202号室の住民は今日も家賃を払わない。
「入りますよー!」
そんな声掛けと共に僕は202号室に入る。
ここの住民はもう半年も家賃を滞納しているのだ。
家賃滞納なんて普通なら困るに決まっているが、こと202号の住民については殊更に重要な問題だ。
合鍵を玄関の靴箱の上に放りながら僕はドスドスを足音を立てて進んでいく。
家具一つないとはいえ、雨戸とカーテンが閉め切られた部屋では気を付けなければ転びそうになる。
僕は大型の懐中電灯の明かりをつけて、数歩にも満たない短い廊下を渡ると悩みの種に声をかけた。
「ったく……いい加減にしてくださいよ」
ワンルームの中心で体育座りで座っている大学生になったばっかりだという少女に舌打ちをしながら僕は言う。
「いい加減、家賃を払ってください! それが無理なら出て行ってください!」
少女は僕の方を向いてぽつりと言った。
「私、どうしたらいいんでしょう?」
「んなもんこっちが聞きたいですよ!」
僕は懐中電灯をその場に置いて彼女の腕を掴む。
その腕には夥しい数の痛々しい傷跡が残っており、それがそのまま彼女の苦しみを語っているように思えた。
正直、苛立ちとは別に見るのも辛いというのが本音だった。
しかし、それはそれ。
これはこれだ。
「あんたが自殺して地縛霊になったせいでこのアパート誰も来ないんですよ! 僕はどうすりゃいいんですか!」
僕が怒鳴ると彼女は開き直ったようにして笑った。
「どうにかしたいのは私もなんですけどね、どうにも出来ないんです」
「ったく……」
ため息をつきながら僕は彼女の隣に座る。
半年前にこの部屋で自殺した彼女は生前よりもずっと穏やかな表情をしている。
もっとも、アパートの大家である僕と部屋を借りていた彼女の接点なんてほとんどなかったが。
僕はタブレットを取り出すと電源を入れて彼女の前に置いた。
「ほら、今日も二人でどうすりゃいいか検索しますよ! あんたが居ると困るんだから……」
「ごめんなさい。よろしくお願いします」
そう言って僕らは二人で検索をする。
『幽霊 成仏 方法』
『地縛霊 お祓い』
しかし、今日も今日とて良い方法が見つからない。
出てくる情報は嘘ばかりだし、一度呼んでみた霊媒師は彼女の姿さえ見えなかった。
「あー、もう本当にどうすりゃいいんだか」
頭を抱える僕に彼女は苦笑いを返した。
「見つからないですね」
生前にほとんど交流のなかった彼女と死後にこうして親しくなるなんて奇妙な話だ。
良い経験を出来たと言えばそうなのかもしれない……が、それはそれとしてアパートの収入が得られないのは死活問題だった。
「本当にごめんなさい」
ただ、ほとんど知らない相手だったとはいえ、一人の少女が笑顔でいるのはやはり嬉しかった。
「笑ってないで。とっとと見つけますよ!」
それから一ヵ月ほどして僕と彼女が幽霊ビジネスとでも言うべきお金稼ぎの方法を思いついたのだが、それはまた別の話。




