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13話

 仕事と食事を終え、役所への帰り道。デクルラインを越え、いつもの町という雰囲気になり、帰ってきたという感じがする。


「何だか別世界みたいでした」

「そういう風にしてあるんだろうね」


 なんてったって風俗街だし。


「この町のそこそこの割合を占めてはいるけど、結局今まで関わりなかったのならこれからもあんまり変わらないと思うよ。あくまで仕事上でこういうこともしてるってのを知っといて欲しかっただけ」


 用もないのに行く場所じゃない。ディキンスが娼婦をしながら出会いが無いというのも、客を伴侶にするつもりがないのならその通りなのだろう。


「そうですね。貴重な体験だったと思います」



 その夜は、アケミさんは鼻歌を歌いながら料理を作ってくれた。


「うまうま」

「サンケタの方が良いにゃ……」

「私もサンケタさんの方が良いのが困りものです。私がサンケタさんのを作って、サンケタさんが私とシマちゃんの分を……」

「そんなめんどくて馬鹿みたいなこと嫌だよ」

「ですよねー」



 休日が訪れた。ので、アケミさんの引っ越しを敢行する。


「入りませんね」

「入らんねー」


 魔法の袋があるので、筋力さえ足りていれば業者は必要無い。とはいえ、袋の口に入らなければ入らない。中に入ったものが縮小されるのだから、口の大きさが足りない限り入るわけがない。某青狸のようにはいかないのだ。


 衣類や小物は問題ないが、家具の類は小さめのものでも、あとちょっとのところで入らない。


「袋を借りるしかありませんね」

「しょうがないかぁ」


 レンタルサービスもあるので借りることにする。


 買取所の横、冒険者用品のレンタルが出来る店に行き、背嚢を借りる。レンタルと言っても購入分の代金を払い、返品するような形でお金を返してもらう。


「あれ、お二人さんご一緒?」


 途中、デクルに餌をやりながら撫でている女性職員に遭遇した。休日に二人で歩いているので、当然その点に触れられる。


「結婚するので」

「えっ、そうなの!?」

「あー、えっと……」

「全然そんなこと言ってなかったじゃん!いつから付き合ってたの?」

「付き合うっていうか、」

「ちょっとサンケタさんストップ!」


 少し離れてコソコソ話をされる。


「まだ言ってなかったの?」

「そりゃ言えませんて。付き合ってすらいないのにいきなり結婚ですよ?なんて切り出せば良いか分かりませんよ」


 いやアケミさんが言い出したんじゃん。


「じゃあどうするの?」

「……半年前くらいから付き合ってたことにしましょう」

「なるほど」


 話は決まったとばかりに職員の方に戻る。


「どしたの?」

「いえ、なんでもありません。えっと、実は半年前くらいから付き合っていました」

「ということにしようと、今話してました。実際は数日前にいきなり結婚しようと迫られました」

「ちょっとぉー!」

「面白いでしょ」


 アケミさんを置いて二人で笑う。


「でも良かったじゃん。ずっと好きだったんでしょ?」

「それは、まあ……。やっぱ分かりますよね」

「通い妻みたいに見えたしねー。可愛かった」

「恥ずかしい……」

「応援しようとみんなでアルマンを取り押さえたりしてたよ。みんなで食事に誘ったりして」

「何それ!うわー、ありがとうなんだけど、もっと恥ずかしい……」


 何だか二人で盛り上がり始めた。女子会とか井戸端会議みたいな?


