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リタとユノさんが出かけてから3日目の朝。
「おはようございます! ただいま帰還いたしました!」
カウンターでミカと打ち合わせをしていると、元気にユノさんが帰ってきた。
その表情を見れば、言わなくても俺の依頼を達成したのだと分かる。
「お疲れ様です。杖、出来上がっていますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。ちなみに前の杖は?」
「レイスティンガーを殴った時に折れちゃって、薪にするのに燃やしちゃいました」
どういうこっちゃ?
と思っていたらリタがアイテムボックスから、燻されて美味しそうな色に変わったレイスティンガーを取り出した。
持ち方が完全にヌシを釣り上げた釣り人のそれだ。
「石の壁に閉じ込めて外から火をつけて倒したんですけど、結果がこれです」
「……ミカ、この世界にビールってあるか?」
「あるけどお酒は20歳になってからだよ」
あと3年、あと3年待ってほしかったッ!
「なんてやってる場合じゃなかった。
前の杖を使ってアクセサリーを作ろうかと思っていたんですけど、燃やしちゃったなら仕方ないですね」
「なんかすみません」
「いえいえお気になさらず。報酬の杖をお渡ししますね。少々お待ちください」
工房に置いてある、ジェムートの骨を使ったロッドを持ってくる。
ユノさんのワクワクだった表情が、ロッドを見た途端歓喜にあふれた。
「ジェムートの骨を使った、名付けてアデプトロッドです」
「あのジェムートの骨ですか!? うわー……いいんですか、本当に?」
「いいんですよ、本当に。それから性能なんですけど、こんな感じです」
鑑定術でウインドウを出し、ユノさんに直接見せる。
「杖なのに攻撃力70もある! えっ、魔法攻撃力170!?」
「素材が良すぎてこんな高性能になっちゃいました。あはは~」
このアデプトロッド、見た目は黒い杖の両端に金のキャップ、ヘッドにはリンゴよりも少し大きいくらいの青い宝玉が浮いている。
この青い宝玉は魔石を錬金鍛冶で一つにまとめたもので、当初はただの装飾として使うつもりだった。
ところが宝玉をきれいに磨いていくと勝手に魔力を帯びてしまい、ジェムートの骨と組み合わせるとご覧の有り様となってしまったのだ。
「それからエンチャントをいくつか施してあります。
魔力消費軽減に魔力回復と、これが結構珍しいんですけど、魔法攻撃時に追加で光弾を発射します。威力は魔力依存なので、実質2回攻撃できますよ」
「へぁっ!?」
ユノさんから変な声が出た。
うむうむ、余は満足じゃ。
今回試しにエンチャント候補をリスト表示で選べないかとやってみのだが、これが出来てしまったのだ。
おかげで他にもとんでもないエンチャントを発見してしまったのだが、それはまた別の話。
その中で見つけたのがこの光弾発射エンチャントで、他に炎・氷・雷発射バージョンもあった。
「これ、あの……失礼を承知で聞きます。お値段は……?」
「売るとしたら、そうだな……330万ミレスですかね」
そう言うと、ユノさんは杖を俺に突き返しブンブンと首を横に振る。
そんな高価なものはもらえない! と言いたいのだろう。
しかしジェムートの骨がタダで入手出来ているので、実際の材料費はその10分の1程度なのだ。
「実はね、私は失敗すると思っていたんですよ。あの杖じゃあ強い魔法も使えないし、ダメージもろくに出ないはずですからね。
だけどユノさんはこの通り、知識を以って見事にレイスティンガーを美味しそうな燻製にしてみせた。
だからユノさんは、自信を持ってこの杖を持ってください」
「杖だけに、自信を……」
「……え?」
「な、なんでもないですっ!」
顔を真っ赤にしてるけど、ユノさんって、もしや天然入ってる?
