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27話

「ユグロコはどうだ?」

「最高ですね。前ももっと楽しめば良かったと思ってます」


 昨日の晩飯も美味かったし、温泉も気持ち良かった。水山の噴水を利用したやつだから温泉と呼べるかは微妙だが、成分が豊富そうなことには変わりない。

 肌に良さそうかどうか、体に良さそうかどうかが大事なのであり、定義に当てはまるかどうかなど些細なことだ。


「それは良かった」

「それで、何の話でしょう?」

「まあ待て。昨日出せなかった茶菓子も用意させてるから」


 アイリスさんが可哀そうなことになってたからなぁ。今のところパウラサは来ていないが、大丈夫なのだろうか。


 しばらく雑談をしていると、アイリスさんがお盆に紅茶とお菓子を乗せてやって来た。


「アイリスさん、昨日は失礼しました」

「いえ、サンケタさんのせいというわけでもありませんので……」


 配膳しながら答えてくれるアイリスさんの後ろに、大型犬ほどのミルスがついて入ってきた。


「あら、そちらの方は?」

「ここらのミルスの代表だな。仲人の相棒でもある」

「なんと。えーと、よろしくお願いします」

「ミャ」


 うん、何言ってるか全然分かんねぇや。とりあえずペコペコしておく。


「アイリスには中々の嫌がらせをしてくれたみたいだからな。流石に放置というわけにもいかん。頼み込んで来てもらった。おかげで、やはり来ないようだしな」

「あー、そういうこと」


 天敵を呼び寄せて近寄らないようにしたわけか。つまりこのミルスはパウラサを一捻り出来るわけだ。おっかない。


「仕事というと微妙なところもある。砕けて話して良いぞ」

「そう言われましてもね」


 ミサキさんは元々この方面の開拓団のリーダーだった人だ。元上司。


 無礼講なんて言葉は、その言葉の存在自体が矛盾していると思ってる。本当に無礼講が出来るなら無礼講なんて言葉はわざわざ使わない。


「今は町長同士だし、普段から対等に話しても良いんだぞ?」

「無理無理。むしろタメ口使う方が気を使いますって。いいから話しましょう。パウラサ抜きで話したかったんですよね?」

「パウラサ?」

「あ、腹黒兎の新しい名前ですね。本人を前にした際の呼び名が無かったので、適当に付けました」


「む……」「ミャ?」「えー……」


 なんだか変な反応だ。


「すまない。これはミルスの話だから関係ないのかもしれないが、名付けはかなり重要なことだからな。それほどの信頼関係にあるのかと驚いてしまった」

「昨日アイリスさんに喧嘩売っといて信頼とか言われても?」


 信頼関係にあるなら少しくらいこちらの頼みを聞いて欲しい。


「どうかと思うが、それはそれということなのだろう。話したかったのも正にそのことだ。昨日お前の横で大人しく座っていただろう?アイリスに喧嘩を売った後だとしても、話に聞いていた態度とは少々違った」


 会話を阻害しなかったし、室内に罠を張り巡らせて行ったわけでもない。


「分かりますが、単にミルスに喧嘩を売らないようにしてるだけとも思うんですよね。それこそ、ミサキさんはそちらの方を呼べるほどミルスと交流があるわけですし」


 アイリスさんを言葉でけちょんけちょんにするのが最大限だったということかもしれない。


「私もその可能性を考えていた。だからこそ確認が必要だと思ったんだが、名付けているのだろう?正直な……」


 ミルスと接しているミサキさんからすると、最大限の信頼に思えると。


「デクルがミルスの派生……あ、ごめんなさいなんでもないです」


 ミルスから怒気が発せられた。シンプルに怖い。一緒にされたくないのだろう。


「そうでなくとも、近い地域に住んでいるし交流もあったわけだから、似通うことや真似ることもあるだろう。固定観念かもしれんが、特別な関係にあるとしか思えない」

「害獣にベタ惚れされた?」

「ということだな」


 何かに利用するためだったり、遊んでいるわけではないと。

 アケミさんも昨日、そんなこと言っていたな。


「俺側からは何度も殺そうとしてますけど……?」

「本気で?」

「全力全開で。直接戦闘はいつものことですし、夜な夜な住処を爆破したこともあります。毒殺を狙ったこともありますよ」

「お前デクルみたいだな……そういうところなのかもな……」


 害獣と似てるだなんてそんな!


「ともかく、お前は恐らくデクルの長にかなりの口が利ける」


 絶対遊ばれてるだけだと思って何とも思ってなかったけど、本当にそういうことになるようだ。


「だとしても、パウラサもその下のデクルも従うとは思えませんよ」

「知性があるのだから都合良くはいかないだろうし、種族特性としても便利に使うというのは難しいかもしれない。が、それでもだ」


 本気で惚れている相手ならば多少は融通をきかせると。


「上手くやれば今までとはレベルの違う指示を出すことができ、従う者もそれなりにいるはずだ。極端な指示をすれば昨日言っていたように新たな長を作られることになるかもしれんが、上手く使えば町を長く存続させることも出来るんじゃないかと思う」



 ◇



 うーむ。

 宿に戻りながらミサキさんとした話を考えるが、あれだけ言われても俺は信じていない。


 何故ならそうやって前町長は殺されたからだ。

 名前うんぬんは知らないが、懐に入りながらも殺すのはデクルの基本だ。ミサキさんもアケミさんも、結局は俺ほどデクルとやり合ってきたわけじゃない。


 アケミさんは結局デクルに甘いし、ミサキさんはミルスに毒されていると言える。普通のモンスターはそんな誠実じゃない。


 それに、名付けはシマにもしている。他にも懐いたデクルに名付けている人なんていくらでもいるし、知性に乏しい個体であってもデクルはその名前を覚えて反応する。

 そしてそのデクルに家族を殺されるのだ。シマの場合は俺自身を狙う。


 デクルにとって名付けは特別なことではなく、とてもミルスと同列に扱える事とは思えない。


 そして仮に特別な意味を持っており本当に好意を持たれていたとして、だ。パウラサが俺のために働いてくれる?全然想像できない。


 ミサキさんのアイリスさんは、そりゃ良い子だろうなと思う。その信頼関係は誰にも侵されないし、絶対のものだ。頼もしい相棒だろう。


 でもこっちはデクルなんだよなぁ……。


 いくら考えても結局はそこで引っかかるし、これ以上は無駄だろう。時間の無駄だと思い、一旦悩むのは切り上げた。



「浮気者!」

「私がいるのに何でですか!やっぱりメシマズはダメですか!?」

「???」


 宿に帰ったら浮気していることになってた。パウラサ的にミサキさんのところにいたミルスが嫌だったらしくアケミさんにあることないこと吹き込んだようだ。


 流石に察しているので冗談の一貫だったようだが、料理の腕については未だに思うところがあるのかちょっとだけ不安になっていたようだ。


 なんであれ、仕事は終わり。後は思う存分旅行を楽しむだけである。 


 邪魔者がいるものの、ミルスの公園を上手いこと利用しつつ疲れを癒やす。

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