家出大作戦③
学校には姫乃と似たような境遇の令嬢が集まる。気軽に話したり遊んだりということもできず、むしろいかにして相手を蹴落とすかという世界だった。姫乃はなんとかみんなと仲良くしようと努力したが、逆にそれが反感を買い、いじめへと発展していった。
中でも姫乃を目の敵にしたのがバレーボール部キャプテンの伊沢という女子だった。伊沢の両親は共にバレーボールのオリンピック出場選手で、優勝も何度も経験している。伊沢本人も注目選手としてすでに強化選手のリストに入っていた。
学園自体がスポーツにも力を入れていて、日本に留まらず世界でも有名な指導者を雇っていたり、外部コーチとして招いたりしている。設備も豪華。だから有名スポーツ選手は自分の子どもをこの学園に入れたがる。関西には男子学園があると入学時に教師から説明があった。
オリンピック優勝経験者という伊沢の両親からの個別特訓は、一般人の比にならないレベルのものだったのだろう。伊沢はその鬱憤を晴らすかのように学園内では威張り散らし、手下を何人も従えていた。
ある日の体育の授業でバレーボールをしていた時、伊沢の真横に姫乃がアタックを決めてしまった。本当に偶然で、姫乃自身も驚いてしまったほどだ。それが伊沢の地雷だった。次の日から、手下たちを使った伊沢からの報復的ないじめは過激さを増していった。
「そしてこの前……4月の終わり頃ですね。伊沢たちに呼び出された私は、階段から突き落とされそうになりました」
「何それ! 下手したら姫乃ちゃん死んじゃうじゃん!」
「はい。私は無我夢中で抵抗して……気づいたら逆に伊沢さんを突き飛ばしていたようなんです」
そして階段下まで落ちた伊沢は全治3か月の怪我をした。今年の強化選手リストからは当然外される。それに怒った伊沢の両親が学園に怒鳴り込み、姫乃の両親を呼びつけた。
姫乃の両親は事前に姫乃からの話を聞くも、毛ほども興味が無いというように話を中断させ、自分たちで雇っている調査員の報告書を読み、両親だけで学園へ行った。
そこでどんな会話があったのかは姫乃は知らない。ただ、『全員このことは他言無用とする』、『筑比地姫乃の転校』を条件とした示談の書類を学園から帰ってきた両親に投げつけられ、「これ以上筑比地家の恥さらしになるなら出て行ってもらう」と姫乃に冷たく言い放った。両親にとって自分は傀儡でしかない。自分たちの思い通りに動くか、否か。存在価値はそれだけだ。姫乃はその時にはっきりそう感じた。
「そんなことがあったんだ……」
「はい。ですから、私からは話せなかったし、家のことも……あまり話す気になれず。どうしたらいいかわからず、今日は学校を休んでしまいました」
「そりゃそうだよ。川島も、その伊沢? って奴も頭おかしいもん」
「でも、私は玲奈さんの居るクラスに転校できて良かったと思っていますよ。なんだか、やっと息ができた気がします」
「うん。あたしもそんな感じ。あぁぁスッキリした! やっぱり話は本人から聞かないとね!」
「玲奈さん……本当に、ありがとうございます」
姫乃は深く深く頭を下げた。自分が焦がれていた友人という存在はこんなにも心強いものなのだと知り、今まで堪えていたたくさんの感情が溢れ出てきそうだった。それを見た玲奈は、「友だちを信じるのは当然じゃん!」と胸を張った。
姫乃は顔を上げ、お礼にと玲奈を自宅の展望室に誘った。展望室と聞いてきょとんとしていた玲奈は、その部屋を見て腰を抜かした。およそ個人宅所有の展望室とは思えない豪華設備は、星好きの『ツボ』を余すこと無く押さえた部屋だったのだ。
自動開閉付き全天型ドーム、最新鋭のプラネタリウム、本棚には最新の宇宙関連雑誌や書籍、幼児用の宇宙絵本や図鑑まで揃い、大きな望遠鏡も据え置かれている。何よりも夜空を模した内装には星好きなら誰もが夢見るそれと同じだろう。公共の小さな天文台よりもずっと豪華だ。玲奈が、「ずっとここに住みたい!」と目を輝かせて姫乃に抱きつく。
壁には綺麗な夜景や星の写真がきちんと額装されて飾られている。すべて姫乃が撮ったものらしい。
「星の写真を撮るのが好きなんです」
そう言って姫乃ははにかんだ。そして姫乃は以前飲み込んだ思いつきを玲奈に提案した。
「うちで、流星群の観測会をしませんか? 星見会のイベントとして」