「ともかく、その杖はユノさんのものですからね」
「は、はい! 生涯大切にさせていただきます!」
昔似たようなことを言ったドラゴニュートがいたなぁと。
「それじゃあ次に防具なんですけど」
「これだけじゃないんですか!?」
「はい。私は装備一式って言いましたからね。
んで防具なんですけど、まずは寸法を測りたいので工房に来てください」
「それって、オ、オーダー装備っていう……?」
「私の予算は108万ミレスまであるぞ」
「ヒィッ……」
短い悲鳴を上げたユノさんの背中を押して工房に連れて行くリタ。
すっかり仲良しのようで微笑ましい限り。
「ミカ、今反応したな?」
「ネタを知ってる程度だけどね」
お互いニヤニヤしつつ、俺は工房へ。
工房内ではリタがユノさんの装備を脱がせている。
「ユノさんの戦闘スタイルってどんな感じですか?」
「えっと、まずはよく観察して、装備がこれなので絶対に大きな怪我をしないように立ち回ります」
「安定性重視ってことかな?」
「はい、そうです。でも慎重すぎるのも5級から上がれない理由だと思うんですよね。
あ、そこ私やります。外すのにコツいるんですよ」
ふむ。となると軽量装備のほうがいいか。
「リタはどう見た?」
「洞察力も直感力もあると思います。ただ……すみませんが、熟考が足りない部分もあるように思えました」
「手厳しいねぇ~」
当のユノさんは苦笑いしつつ、心当たりがあるようで恥ずかしそうに頷いている。
まあ、そこは防具作りには関係ないのだが。
「防具自体は軽いものにして、装飾品で防御力を補強する方向にしますか?」
「うーん……正直、どういう装備がいいのかも曖昧なので、お任せします」
「分かりました」
ユノさんのイメージ通り全体的に明るい色使いで、いっそ胸当てをやめて魔法防御力を重視した服やローブにして、物理防御力は装飾品で高める。
装飾品は例えば腕輪に髪留め、髪飾り……うん、いい感じになりそうだ。
「それじゃあ採寸しますけど……どうせだ、リタが担当してみなさい」
「私がですか?」
「将来的に女性の採寸はリタとミカに任せるつもりだからね」
「そういうことですか。分かりました」
俺だって男だからね。
リタに指示しながら採寸中。
改めてだが、ユノさんは薄い茶髪のロングヘアー、身長は160センチ程度で胸はまあまあ。顔が可愛い系なので、やはり明るい色合いが似合うだろう。
「製作には少々時間がかかるので、3日後取りに来てください」
「3日で出来るんですか?」
「私は錬金鍛冶が使えるので」
とは言ったが、ユノさんの表情的に、錬金鍛冶が何者かは分かっていない様子。
「分かりました。3日後に取りに来ます。
あと、その……ひとつだけご無理を言っていいですか?」
「内容によりますが」
「私のカバンなんですけど……」
机の上に置いてあるユノさんのカバンに目をやる。
それはもはや芸術的なまでにボロボロで、何度も何度も修理した跡の残る、歴戦の猛者である。
「ああ、分かりました。カバンも装備の一つですから、差し上げますよ」
「い、一番お安いのでいいですよ? これ以上欲をかいたら後が怖いですし……」
「ウチで売ってるカバンは全部同じ値段なので、そこはご心配なく」
革の種類で色が違う程度の差異なので、全部同じ値段に設定して会計時の手間を減らしてあるのだ。
その中でユノさんが選んだのはオレンジのカバン。
このオレンジは塗っているのではなく、元からこういう色の革。
そのカバンをタスキ掛けして、ユノさんは深々とお辞儀をしてお店を去った。
「さてと」
「また工房に籠りますか?」
「いや、今回は錬金鍛冶でサクッと作る予定だよ。デザインのイメージも、さっきのカバンで決まったし」
「そうですか。よかった。それじゃあ早速”アレ”、食べてみませんか?」
「「いいね~!」」
兄妹で声が揃った。
そうして俺たちは、朝っぱらからレイスティンガーの燻製を美味しく頂いた。
ビールが無いのを心底悔しがりながら。




