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4-5

 三人兄妹の共同生活が始まり、お店も通常営業に戻った。

 売り上げは相変わらずだが、店先にミカが出るようになったので、これから上向くだろうと楽観視している。

 だが、今の本題はそれではない。


「ミカ、可愛いか格好いいか、選べ」

「突然だな~。うーん……ナメられたくないから格好いい!」

「だと思った」


 理由はともかくミカは昔から可愛い服装をするのが苦手で、制服のスカートすら嫌がるほどだった。

 なので鎧のデザインも格好いいタイプにしようと思い、最終確認をしたのだ。

 とはいえまずは刀を仕上げなければ。


 刀でまだ作っていないのはつばつかさや

 要するに刃以外全部。

 しかし今は、ここで作業を止めておいて正解だったと思っている。

 でなければ俺は、おそらく当たり障りのないデザインでこの刀を完成させていたからだ。


「握りの太さは今使ってる剣を参考にして……」


 まずは必要な部分から計測。

 逆に言えば、つばさやは遊ぶ……もとい大胆に行くつもりだ。


 しばらく作業をして、錬金鍛冶上で形になったデザインを眺めて考える。

 この刀は竹刀しないのサイズを元にしているので、全長約115センチとかなりの長さを誇る。

 リタの剣よりもさらに長いと言えば、どれだけロングなのか分かるだろうか。

 そうなると当然取り回しに難があるわけで、例えば狭いダンジョンでは振り回すことが難しくなる。


 ……いっそ二つ折りで収納できるようにしてみるか?

 取り回しが難しいとは言ったが、それは折れやすいという意味ではない。むしろものすごく硬いくせに柔軟性もあって、俺が全体重をかけて乗っても多少たわむ程度で済んでしまうのだ。

 この硬さがあるのならば、二つ折りになるギミックを仕込んでも実用面では問題ないと考えられる。

 メリットは長さ50センチ程度の両刃剣としても扱えること。

 デメリットは収納時は突き攻撃が出来ないことか。

 後はメンテナンスする人が大変になるな。つまり俺だ。


「実質デメリット無しか。

 ……今からお前を折ってもいいか?」


 思わず刀に聞いてしまう。もちろん答えは返ってこない……はずだが、不思議とこいつはそれを受け入れたと感じてしまった。

 そういった特殊能力があるわけではないが、ここは直感に従ってみるか。


「まだ完成もしていないのにごめんよ。必ず最高に格好いい刀に仕上げてやるからな」


 断腸の思いでノミを当て木づちを振り下ろした。


 それから10日。

 俺の手には、完成した刀が握られている。

 さやには二つ折りの状態で収まり、そのさやは白い箱状で中央にX字の凸面があり、魔光技術を早速使って四隅が三角形に、ミカの瞳と同じ緑色に光る仕様。デザインは全体的にSFを意識した。


