったのか?」
「立ち話もなんですから、みなさん私の家に来ませんか? そんなに遠くありませんから」
優紀と美代と沙代が目を合わせて固まる。この反応は姫乃と玲奈にとって予想通り。金曜日のことを双子が優紀に話していることは予測済みだ。すかさず玲奈がフォローを入れる。
「実は、あたしは金曜日にもう上がらせてもらっててさ。ピースとシーズはもう巻き込まれちゃってるし、その辺の話もゆっくりしたいんだ。ここだとほら、人の目もあるし」
日曜日のお昼時の公園は、たしかに人で賑わっていた。3人は頷き合って、姫乃の家に行くことを了承した。
駐車場に行くと転校初日に姫乃が乗っていた車よりも豪華なリムジンが鎮座していた。公園の駐車場にリムジンが止まっているというのはなんとも場違いで目立っている。何人もの通行人がリムジンを見て静かに驚いていた。
姫乃はそんなもの気に留める必要は無いというように堂々とリムジンに近寄る。黒服の男が、「お帰りなさいませ、お嬢様。ご友人方もこちらへどうぞ」と言って車のドアを開けた。全員が呆気に取られる。
「あ、あれ? 黒岩さんは?」
玲奈が姫乃に尋ねる。
「黒岩さんは今ちょっと所用で外しておりますの。でも今日か明日にはきっとすべて片が付いて戻ります。さ、みなさんどうぞ」
姫乃以外の4人は人生初のリムジンに恐る恐る乗り込んだ。傷1つでも付けたら修理費がえぐいことになるぞと、それぞれが体を強張らせる。姫乃は、「緊張しなくて大丈夫です。この車も普段使い用の物ですから」とさらりと言ってのけた。もう隠す必要が無いと判断した姫乃の振る舞いは、まさにお嬢様のそれだ。
剛健な門と監視カメラが構える城のような姫乃の家には20分足らずで到着した。3人の口が開きっぱなしになる。姫乃が構わず玄関を開けると玲奈の時のように花野が賑やかに出迎えてくれた。花野と一緒に美味しそうな匂いもやって来る。
「この匂い、もしかしてケーキ?」
優紀が目を見開く。
「はい。みなさんにお配りしたケーキもすべて、花野さんが作ってくれているんです」
こうしてまた花野の特製フルコースを食堂でお腹いっぱい食べた5人は、そのままデザートを食べつつ話をすることにした。今日のデザートはにんじんのパウンドケーキと生チョコタルトだった。どちらも姫乃の大好物。温かいストレートティーを飲みながら食べるのが姫乃のお気に入りだ。
優紀もその味に感動したようで、しきりに花野にレシピを聞いていた。あまりに優紀が熱心に聞くものだから、「次いらっしゃる時までにいくつかのレシピを書いた紙を用意致しますね」と花野は嬉しそうに言った。花野の料理を食べてしまったら、どこに外食してもきっと満足できなくなる。花野の料理はそのくらい美味しい。




