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「兄様……この剣を、本当に他人に差し上げてしまうのですか?」
「言いたいことは分かるけど、こいつはこんな場所で燻ってちゃいけない、世界に羽ばたかなきゃいけない剣なんだよ」
期限12時間前。
ギリギリで仕上がったドラゴンの骨の剣を、アトスさんと背格好が近いリタに持ってもらったのだが、その第一声がこれである。
この剣、ドラゴンキラーは刃渡り100センチにもなる超ロングソード。なのに骨製なので重量はミカの魔剣神守とほとんど変わらない。
デザイン的にはまっすぐに伸びた刀身で、剣先は扇形をしている。
そしてこの長い刀身には、教会騎士の剣に相応しく、金の装飾で女神信教の祝詞を刻んである。
一方の鞘は今回時間が無くて、ありきたりなデザインになってしまった。
あと1日あればドラゴンを描いたのだけど、惜しい。
「それにしても、まるで白金のように輝いていますよね。これが骨製だとは誰も思いませんよ」
「めっちゃ頑張って磨いたからな。んで次にグリップはどうだ?」
「ドラゴンの鱗を模しているんですよね? 見た目以上に握りやすいですよ」
「鱗を小さめに作ったからな。おかげで鍔にあるドラゴンの顔とサイズ感が合ってるだろ」
「そうですね」
鍔には青銅でドラゴンの顔を彫り、瞳には赤い魔石を仕込んだ。
ポンメルにも赤い宝玉を持ってきて、ドラゴンがそれを掴んでいるようなデザインにしてみた。
お土産屋さんにあるドラゴンのキーホルダーっぽい厨二病感あふれるデザインにはなったが、おかげで統一感が出て満足。
それに俺たちが使う剣じゃないしー。
「ちなみに、性能はどうなったんですか?」
「攻撃力は思ったほど出なくて350。代わりに他の性能が軒並み高くなったから、差し引きするとリタの剣よりも強い」
「エンチャントは?」
「してない。そこまでしちゃうと俺が魔剣を打てるってのが知られちゃうからね。
たださすがはドラゴンで、勝手に火属性と竜特攻が付与されたよ」
手は抜いていないのに、何故かこの剣は攻撃力が控えめになった。
あるいはグリップを本物のドラゴンの鱗で作ればとんでもない性能になったかもしれないが、そんな素材が手に入るはずがない。
よってこのドラゴンキラーはこの段階で完成とする。
「時間は……間に合うな。早速大聖堂に行ってくる」
「約束通りわたしも行くよ」
ここで店番をスイッチして、俺の隣にはミカが付く。
大聖堂までの道中、ミカは剣をしげしげと眺めている。
「へぇ~、これがドラゴンキラーかぁ~」
「ギリギリで魔剣じゃないぞ」
「それはなんとなく分かる。神守って不思議なオーラみたいなのを感じるんだけど、この剣からはあまり感じないから」
「そこが不思議なんだよな。もっと攻撃力があってもいいはずなのに」
俺の手ごたえでは攻撃力800はあってもおかしくなかった。
なのにその半分以下で収まってしまったのは、やはり腑に落ちない。
「うーん……ドラゴンの意思が覚醒してないとか?」
「何だよその厨二病設定。
どちらかと言えばドラゴン相手にこそ本気を出すって設定だろうに」
「あ~、ドラゴンキラーだったらそっちだね」
とはいえ攻撃力350は自主規制枠を超えているので、強いのは間違いない。
大聖堂に到着。降臨祭直前だからなのか、みんな忙しそうだ。
しかし俺とミカなので顔パスで大司教様の執務室へ。
「大司教様、降臨祭前のご多忙なところすみません」
「いえいえ、お気になさらず。わたくしは出発の時を待つのみですから」
「そうですか。とはいえ時間をかけるわけにもいかないでしょうから、早速本題に入りますね」
ミカは剣を直接渡すのではなく、一度机に置いた。
あの軽さで感覚が狂い落としてしまう可能性を考えたのだろう。
「ご注文の品です」
「おお! 間に合わないかと危惧していたのですが、キッチリ仕上げてくるとはさすがですな。抜いてみても?」
「ええ、どうぞ」
さっそく剣を鞘から抜き、その軽さと出来の良さに顔がほころぶ大司教様。
ここで俺は、大司教様にはこの素材を明かさないと決めた。
それをすると、おそらくこの剣は二度と戦場に出ることが無くなるからだ。
なんとなく、この剣はそれを望まないと思うのだ。
「鋭い刃にこの輝きこの軽さ。施された装飾も素晴らしい。
それに刃に刻印された祝詞。この祝詞を選ぶとは、さすがハルト様」
「私じゃないですよ。その祝詞を選んだのはミカです」
「バッチリ選ばせていただきました」
この祝詞を意訳すると”君が想えばいつもそこに私はいるよ”というもの。女神信教においてはもっとも有名な祝詞らしい。
そしてこれはオフレコなのだが、この祝詞を選んだのはミカではなくミカの夢に出てきた女神様本人なのだ。
ただし我が妹がこの祝詞を読んだわけではなく、それ以前の女神様が読んだものだということに留意すること。
「攻撃力が300を超えているので、取り扱いには注意してください」
「失礼ながら、わたくしはそちらの方面には疎いもので」
「売ったら500万ミレスを軽く超えます」
「わぁ……」
随分と可愛らしいリアクションをした後、俺が手伝い剣を収める大司教様。
「大司教様と言えどもこの額にはたじろぐものなんですね」
「値段もですが、それだけハルト様の魂が宿った剣ですから、ぞんざいな扱いは出来ませんよ。
ところでこのドラゴンの彫刻は何故に?」
「格好いいでしょ?」
「……ふふっ! ええ、孫も必ずや気に入ります」
一瞬驚きの表情を浮かべ、すぐに笑顔になった。
正直ただ誤魔化しただけなのだが、ファンタジー世界の住人に対しては何よりも効くはずの返しだ。
剣を渡し終わると、やはり疲れが溜まっていたようで眠気がやってきた。
「それでは私はこれで」
「おや、もうですか?」
「この剣に1か月かかりっぱなしで、特にここ10日ほどは間に合わせるために不眠不休だったので」
大司教様はミカの顔を見て、ミカは苦笑いで頷く。
実際には妹たちの言いつけを守り寝てはいた。1日20分ほど。
「そうでしたか。本来ならば孫に手渡すまでを見届けていただきたかったのですが、無理強いは出来ませんからね。
後日改めてお礼を申し上げに参ります。此度は誠にありがとうございました」
「そんな、気を使わないでください。では失礼します」
さっさと家に帰って寝ようっと。
「お兄、わたしが残って見届けておくよ」
「そうか、ミカがいれば俺も安心だ。……素材のことは内緒で頼むぞ」
「分かってるって」
可愛くウインクしてくれやがったぞ、この妹。
ともかく後のことはミカに任せて、俺は家路についた。
後日、ミカ経由でとんでもない話を聞いた。
「降臨祭に向かってたロシル大司教様が魔物の群れに襲われたんだって」
「え、マジで? 大丈夫だったのか?」
「うん。アトスさんが例のドラゴンキラーで大活躍したらしい。
なんでも3級相当の魔物をバッタバッタと切り捨てて、最後はワイバーンを一刀両断だって」
「……言っちゃ悪いが、あの剣にもアトスさんにも、そこまでの能力はないぞ?」
「でも一緒に向かってた他国の大司教様たちからの証言もあるよ。まるでそれまでとは別人のような大活躍だったって」
別人のような?
妙に引っかかる言葉だが……ま、いっか!