「先行ってるから、ごゆっくりー」

「行きます行きます、ごめんなさーい」

「あはは、じゃましちゃったね。お幸せにー」


「あら、良かったのに」

「そういうのがまた恥ずかしいんですよ。耐えられません」

「そういうもんか」

「そういうものです」



 引っ越しは何事もなく終わり、アケミさんの作った軽食を食べながら家のことを決めて行く。


「サンケタさんって、味的には自分の料理の方が美味しいって普通に思いますよね?」

「まあ、そうだね」


 ここで否定したところでしょうがない。バカ舌だと思われても嫌だし。……これを言ったら叩かれるな。


「例えば、一品だけ私が作ったらどうなります?」

「びみょー」

「なるほど。因みに一食は一食?」

「かなぁ」

「では、私が朝と昼を担当するのはどうでしょう。お弁当も作ります」

「ほほう」

「朝と昼を軽く済ませ、俺が作る夜に重点を置かせると」

「……嫌です?」

「んー、良い案なんじゃないかな。シマも納得しそうだし」

「よし。他の家事は……適当でいいですかね」

「そうね」


 魔法で済む分が多いので、料理以外の家事はあんまりないし。


「朝は何時ごろ起きてます?」

「日による」

「じゃあ朝食が出来たら起こす形で良いですか?」

「素敵」


 ……なんか、平和だなーと思う。こういうのが幸せというのだろう。すごく幸せっぽい状態にあると思う。でも実際に幸せを感じているかというと、普通としか言えない。


 そんなものだろうか。


「……おーい、聞いてます?」

「聞いてなかった」


 そんなもので良いか。




 ◇




「予定通り、護衛も宿も用意しないんですよね?」

「何かそわそわしちゃいますよね……」


 反冒険者の使者たちが町にやって来たという、先触れが届いた。


 使節団を呼ぶのなら普通は色々なもてなしを用意しておくものなのだが、そういうものは全部省いた。困窮しているためそうした用意が出来ないという旨を伝えているが、普通はそういうレベルの話じゃない。


「もう決めたことなんだから、どっしり構えてよー」


 方針は俺が決めたが、しっかり相談した上でみんなの了承を得たことだ。


 挑発と受け取られたところで、相手は武力組織というわけではない。実際の戦力は分からないが、表向きはそのはずだ。ムカついたから即戦争ということにはならない。町を抑えることで莫大な利益になるならまだしも、マルエスにそのような利点はない。


 さらにこのマルエスの町は、『ルディマルコイ』という強力なギルドが後ろ盾になっている。この後ろ盾はほぼ形だけだが、それでも結構効果を発揮するものだ。争いになればルディマルコイ側は「反冒険者を名乗る集団に喧嘩を売られた」という名目を手に入れることになる。


 ルディマルコイは支配者層と呼ばれる者たちが運営するギルドであり、そのような集団に目を付けられてしまえば何をされるか、何を言われるか分かったものじゃない。最低でも、ある程度納得の行く言い訳を用意しなければならない。

 少なくとも「宿や護衛が用意されていない」程度では言いがかりに近く、馬鹿にされるだけ。


 つまるところ、多少雑に扱ったところで問題はない。節約できる部分は節約しましょうという方針にした。


「それにリオンは関係ないじゃない」

「そりゃそうだけどさ。うちに使節団なんて、すっごい久しぶりじゃない」

「久しぶりっていうか、ほぼ創設以来よ。そう考えると、ちょっと虚しいわね……」


 それくらい価値のない町だから仕方ないね。他の町の使者がやってくることはあるが、代表の代理を一人二人寄越してサクッと分かり切ったやり取りをするだけだ。歓迎の準備がどうのなんていう話が出てくるようなことではない。


 悲しいことに、他の町からすればマルエスが無くなったところで困ることはないのだ。可能性があるとしても北のユグロコくらい。マルエスの南南西と南東にも町があり、前者はユグロコとそう距離も変わらないというのに。悲しいね。


「オレも大した役柄ではないし、サンケタに任せきりだなあ」

「俺が始めたことだしそりゃあね」

「それはそうだが……そもそも何しに来るんだか」

「勧誘と、アケミさん曰く居住環境の貸与や譲渡って予想」

「それならありがたいな」


 空き家があって良い事なんてない。向こうは拠点だか駐屯地だかが手に入り、こちらは住人が手に入る。ウィンウィンの関係と行きたいところだ。


「だが、それなら歓迎しても良いんじゃないか?」

「歓迎した結果、やっぱりやめとくって言われたら悲しいじゃん」


 出費が無駄になってしまう。それにマルエスに拠点を置きたいくらいなら、ある程度何処でも構わないと思っていそうだ。ちょっとした印象で可否が変わるとは思えないし、交渉内容が全てだろう。


「気になるならアルマンも同席するか?」

「いや、いい。腹芸は得意ではないしな」

「んじゃ、予定通りということで」


 基本は俺とアケミさんの二人で対応。それ以外の職員は無用なトラブルを避けるために、案内以外の会話はしない。


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