20話
大方の予想通りと言うか、移民は来た。
本人たちに移民というつもりはないのだろうけど、もはや回収するつもりがないのは分かり切っているので移民でしかない。
「ええっと、任せて良いんですよね……?」
「多分?」
連れてきた護衛の冒険者と互いに苦笑いしながら言葉を交わす。もはや反冒険者などどこにも介在していないように思えた。ただ、意外なことに。
「教授たちってどうなってるんです?」
と、教授たちがどうなったのかは知らないようだ。こちらからは何も伝えていないのでそうしたこともあるのかもしれないが、てっきり反冒険者側に加わった元俺の護衛が諸々報告しているのだと思ってた。
「さあ?モンスターたちとコミュニケーションを取ろうと町を出て行ったっきりなので、詳しいことは分かりません」
どんなときにも極力嘘は言わない。嘘が看破される可能性のあるこの世界での基本だ。
教授たちは兎に殺されたようにしか思えないが、実際には生き延びている可能性もゼロではない。あいつの言葉が信用に足るとは口が裂けても言えないし。
「そうですか。まあ適当なとこでやられてるんでしょうけど」
「そんなこと言って良いんですか?組織にとっては重要な立ち位置に思えましたけど」
「僕は所詮雇われなので、知ったこっちゃないですね」
「なるほど。引き際は間違えないように気を付けてくださいね」
「ええ、ここらで終わりにするつもりです。この仕事だって碌なもんじゃありませんでしたし」
チラッと連れてきた集団を見る人当たりの良さそうな男。片道切符で連れてきたことが嫌なのか、それとも単純にここまでが大変だったのか。
男は町に留まることなく、その足で帰るようだ。留まっていても変なことに巻き込まれるかもしれないし、賢明な判断だ。
移民たちを用意してある居住エリアへ案内すると、先人たちが凄い顔をしていた。さもありなん。
「私たちは山脈でのトンネル工事のために人員を募集していたのですが、既にこちらへいらした方々は聞いてないと仰っており拒否されました。皆さまはどうなのでしょうか?」
どよめきが広がる。当然知らされていないのだろう。
「聞いて良いか?」
集団内ではなく、その外。既にこの町で過ごしている者が手を挙げる。
「どうぞ」
「今からでも参加することは可能か?」
「もちろん、と言いたいところなんですが……。教授たちが行方をくらませていまして。山脈で活動しているのなら良いのですが、そうでない場合は皆さんを守るはずの方々がいないことになります。以前と違い、危険な可能性が高いかもしれないんですよね……」
今更トンネル工事とかめんどいからやめてくれー。
「はぁ!?あいつら消えたのか!?」
「はい、一週間ほど前に見たのが最後です。定期連絡の約束はしていないので、たまたま日が空いているだけの可能性もあります」
先ほどよりも大きなどよめきが起こる。反冒険者たちは、冒険者という暴力を使わずにモンスターの被害を防ぐことが目的だったはずだ。その理念を信じていたものからすると、研究していた者がいなくなったとなればもはや何のための組織か分からない。
反冒険者の活動はどうなるのかと声を上げる者がいるが、それに答えられる者はここにはいない。捨てられた下っ端と部外者しかいないのだから。
「彼等を通して給料の一部を貰う予定でしたので、トンネル工事の給料も減ってしまうことになります」
「ここで死ねって言うのか!?」
「それを言うなら反冒険者の方に言って下さいよ。こっちの負債額がいくらになってると思うんですか?危険な工事をするために、これだけの人数と彼らの技術を使ってやっと始められると思っていたのですよ?」
負債額がいくらになっているかと言えば、特に失敗とかしていないからゼロだけども。あ、そういえば一人分の補助金は貰ってもよかったのかも。
「今皆さんが住んでいる、住む予定である住居も全て工事のために用意したんですよ?今からでも家賃を取って構いませんか?いえ、冷静になれば取るべきですね。税金で用意したのに、公共事業を行えないとなればお金を払った側からすると気分が悪いはずです」
避難を受け入れた際のものをそのまま流用しただけだけど、間違ってはいない。
