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「……よし……出来た……」
体中から力が抜けて作業場に大の字で寝転がり、自分の疲弊具合に笑ってしまう。
どうしてこれほどに時間が掛かったのかというと、半分ほど作ってからすべてを作り直したから。
納品に来たいつもの素材屋さんから、納入先が夜逃げして不良在庫になった素材を少数半額でいいから買い取ってほしいと打診された結果、その素材を合板にして性能を大幅に向上させたのだ。
「だけどここからが本番なんだよなぁ……。ミカ~、おいで~」
聞こえるかは分からないが、寝転がりながらミカを呼ぶ。
するとすぐさま軽快な足音が聞こえてきて、工房のドアを開ける。
「はいはーい。ってお兄大丈夫!? 救急車呼ぶ!?」
「この世界のどこに救急車があるって~? ……よいしょっと」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。達成感を味わってただけだから」
重たい体を起こすと、ようやくミカも安心した様子。
そしてミカに手を引いて立たせてもらい、試着を開始する。
「出来たぞ。お前専用の鎧」
「おおーっ! ……だけど明日にしよ?」
「いいや、こういうのは早いうちに確認しないとダメなんだよ。それに不安があると気になって寝れないし疲れが取れない」
「うーん……分かった。じゃあさっさと合わせちゃおう」
さすがに下着の状態では兄妹の仲であってもよろしくないので、俺は一旦裏口から店の外へ。その間にまずはインナーを着用してもらう。
インナーは一体型のボディスーツ型で、顔と手以外の全てを覆う。また手は同色のグローブを着けるので、見た目は見事に真っ黒になる。
「これ何の布だろ? 結構伸びるし肌触りもすごくいいのに光沢がない」
「西大陸のノーステラって地域で採れる、サイレントブラックっていう真っ黒い魔法鉱石だよ」
「えっ、これ鉱石なの!?」
「そう。鉱石を錬金術で極細の糸状にして編んであるんだ。
おかげで伸縮性抜群なのにチェーンメイル並みの防御力と、木炭に近い性質があるから保温保湿に吸水消臭効果も期待できる。ついでに金属鉱石じゃないからかぶれる心配もない。
性能面で言えば防刃は当然として魔法防御力にも優れて、さらにはエンチャントによって耐火・耐酸・耐衝撃性能も持ち合わせている」
「万能過ぎてちょっと引く。……よし。着れたよ」
ミカの側からドアを開けてくれたので、妙な心配をせずに済む。
ちなみに外側からでは分からないが、急所には硬い素材を入れて保護してある。
「めっちゃボディライン出ちゃって……ちょっとだけ、恥ずかしいなって……」
「恥ずかしがってもお前に欲情はしないぞ」
「チッ、このメンタル強者め……」
やはり狙ってやっていたか。
「んで、着心地は?」
「生地が動きに合わせてしっかり伸びてくれるし、締め付け具合も丁度いいよ。
ねえこのインナー、ちゃんとした商品にしてみない? 絶対売れるって」
「ガチな話、1着100万ミレス超えるぞ」
「うえっ!?」
「妹の命に比べたら100万ミレスなんて安いもんだし、お値段以上の性能なのは俺が保証する」
そんな兄の心遣いはミカの耳には届かず、上の空で「ひゃくまん……」と絶句している。
「いつまでも呆けてる暇はないぞ。次は胸のプロテクターだ」
「う、うん」
鎧の胸部は複数の部位から成り、直線的でエッジの利いたメカニカルなデザインにしてある。
そして胸から下は本人の要望により防具類は何もなし。
見た目だけで言えば、胸当てとそう変わらない防御範囲しかないのだ。
そして鎧は銀色に統一しているので、黒いインナーに銀の鎧というハッキリした色合いとなっている。
「プレート同士には隙間があるから、動きを阻害しないはずだ」
「ふむふむ。屈伸運動しても全然苦じゃない。それに首周りも襟が立ってるタイプじゃないのがわたし好み。
腕を振っても干渉しないし、足元もよく見え……くっ」
「自傷ダメージは俺の範疇じゃない。それにミカは比較する相手が悪いんだよ、相手が」
「だってー!」
「じゃあ前世と比較してみろ」
「……ふひひ」
単純だ。
さて下世話な話は終わりにして、引き続き部品を組み合わせていく。
腕は手甲・肘・肩の3分割。足も太もも・ふくらはぎ・ブーツの3分割。
