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5-6

「こんにちは」

「ユノさんいらっしゃいませ。出来ていますよ」

「ほ、本当ですか?」

「今更嘘なんてつきませんよ。こちらへどうぞ」


 受け渡し日、俺の予想では朝一に来ると思っていたのだが、ユノさんは昼過ぎにやってきた。

 おかげでちょっとした仕込みも出来たので、そういう意味ではありがたい。

 工房から装備一式を持ってきてカウンターに並べてお披露目。


「えっ、おっ、おおーっ……」


 言葉になっていないが、喜んでもらえているのは伝わるので良し。


「まずはこちらのシェルクローク。見た目はごく普通のクロークですけど、魔法防御力が80もあるので、これだけでも魔法に対してはかなり強いです」

「はぇっ、魔法防御力80……」

「今回胸当ては作りませんでした。シェルクロークだけで十分な性能になりましたからね」


 ちなみにクロークというのはマントに似た外套がいとうで、見た目は袖のないコートのような感じ。

 今回のシェルクロークは白地に青色で民族衣装っぽい模様を入れ、胸の辺りを革のベルトで留められるようにした。


「次に金の髪留めと、同じく金のチョーカー。

 この二つが常時マジックシールドを展開させることで、物理防御を防ぎます。防御力は50くらいですね」

「こ、これで50……」


 金の髪留めは後頭部に付けるもので、後ろから見るとリボンっぽいデザインにしてある。

 金のチョーカーは黒い布地のチョーカー(首輪)に金の装飾を施したもの。

 この二つがそれぞれ体を覆うマジックシールドを展開させるので、実際には防御力50×2という性能になる。


「最後にブーツですね。こちらは防御力はあまりないんですが、履き心地が良く耐久性にも優れた軽い素材を使ったので、5年は履ける物になっています」

「5年……今の靴よりも持ちますかね?」

「持つでしょうね」


 ブーツは明るい黄土色の革を使い、上部を折り返してある。

 そしてブーツに限らず装備全てに耐久力向上のエンチャントを付与してあるので、実際には10年以上持つ耐久性を持っている。


 それぞれを早速装備するユノさん。

 と、シェルクロークのベルトを締めようとして顔色が変わった。


「あの、このベルトって……それにこの金具、まさか……」

「お預かりしたカバンから再利用したものです」

「……あのカバン、両親がくれた物なんです! まさかまたこうやって帰ってきてくれるだなんて、思ってもみませんでした!」

「喜んでいただけたならば何よりです」

「はい! 嬉しいです!」


 カバンの本体部分は継ぎ接ぎ穴だらけで再利用できなかったが、肩掛けベルトと本体を繋ぐ金具は頑丈な作りでまだまだ使える状態だった。

 なので肩掛けベルトの特に痛みの少ない部分をオレンジで再塗装し、金具は錆びを取り少し手直しと再度メッキ処理を施して再利用した。

 このベルトと金具が、ユノさんが遅く来てくれたおかげで仕込めた部分だ。

 とはいえ朝一で来た場合には店内で待ってもらい仕上げるつもりだったのだが。


 杖も出して全てを装備し、その姿を鏡で確認するユノさん。

 今までのヘロヘロの服装とは違い、見事にファンタジー世界の魔術師になった。

 頬がにやけているのを見れば、俺も満足というものだ。


「あの、全部の性能っていかほどに……?」

「装備した状態でユノさん自身を鑑定すれば合計値が出ますけど」

「是非!」

「分かりました。それじゃあ失礼して【鑑定術】っと」


 先に言っておくが、パーソナルな部分は省く。

 攻撃力79、防御力112、魔力206、魔法防御力100。

 それから素早さ31、運299だ。

 ……え? 運299!?


