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 魔剣ならぬ魔ネックレスを作り出してしまった、かもしれない。

 それを調べるために、急きょゾーリン父さんを呼ぶ。


「なんだ、まだ仕事が残って」

「いいからこれを」

「ん~? 綺麗なネックレスだな。ハルトが作ったのか?」

「鑑定!」

「分かった分かった。えーと……」


 呑気なゾーリン父さんに、ヒルダ母さんの怒声が飛ぶ。

 ゾーリン父さんも目利きスキルを持っているので【鑑定術】でネックレスをチェック。

 すぐさまヒルダ母さんの言わんとしていることに気付き、一転して真剣な表情でネックレスを静かに机に置いた。


「ハルト、昨日のナイフがあるだろう。あれを鑑定してみろ」

「……取ってくる」


 ナイフを戸棚から取ってきて、両親と不安そうな表情のリタの前で鑑定。


「攻撃力80ってあるけど」

「オレがヒルダのために打った剣は、攻撃力55だ」

「えっ!? じゃあこのナイフは剣よりも強い!?」

「そうだ。だから昨日は一時的にナイフを預からせてもらったんだ。

 折るべきか、そのままにするべきか。オレとヒルダで話し合うためにな」


 その言葉を聞き、俺は家の中にある刃物を片っ端から鑑定した。

 ヒルダ母さんの剣から始まり、鍜治場で預かっている剣、果物ナイフに普段使いの包丁も全て。


「55以上が、無い……」


 あぜんとする俺の肩を、ゾーリン父さんが後ろから叩いた。


「世の中にはもっと強い武器はごまんとある。

 だけど鍛冶の素人が鉄の素材だけで攻撃力80だなんて、普通じゃないんだ」

「俺は、普通じゃないのか?」

「かもしれない。それを確かめるために今日は細工仕事とエンチャントをしてもらったわけだが、結果はこの通りだ。

 ヒルダは最後まで信じていなかったけどな」

「仕方ないだろ。あたしらの息子が魔剣の打てる鍛冶師だなんて、誰が信じるんだい」


 振り向いて、二人の真剣な顔を見る。

 その隙間から、今までで一番勢いよくブンブンと尻尾を振るリタが見えた。

 リタの嬉しそうな様子に、ようやく俺も冷静さを取り戻した。


 俺だって嬉しいことは嬉しいんだ。

 魔剣を打てるほどの腕前ならば、両親に楽をさせることも、村の戦力をより強固にすることもできるのだから。

 ただ俺には前世があって、知識がある。悪い奴らがいることも承知している。

 だから余計に混乱してしまったのだ。


「オレもヒルダも強制はしない。

 これはハルトだけの人生だ、ハルト自身で決めてほしい」

「そんなの、言うまでもないよ」


 笑顔でそう返し、ゾーリン父さんからネックレスを受け取る。

 そしてリタを手招きして、ネックレスを渡した。


「少し早い誕生日プレゼントだよ。元々そのつもりで作ったからね」

「兄様……ありがとうございます! 家宝にします!」

「大げさだから。あと尻尾危ないぞ」


 直後、ガッシャーン! といういい音が家中に響いた。




 あれから2年経ち、俺はゾーリン父さんの右腕として一人前の鍛冶師になっていた。

 弱冠12歳。周囲からはまだ早いのではという声もあるが、俺の打ったくわを知る人たちの中には、ゾーリン父さんを差し置いて俺を指名してくれる人も出てきた。

 もちろん村人に渡す武具や農具は出来るだけ性能を落としているので、俺が魔剣を作れる鍛冶師だということには気づかれていない。


 しかし今日の主役は俺ではない。


「リタ、10歳の誕生日おめでとう」

「これで封印解除だな」

「うん、これでようやく……」


 ようやく? その後の言葉は伏せられたが、リタもこの時を首を長くして待っていたのは間違いない。

 今回もヒルダ母さんが封印を解き、これでリタも魔法が使えるはずだ。