これらは胸部プロテクターの直線的デザインとは異なり、しっかりと体のラインに沿うように作ってある。特に足回りは防具があるとは感じさせないほど綺麗なラインで作ってある。
唯一、肩のプロテクターは胸の部分と干渉してしまうので、ロボットっぽく上部に飛び出す形で落ち着いた。
それからわき腹にも追加で防具があり、そこからスカートへと繋がっている。
そのスカートはミカの意向に最大限に沿った結果、左右に分かれたセパレートタイプになり、防御範囲がほぼ腰だけになってしまった。
この不足分を補うため、足の側面のほとんどをプロテクターで覆っている。
「これで全部揃った。そしてここまでが前座だ」
「前座? もしかして変形する?」
「しない」
ここまではまだファンタジーRPGでも通用するデザインだ。
しかしここに隠し味を加えると、一気に近未来化する。
「鎧に魔力を流してみろ」
「はーい。……おおっ、緑色に光ってる! これぞSFって感じ!」
可動部の繋ぎ目を中心に、派手にならない程度に発光させた。
近未来SF作品はよく意味もなく光っているだろう? それの再現だ。
もちろん使っているのは魔光技術なので、魔物からは見えない光となっている。
「最終確認だ。どこか干渉していたり、変更や修正してほしい箇所はあるか?」
「無いっ! ひとつも無いよ! めっちゃ軽いし動きやすいし、格好いい!」
「そりゃよかった。
ちなみに性能だけど、こんな感じになる」
「んーと……防御力860って見えるんですけど?」
「ウチで売ってる革の胸当てが防御力20だから43倍。中々いい記録だ。
それからエンチャントだけど、防御力強化は当然として各種耐性も付けられるだけ付けて、さらに徹底的に重量軽減させてある」
「鳥の羽毛みたいに軽いなって思ったら、そういう仕組みだったんだね。
いやぁ~、これいいよ~! すごくいい!」
早速【魔剣】神守を腰に装備して、抜刀変形させて軽く振るミカ。
こう見るとSF色を強くしすぎたかなと思ってしまうのだが、クライアントが喜んでいるので口には出さないでおこう。
そんな感じで騒いでいると、やはりリタが見に来た。
ミカの鎧を見た途端に尻尾をブンブンと振るのだから分かりやすい。
「これは……めちゃくちゃ格好いいですね!」
「でしょでしょ! やっぱりわたしたちのお兄が一番だよ!」
「はい! ま、まあ私は~、子供のころから分かっていましたけどね~」
「ん~? わたしだけいい装備を貰っちゃったから妬いてる~?」
「違います。実際私は兄様が初めてハンマーを振るった時から見ているんですから」
「わたしは前世から見てるけどね~。ふっふ~ん!」
お互いテンションが上がったせいで意味不明な姉妹喧嘩が始まった。
普段ならば眺めるのもいいのだが、今の俺は死ぬほど疲れている。
「はいはいそこまで。ミカも浸りたい気持ちは分かるけど、さっさと着替えなさい」
「はーい。でもこういうのは着替え用の魔法で一発なんだよね」
「俺のいる前で裸になるのだけは勘弁してくれよ」
「それはもちろんですとも」
ちなみにリタも鎧を装着する時は魔法で行っている。
魔法陣をくぐったら装着完了なので、まるで魔法少女の変身シーンだ。
「よーし、それじゃあミカとリタにはさっそくダンジョンに潜ってもらおう。
……正直なところ、資金を注ぎ込みすぎて、大赤字なんだ」
「兄様、ちなみに赤字は如何ほどなのですか?」
「聞かないほうがいい」
そう言うと姉妹で顔を見合わせて青ざめていく。
実際のところ、この鎧一式にかかった金額は250万ミレスほどで、初期費用がほぼ掛かっていない我が店においては、経営が傾くほどの大赤字というわけではない。
作り直しの原因である、素材屋さんから半額で買った素材たちのおかげで費用が大幅に抑えられたのだ。あれが無ければ2倍、いや3倍の費用が掛かっただろう。
それから、赤字は鎧だけが原因ではない。
鎧制作に集中していた期間は当然他の商品の製造が止まるので、全体的に在庫がない。この在庫を復活させるための材料費が一番重いのだ。
それもあって二人をダンジョンに放り込み、素材を取ってきてもらう。
「ミカ、手ごろな3級相当のダンジョン知っています」
「オッケー。そこで稼ごう。めっちゃ稼ごう!」
「はい! めっちゃ稼ぎましょう!」
「素材集めメインで頼むぞ」
「「了解!!」」
「んじゃ今日は閉店にして、俺は寝る」
あとは二人に任せておけば大丈夫。
俺は満足感と達成感を胸に、ベッドにもぐりこんだ。