 さやから刀を抜き、つかを握ると上部に小さな引き金があり、これを引くと二つ折りギミックのロックが外れ、片刃の刀へと変形する。

 収納時は引き金を引きながら刀を振ればロックが外れて二つ折りになる。

 どちらも刃の重量だけでカチッとロックされるようになっており、しかもロック機構をかなり頑強に作ったため、例え岩を真っ二つにしても大丈夫な耐久性を持っている

 変形機構のジョイント部分は丸いデザインで、ここにも魔光技術を使ってみたので中々に派手だ。


 つばのデザインが一番迷ったのだが、日本刀によく見られる円形のつばでは無く、手を守るように直線的で大きめの片持ちのガードを付けてみた。

 おかげで刀にも若干のSFエッセンスが加えられたので満足。


 ミカの動きを想定して、抜刀から変形、振って変形解除からの納刀という一連の動きを繰り返しテスト。

 当初計画していたものからはだいぶ変わり、変形機構のせいで重量も若干増えた。

 それでもこちらの方がいいと、胸を張って言える出来栄えだ。


「変形機構に問題なし。後はエンチャントだな」


 エンチャント台に刀を置き次々にエンチャントを施していく。

 能力強化系は当然として、術強化、魔力伝導率強化で魔法剣としても一級品に仕上げ、さらにこの刀に必要不可欠な耐久性向上と自動修復も付与。


「あとは……女神の加護って、俺が付けるものじゃないよな。そこのところどうですか、女神様?」


 試しにそう言ってみると、魔法陣が輝き何かしらのエンチャントが付与された。

 まさかと思い確認。


「加護じゃないけど、女神の祝福っていうのが付与されてる」


 祝福か。加護よりもそちらの方がミカには合っているな。

 さすがは女神様。欲しいお供え物があったらミカに言っといて。

 さて、これでこの刀は完成した。

 あとは一旦布で目隠しして、と。




「ミカ、ちょっと工房に来い」

「ん~? わたし怒られるようなことは何もしてないよ?」

「なんでいきなり怒られると思ってんだよ。とにかく来い」

「はぁ~い」


 やる気の無さそうな返事だ。

 工房のドアをしっかりと閉めて、音がなるべく漏れないようにする。


「ミカ、名誉騎士の称号、おめでとう」

「あっ! ってことは、出来たの? 鎧!」

「残念ながらそっちはまだだ。本人とすり合わせが必要な箇所が多くてな。

 んで今回の主役はこっちだ」


 目隠し用の布を取り、俺の現状での最高傑作をミカに渡す。


「これ、剣? なんか見たことない形のさやなんだけど。けどお兄が変なものを出してくるわけないよね。抜いてみてもいい?」

「どうぞ」

「じゃあ早速、抜刀っ! って、なにこの……あっ! あっ!! 分かった!!」


 俺が説明するまでもなく、二つ折りギミックを見破り変形させるミカ。

 するともう、飛んで跳ねての大歓喜!


「えー!? うおー!! 変形だ! 刀が変形した!! かっこいい!!」

「はっはっはっ。喜んでいただけたようで何より。

 二つ折りの時には両刃の剣、変形させると片刃の刀として使える。二つ折りの時は突き攻撃が出来なくなるけどね」

「ううん、ダメージは出なくても相手を突き飛ばすのには使えるから、これはこれでアリ!

 これさ、変形する時の動きがすごく滑らかだね。ロックもあまり力を入れずに外れてくれるから抜刀からすぐに変形させやすい」

「一番頑張った部分だからな。強度に関しては岩を切っても問題ないはずだ」


 もちろんこれは比喩であり、実際に岩を切れるかどうかは別の話。

 言わなくても剣聖ならば分かるとは思うが。


「試し切り行きたい!」

「待て待て。その前にちゃんと性能を把握しなさい」

「分かった! じゃあ早速詳細見せて!」


 【鑑定術】でその性能をつまびらかにする。

 するとすぐにミカが硬直し、マジかよという顔で俺を見てきた。


「二つ折りにした分弱体化するかと思ったんだけどな、逆に強くなったぜ!」

「つ、強いなんてもんじゃないよ! 何この攻撃力1500って!?

 しかもエンチャントのほとんどがレベル30を超えてる!

 これじゃあ完全に……」

「ああ。だから名称のところを見てみろ」

「【魔剣】神守かみもり……」

「表からは見えないけど、つかに祝詞と一緒に刻銘させてもらった。

 どうだ、魔剣を手にした感想は? 兄が魔剣の打てる鍛冶師だった感想は?」


 ミカは何度か大きく深呼吸をしてからニヤリと笑い、こう締めくくった。


「無双、してやんよ!」


 そのいたずらな笑顔に、俺も同じ表情で返す。

 と、そこにリタがやってきた。

 騒いでいたので、客がいなくなったタイミングで覗きに来たのだ。


「ミカ、その剣は?」

「ふっふ~ん! お兄が打った魔剣だよ!」

「魔剣……本当に打ってしまったんですね、兄様」


 途端にリタの尻尾もせわしなくなる。


「二人とも聞いてくれ。俺にも剣を振り回して一騎当千してみたいって憧れがあった。だってここは異世界なんだからな。

 だけどこいつを打ったことで俺の腹は決まった。

 俺の妹二人に、俺の憧れを託す。そのために俺は剣を打つ。

 見せてくれ、俺の剣で二人が無双する姿を」

「うん! 任せなさいっ!」

「当然です。兄様の剣が世界を取るところを、必ずやお見せします!」


 二人の力強い宣言。

 これで俺が鉄を打つ理由が明確になった。

 二人は俺の剣に見合う無双の活躍をする、そして俺はその活躍に見合う至上の剣を打つ。

 この二人三脚、いや三人四脚で、必ずやいただきまで登ってみせる。


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