「待て待て待て!分かった!あんたたちに非がないのは分かったから!」
収入が限られているのに家賃など取られたらたまったものじゃないだろう。
「あの、すいません。では我々はどうすれば良いのでしょうか?……」
置いてけぼりになっていた今回来た集団。可哀そうと言えば可哀そうだ。
「トンネル工事をしたいと申されれば断ることは出来ませんが、先ほど言った通りの条件になってしまいます。こちらとしては連絡の取れない教授たちの代わりになる、交渉権のある反冒険者の方を呼んで欲しいのですが……」
その手段を持つ者がいないかと首と視線を動かすが、当然いない。
「……難しそうですね。はっきり言って、手の打ちようがありません。反冒険者とは、このように無責任な組織なのですか?」
「……」
既にここで過ごしている者ならともかく、意気揚々と訪れたばかりの者たちは何も言えないようだ。
「聞きたいのですが、皆さんは元の町へ行けば住む場所……この場合は帰る場所と言うべきでしょうか。そうした場所はありますか?こちらが何か出来るわけではありませんが、帰れるなら帰った方が良いのかと思います」
「……」
ないだろう。あるならばそもそもこんなところに来ない。帰ろうと思ったところで、護衛を雇えなければもちろん死ぬだけなのだが。
「今、何か聞きたい事のある方はいますか?先ほど言った通りに、力になれることは正直ありませんが」
「ど、どうすればいい!?」「このままじゃ死を待つだけだろう!」
「死ぬというのは、流石に悲観的過ぎると思います。私から紹介することは出来ませんが、普通に職を見つけてみれば良いのではないかと」
「だがこの人数だぞ?全員が職にありつけるとはとても思えない!」
「それは競争になるのではないでしょうか。どの世界でも、社会とはそういうものです。因みにですが、貴方たちが反冒険者に利用された最後の被害者とは限りません。もし増員が来てしまったら、ますます競争は激しくなるかもしれませんよ」
相変わらず悲壮に暮れている顔をしているが、少しだけ表情の変わる者たちもいた。
「住居に関する説明は資料を用意しましたのでこちらの箱からどうぞ。生活に必要な施設の簡単な地図も付いています。では私はこれで」
まだ話を聞きたそうにしている者もいたが、終わりの合図をするとすぐに動き出した者たちがいるせいで有耶無耶になった。煽った甲斐があったみたいだ。このままの調子じゃずっと離してくれなさそうだったしね。
そして次の集団も、その次の集団も同じように対応した。
連れてきた護衛が問い詰められることもあったが、一時的に雇われているだけの冒険者で何も知らず、逃げ出してしまえば追える力を持つ者はいなかった。
集まる人間はこれで打ち止めとなり、全部で二百余名だった。何らかのルートで状況を察し、来るのを拒んだ者がいたのだろう。
この世界には内容が同期される掲示板という通信手段がある。反冒険者の指針で使用を制限されていたのだろうが、むしろもっと早く気付いても良いと思ったものだ。
結果的にこの反冒険者たちとの全てのやり取りでは、先払いして貰っていた短期間の避難費に相当する大金と、二百余名の無能な人員を手に入れた。
対して出費は精々俺の労働時間程度だ。実験に伴う冒険者活動の抑制やそこから発生するであろう被害、それを防ぐために仕掛ける工作など様々な部分をカットできた。
教授たちが生きていれば用意していた他の利用法、集金法などもあったので最大限搾取できたというわけでもないが、とてもスッキリとした形に落ち着き満足だ。
既に二十名近くは死亡が確認されており二百名を切っているが、残った中で少しでも真面目に働いてくれるような者がいればかなりの得になる。
因みに肉体労働くんはすごくよく働いてくれていて、町の食料供給に関して役立ってくれている。冒険者としてフリーでやっていけると思うしそうした方が稼ぎが良くなるのだが、本人はその気がないようで。
町のために荷物を運ぶだけの現状にすごく満足しているようだし、紹介した俺はとても感謝されている。理解できない為に何か少し怖いけど、まあ良し。こういう風に働いてくれる人間を増やすのが目的なんだし。




