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家出大作戦①

 ——数時間前。学校を飛び出した玲奈は家に帰りたくもなく、かと言って姫乃の家を知らないのでぶらぶらと町を彷徨っていた。朝早い時間に学校を飛び出してしまったこともあり、商業施設やゲームセンターに行くことははばかられる。何より普段から学校と家以外で外に出ると言ったら星見会の集まりくらいだった玲奈には、行き先の当てが無かった。

 公園を見つけてはベンチに座ってボーッとし、通行人に変な目で見られたら退散するという、どう見ても怪しい高校生状態でお昼の12時を迎えた。さすがにお腹が空いた玲奈はコンビニに寄り、パンを1つ買う。財布にはもうほとんどお金が残っていない。ファミレスに寄る予算も無い自分の惨めさに涙が出てくる思いだった。おまけになんとか入った高校で暴力沙汰を起こしてしまっては、学校にも居られないかもしれない。

 勉強もできず、部活にも入っていない自分を庇ってくれる先生は居ないだろうなぁと思いながら、玲奈は買ったパンを公園で食べた。どうしてこんなに惨めな思いをしなくてはならないのか。何をしたというのか。少なくとも、パパ活だなんだと言われる筋合いは無い。


「姫乃ちゃんに、メッセ入れてみようかな」


 ずっとそのことを考えていた。川島の話の真偽を確かめるためにも、本人に聞いた方がいい。根も葉もない噂や嘘は時間が経つほどに取り除けなくなってしまう。そうなる前に、玲奈は姫乃から話を聞きたかった。自分だけは味方だからと、直接伝えたかった。


「んー」


 玲奈は悩みに悩んでメッセージを打ち込み、「行ったれー!」と送信ボタンを押した。

30分後、玲奈の居る公園の前に1台のセダンが停まり、中から姫乃が血相を変えて飛び降りてきた。姫乃が玲奈に抱きつく。


「玲奈さん、大丈夫なんですか!?」

「え、うん、大丈夫だよ?」

「だって、川島って人を殴ったって。喧嘩になったならまず病院に」

「あー違う違う。あたしが一方的に川島を殴って、学校飛び出してきたの」

「へ? 玲奈さんが? どうして?」

「……姫乃ちゃん、川島になんか言われた?」

「川島って、もしかして昨日の……?」

「やっぱり。じゃああたしのことも何か聞いた?」

「えっと……」


 言い淀んだことが、イエスという返事だった。玲奈は深くため息をつく。


「あたしらさ、結構一緒に居たけどさ、お互いのことなんも知らないよね」

「……そうですね。すみません」

「謝らなくていいよ! 誰にだって言いたくないことはあるし。たださ……もし姫乃ちゃんが嫌じゃなければ、姫乃ちゃんのこと、いろいろ教えてほしいな。もちろん、あたしも自分のこと話すから」

「……わかりました。ここではあれですし、私の家に来ませんか?」

「え、いいの?」

「はい。玲奈さんなら」

「ありがとう。じゃあお呼ばれしちゃおうかな!」


 そして玲奈はあの剛健な門を潜り、立派な玄関と花野に出迎えられた。花野は姫乃が初めてお友だちを連れてきたと泣いて喜び、「ご飯は食べられますか」と玲奈に聞いて、玲奈の口が返事するより早く玲奈のお腹が音を立てて返事をした。パン1つでは足らなかったのだ。おまけにいい匂いが漂っている。抗いようがない。


「まぁまぁ! 育ち盛りですものね! すぐにできますからちょっと待っててくださいね!」

「では、私はこれで失礼いたします。少々やることがありますので」


 黒岩がさっきまでの朗らかな様子とは打って変わって、顔には抑えきれないほどの怒りを満ち満ちとさせていた。花野も目に鋭さを宿して無言で黒岩に頷いて、キッチンに消えた。それを見た姫乃がため息をつく。こうなった2人は止められない。

 玲奈は姫乃に促されて食堂にやって来た。大きなテーブルと綺麗に飾られた花や絵に驚きっぱなしな玲奈。「まるでお城みたい」と呟けば、「この家なんかよりもっと豪華な家に住んでる人はたくさん居るんですよ」と姫乃が返す。少し気まずく、居づらい空気感が2人の間に漂っていた。

 しかし花野ができたての料理を運んでくると、そんな空気は一変し、部屋いっぱいに美味しそうな匂いが充満する。2人とも体の緊張が一気に解けた。


「お嬢様は昨日から何もお召し上がりになってなくて心配してましたの。なので友人が来るから食事を用意してほしいと言われてホッとしたんですよ。もうたんと召し上がってくださいね!」


 そう言いながら玲奈の前に並べられたのは、チキンステーキ、サラダ、コーンスープ、パン、チキンライス、温野菜にフレンチドレッシングがかかったもの、それからデザートにはチーズケーキとカットゼリー。玲奈にとってはフルコースとも思えるメニューだった。

 姫乃の前には海苔が散らされたおじやと豆腐の入った味噌汁が置かれた。「お嬢様が食欲の無い時にはいつもこれなんですの」と花野が言う。2人同時に「いただきます」と挨拶をして、玲奈はコーンスープをひとくち飲んだ。


「美味しい……」


 そのコーンスープは今まで飲んだコーンスープの中で1番美味しかった。ただ甘いだけじゃなく、コーン本来の味を残しながら、ちょうどいい塩加減と野菜の出汁の匂いがふんわりと喉から鼻へ抜けていく。これだけでご飯が何杯でもいけてしまいそうなほどだった。


「ふふ。おかわりはまだありますからね」


 花野のその言葉に甘えて、玲奈は何杯もスープをおかわりした。チキンステーキも柔らかく、チキンライスは子どもが好きなしっかりめのケチャップ味、野菜嫌いの玲奈がサラダや温野菜をおかわりしたいと思ったし、デザートは無限に食べたいほどだった。夢中になってすべて平らげる頃には、玲奈のお腹ははち切れんばかりになっていた。

花野さんが作ったコーンスープ、飲んでみたいなぁ(作者)

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