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22話

 風俗街から役所へ帰ってから処理などの仕事をして、定時にはアケミさんと共に家に帰る。


「アケミさん下がって下さい」

「え、下がってますけど……はい」


 いつもより距離を空けたことを確認してから、まずはドアノブに掛かっている見えないワイヤーをステッキで触る。


 どこかで何かが動く微かな音。


 すぐにその場を離れアケミさんの元へ行き守る様に立つと、ドアの前に鉄杭の雨が降ってきた。


 石畳に当たり音を響かせながらも突き刺さる鉄杭は、命を奪うために十分な重さと威力があるのが分かる。


「ひぇ……」


 ドア前には戻らず、警戒したまま一分ほど待つ。すると再び鉄杭が降ってきた。


 先ほどとは違って既に刺さっている鉄杭にあたる物もあり、弾き飛んだ鉄杭が足元まで飛んできた。鉄杭を確認してみると遠目には見えにくいが返しが付いており、一度刺さると簡単には抜けないようになっている。


「アケミさん、もうちょっとこっち」

「……」


 言葉もなく従ってくれる。


 鉄杭を拾い、ドア前の横辺り。鉄杭の範囲外へ勢いよく投げる。ガキョッと何かが作動する音が鳴り、鉄杭が括りつけられている木材が地面から半円を描くように飛び出した。ドア前にいたら襲われる構造。

 ほぼ同時に向かいの建物の屋上から真っすぐに複数のチャクラムが発射され、ドアより手前に地面に当たり、跳ねる。角度が良かったのか二本はドアへ突き刺さった。

 ドア前の罠を後方へ避けていたら当たるわけだ。 


 左右セットになっていそうだったので、そちらへも鉄杭を投げると、やはり作動した。鉄杭を使った横からのギロチンといったところだろうか。


 最後に杖を構えながらドアを開け、高速で飛来した物を野球のフライボールのように打ち上げる。飛来物はまたも鉄杭。鉄杭にはワイヤーでチャクラムが結ばれており、勢いが落ちると広がるようになっている。その場を離れて落ちてくるのを待ち、その後に「にゃー」と声が聞こえてきた。


「うわ……」


 チャクラムは自由落下しただけだというのに、石畳を切断している。何か魔法で威力が足されていたのだろう。それを見たアケミさんは怯えている。


「危ないから触らないほうがいいよ」

「頼まれたって触りませんよ……」


 シマはやる気十分だったのに何もできなくて、フラストレーションが溜まっていたのだろう。これで多少発散できたならいいけど。


「掃除しなきゃだなー。今日はアケミさんお願い」

「料理ですね。分かりました」


 シマも道具を回収したいのか、玄関から出てきた。


「消化不良にゃ」

「じゃあ兎でも殺してこい」

「無理にゃ。あーあ、殺して良い丁度良いやつらいないかにゃあ」

「モンスターならいくらでも。デクルを含めて」

「町まで呼んで良いにゃ?」

「やめろ。森でやれよ」

「えー」


 反応の分かりやすい人間相手が良いんだろうなぁ。その点チャンスだったのに、ヘタレばっかりしかおらずガッカリだったわけだ。


「じゃあ少しくらい運動していくか」

「運動は別にいいにゃ」

「ほっ」

「にゃっ」


 拒否の言葉を吐きながらも、反射的に避けるシマ。

 正直俺も消化不良だったから、少し動きたい気分だった。料理のできたアケミさんが呼びに来るまで、片付けをしつつもそうして追っかけっこをして遊んでいた。



 ◇



「ちょっとユグロコ行ってくる」


 風俗街の方が盛り上がり過ぎて、苦情というか説明を要求された。


 他の人間でも良いのだが、素直に謝ることになる可能性が高いので誠意を見せる為にも俺の方が良い。


「にゃんとー」

「そこで、アケミさんにシマを任せようと思うんだが……平気?」

「外泊しましょうシマちゃん」


 即答で諦めた。無理をするよりよっぽど良いけど。

 家でも俺以外には大人しくやれているしそのままなら問題ないのだが、俺がいないとなると我慢出来るかは分からない。


「前と同じようにすれば良いわけですよね?」


 以前も俺がユグロコに行く際には職員たちに預かってもらってた。世話をして欲しいというより、見張っていて欲しいからだ。


 今はアケミさんと同居しているが一人に任せるのは荷が重いかもしれないと確認したところ、こうして断られたと。


 ユグロコにはミルスがいる。シマとは喧嘩になる可能性が極めて高いので、置いていく必要がある。ユグロコに限らず他の町へ連れて行きたいかと言うと微妙だが。


「そのばす。で良いよな?」

「付いていくにゃ」

「ダメ」

「そんにゃにミルスが良いにゃ……?」


 涙目になるシマ。嘘泣きはデクルの標準技能だ。


「俺がミルスと仲良くやれるわけないだろうが」


 向こうは聖獣と呼ばれる事もあるんだぞ。害獣と比べるな。


「えー、だってつまんないにゃ」

「たまには森で遊んだらどうだ。つがいでも見つかるかもしれんぞ」

「どうでも良いにゃ。罠にかかってくれた方がマシにゃ」


 因みにシマの性別は分からない。付いているようには見えないが、モンスターって基本的に使う時以外は無いみたいなんだよね。それどころか性別が無いことも多いって話だけど。


 聞けば分かるかもしれないが、聞くのもなんかキモいなって思う。


「デクルが出産してるところは見た事ないかもしれません」

「そりゃ隠れるに決まってるにゃ」


 同族にすら嫌がらせされそうだしな。


「ともかくシマは頼んだ。困ったらアルマンだ」

「アルマンはアケミの飯と同じくらいにゃんだにゃあ……」

「……精進します」


 どっちも美味しいんだけどね。


「でもリオンよりは?」

「同僚を踏み台にするなよ」


 外では良い奴としか思えないが、家ではどうしようもない類いの人間らしいからな。リオンと比べれば大抵のヤツがマシになる。


 シマ評価で俺以外に評価が高いのはディキンスだったりする。腕で言えばアケミさんと大差ないと思うが、好みが合うらしい。あとは普通に店をやってるところの料理は大抵良い。




「いや、二人で行けば良いんじゃないか?」

「そうよね。たまにはゆっくりして来たら良いじゃない」

「おー、なるほど?」


 仕事だし一人で行くものだと思ってたが、旅行ついでにすれば良いと言われた。最近は他の町にも行ってなかったし、アケミさんと遠出したこともない。


 アケミさんは期待するような目でこちらを見ているが、特に意見は言わない。奥ゆかしいということになるのかな。


「じゃあそういうことにするか」


 一緒に行くとなると、移動手段もマシにしないといけないし少し手間なんだが、それくらいは構わないか。


「しばらくこっちは落ち着いているわけですし」


 いやー、あんまり良くないから呼び出されてるんだけどね。西側は静かなものだが東側はしっちゃかめっちゃかだ。とはいえ俺がいないだけで何か問題があるわけじゃないだろうけどさ。


「となるとシマちゃんは俺が預かるわけだ!」

「ずるい!私も一日くらいは預かるわよ!」

「リオンさんはまず部屋の掃除を……」


 シマを預かりたいだけだったりしないよね?




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