「ユノさん、運良すぎじゃ?」

「あはは、今実感しています」

「……確かに」


 あのオンボロ装備で5級まで上り詰め、1級の魔物に襲われたところでミカとリタに助けられ、試練を乗り越えて今まさに新しい装備を手に入れた。

 運がなければこんな連鎖は起こらないよな。うんうん。


「それにしても、すごい数字が並んでますね……自分じゃないみたい。

 これだったら3級も夢じゃないし、もしかしたら2級も……」

「夢は大きく2級ですね」

「い、いやいや! 5級冒険者には夢が大きすぎますよ~あはは~」


 とは言うものの、ユノさんは間違いなく夢を見るはずだ。

 改めてだが、冒険者ランクは8級から1級まである。

 そのうち3級までが、一般的な冒険者の到達点とされている。

 そして2級から先に行くには冒険者協会で試験を受け、国際冒険者資格というものを手に入れなければならない。

 この国際冒険者資格があると、国から指名で依頼が舞い込むようになる。

 もちろんそれだけ難易度が上がるが、同時に3級以下とは比べ物にならないほどの報酬が手に入る。

 ミカの話では桁がひとつ違うという話なので、本当に夢のある話なのだ。


 工房を出て、ミカとリタにもお披露目。


「へぇ~可愛い!」

「色合いがユノさんに合っていますね。髪飾りもリボンのように見えて可愛い」

「えへへ~」


 デザイン面では二人の意見も参考にしている。

 例えばシェルクロークの模様。俺は裾を青くしようと思っていたのだが、ミカからダメ出しを食らったので民族衣装感のある模様に変えたのだ。

 手間はかかったが、こうして見ると女性の意見を取り入れるのは正解だなと思う。

 しかし同時に、性能に物足りなさも感じてしまう。

 ミカとリタの装備に見慣れているからだろうか。


「あ、そうだ。杖の使い心地を確かめるのにまたレイスティンガーを倒したんですけど、その時に……」


 ユノさんのアイテムボックスから、またもや燻製になったレイスティンガーが出てきた。


「えへへ~、またやっちゃいました」

「くっ、ビールが飲みたくなる香り……」

「味はどうだったんですか? 私まだ食べてないんですけど」

「白身魚のようなさっぱりした味わいに、燻製のいい香りがついて、最高ですよ」

「……売れますかね?」

「「「売れます!!」」」

「あはは……」


 兄妹全員の声が揃った。

 だって、本当に美味しかったんだもん!


「実は私、これをシマッテイの町に売り込もうかなーって思っているんです。

 なんでも普段は見ない海洋の魔物が住み着いたせいで3年続いて不漁らしくって、別の産業が無いと町がやっていけないー! っていう状態みたいなんですよ」

「そこで邪魔者扱いだったレイスティンガーを燻製にして売ると。

 アリだと思いますよ。というか酒飲みには大好評間違いなし」


 ミカとリタも深く頷いている。


「じゃ、じゃあ……あーでもあちらのギルマスさんにはコネがないんですよね。どうしたらいいのか」

「ミカ!」

「アイアイサー! って、ハーリングさんに紹介状書いてもらうのでいいの?」

「そういうこと」

「おっけー、早速行ってくるぜ!」


 バビューンと走って行くミカ。


「ミカが帰ってきたら、紹介状と燻製の現物を持ってあちらのギルマスを訪ねてもらえれば、話は繋がると思いますよ」

「は、はい。何から何まですみません」

「いえいえ。その燻製本当に美味しかったので」

「手始めに10匹ほど卸していただければ、すべて私が食べます」

「どんだけ食い意地が張ってんだよお前は!」

「てへっ」


 綺麗なお姉さん風なくせに可愛い顔しやがって。


 しばらくしてミカが帰ってきた。

 その手にはしっかりと紹介状が握られているが、表情は少々よろしくない。


「一応聞いてみたんだけど、シマッテイの町が不漁続きなのは本当だったよ。

 んで、代わりに薬草で生計を立てようとしてる人も多くて、そういう薬草採取の素人が下手なくせに文字通り根こそぎ採っちゃうから、問題化してるらしい。

 で、そこに付け込んで領地買収を画策してる連中もいるって話。

 事態は思った以上に深刻だよ、これ」

「じゃあレイスティンガーの燻製が上手く行ったら、マジでユノさんは町の救世主だな」

「うん、そうなるね。ってことだから、早く行ってあげてください」

「わ、分かりました! お邪魔しましたー!」


 そんなに慌てなくてもいいだろうに。

 しかし、偶然が偶然を呼び、結果として町ひとつを救うかもしれない。

 ユノさんの運299は伊達ではないようだ。


「さて、俺たちのやるべきことはこれで終わりだね」

「そうですね。あとはユノさんとあちらのギルマス次第です」

「上手く行ってくれれば、ユノさんも貧乏地獄から脱出できるはずだ」

「美味しい名物も増えるもんね」

「はい、そうですね」


 どうしてうちの姉妹はこうも食い意地が張っているのか。

 そう呆れつつ、日常に戻る俺たちだった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「……む、貴様か」

「南メルブリアのシマッテイ領について、ご報告がございます」

「というと、領地買収の件だな。申してみろ」

「はっ。

 海洋の魔物を用いた不漁による領地買収の件ですが、先ほど先方より買収には応じないとの回答がございました」

「何? 先日の報告では秒読みと言っていたではないか。何故風向きが変わった?」

「こちらを……」

「うっ……こっ、これは……」

「とある冒険者の考案したこちらのレイスティンガーの燻製がシマッテイの町の名物となり、財政を一気に押し上げた模様です」

「くっ、港町を買収して橋頭保きょうとうほを築く私の作戦が、こんなものに敗れただと……ッ!

 これでは他の奴らにも、”あの方”にも笑われてしまうではないかッ!」

「それからもう一つご報告が」

「何だ!」

「”あのお方”が、こちらのレイスティンガーの燻製を大層気に入ったと」

「意外と大人の舌をお持ちなのか。しかしこの香り、たしかに……そうだな、私も一度頭を冷やすとするか。

 ……あれっ? ここにあった酒は?」

「関係ないとは思いますが、先日メイド長が深夜にお酒を嗜んでおられました。では私はこれで」

「………………ッ!!」


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