「ハルトは鍛冶師の道に進んだけど、リタはどうする?」

「私の進むべき道は一つ。剣士だけ」

「そういえばあれ以来ヒルダ母さんの下で修行を積んでるもんな。

 ヒルダ母さんから見たらどんな感じなの?」

「これがねぇ……」


 俺の質問に、ヒルダ母さんは途端に苦笑い。


「師匠としちゃ~認めたくないんだけど、リタはあたしよりも才能がある。

 本気でぶつかれば、もうあたしよりも強いんじゃないかな」

「そんな、まだまだお母さんの足元にも及ばないよ」

「謙遜するんじゃないよ。

 全くうちの子供たちは、なんでこうも大人びてるんだか」


 リタと目を合わせて笑う。

 誰に似たのかリタも年齢にふさわしくない落ち着きぶりであり、前世があると言っても驚かないだろう。


「さて、そんなリタに俺からプレゼントがある。鍜治場においで」

「はい!」


 途端に尻尾がせわしくなくなる。本当に分かりやすいブラコンだ。

 鍜治場にリタを呼んでプレゼントしたのは、刃の長さが約80センチもある鋼製のロングソード。

 大人の手のひらほどの幅の刃に、装飾は金色のつばにレッサーワイバーンの皮を使ったグリップ、ポンメルには拳ほどもある丸く赤い魔石。

 もちろん打ったのは俺で、性能は攻撃力200を誇る。

 その分重量もあるのだが、身長が170センチに届こうかというリタならば問題なく振り回せると、ヒルダ母さんからのお墨付きもある。


「こ、これ……魔剣ですか?」

「いいや、残念ながら魔剣じゃない。

 だけど【成長】っていう特殊なエンチャントが付いていて、使い込むほどにリタと一緒にこの剣も成長して性能が上がっていく。

 つまりリタがこいつを魔剣に育ててやるんだ」

「……私が魔剣に、育てる……」


 今まで見たこともないほどキラキラとした表情で剣を見つめるリタ。

 この一振りのために2年前から両親と交渉して家の家事手伝いをしていたのだが、リタのこの表情を見られたというだけで、苦労が報われるというものだ。


「リタ、明日から実戦で鍛えるよ」

「うん!」

「いきなり実戦!?」

「それが一番いいんだよ。それに……フッフッフッ……」


 怪しい笑みを浮かべ、それ以上は語らないヒルダ母さんだった。


 翌日からリタは、俺の打ったロングソード・赤い魔石のネックレス・ヒルダ母さんのお古の防具を装備して村の外で実戦訓練を開始。

 小学4年生相当のリタがいきなり実戦に出て、果たして大丈夫なのだろうか?

 そんな俺の不安をよそに、初日は無事に帰宅。

 ただし明らかにヘロヘロで、そのまま力なく俺の隣に座った。


「お帰り。初めての実戦はどうだった?」

「……撫でてください」

「はいはい。で、どうだった?」

「私の認識が甘かったというのを、嫌というほど学びました。

 気付くべきだったんです。その機会はそこら中にあったのに。ハァ……」


 俺は戦闘向きではないのでリタの苦労は推し量れないが、元気なく垂れた尻尾から、現実を思い知ったのは間違いないだろう。

 そしてこの村を出れば、俺も現実を思い知るのだろう。


「今はがむしゃらに頑張るしかない。この村にいる限りはね」

「……はい。膝失礼します」

「えっ!? お、お前なぁ……」


 スルスルと横倒しになり、俺の膝を枕にし始めるリタ。

 初日なので仕方がないと角を撫でてやると、尻尾をパタパタと振り始める。

 なんとも分かりやすい妹だ。


「実は余裕あるだろ?」

「すや~すや~」

「それ口で言うものじゃないぞ。まったく」

「えへへ」


 とはいえ疲れているのは本当だろうから、今日に限り甘えさせてやるのだった。


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