3-7
「「ただいま」」
「お帰り。無事みたいで安心したよ」
3日で帰ってくると言っていた二人は、結局4日目の朝に帰ってきた。
素材以外のお土産を大量に持って。
アイテムボックスをひっくり返せば、出るわ出るわ。
到底キッチンに収まらない量の魚介類に、正直言って頭を抱えている。
「どうしてこうなった……」
「ダンジョンに感謝された際に海の幸交換券を手に入れまして、それを港の漁師さんに見せると、こうなりました」
「ダンジョンって感謝するものなのかよ……。
それは置いといてだ。こいつらを俺たちだけで消費しようとしたら、1年は魚を食べ続けることになるぞ」
「1年はさすがに……」
これはおすそ分け作戦しかないか。
「ところでお兄、わたしたちがダンジョンに行ってる間に、わたしに剣とか鎧とか作ったりは……?」
「そんな余裕1秒たりともないわ!」
「ですよね~」
色々な場所に顔を出して、それが終われば窯の準備をして鉄を打つ。
しかもやりすぎないように、常に逆方向へと集中しなければいけない。
それでもまだ8割ほどしか準備が整っていないんだ、ミカの装備にかまっていられる時間はない。
一番の計算違いは錬金鍛冶があまり使えなかったこと。
いや、使えるには使えるのだが、スキルレベルが高いせいで攻撃力が70以下にならないという、なんともな不具合があるのだ。
「とにかくだ、二人はこいつらを適当に分けて、ミカは大聖堂とアッサムさんでリタは冒険者協会に持っていけ。
それでもまだ多いから……そうだな、魔石を売るついでにクレイブさんのところに持っていくか。あと素材屋さんにもおすそ分けして、それでも残るだろうから周りの家にも……」
「私たちの食べる分は?」
「自分で確保しなさい! 子供じゃないんだから!」
言動が完全にオカンになってしまっているが、このクソ忙しいタイミングで別件が放り込まれたのだから仕方がない。
次にようやく素材の選り分け。
魔石は当然として骨に皮に爪に、肉に肉に肉に……。
「っておい! 肉多すぎないか!?」
「あ~それハイオークの肉。味は高級豚肉だよ。高級豚肉食べたことないけど」
「外来種が100匹紛れ込んでいたので、私とミカで片づけたんです」
「それでこの肉の量か。しっかし豚何匹分だこれ? これもおすそ分け対象な」
「「はーい」」
魔石は、大きいものは売却して小さいものは冒険者協会に、中サイズのものを加工用に取っておこう。
そんな魔石の選り分けを店舗スペースで一人やっていると、凍えるような空気が二階から流れてきた。
「ちょっとリタ凍らせすぎ! 魔力もうチョイ抑えて!」
「おーいどうしたー?」
「あっ、兄様! こ、これには深いわけが……」
様子を見に来たらリビングに氷塊が。
さすがに常温で置いておくわけにもいかないので魔法で冷凍することにしたのだが、冷凍役のリタがやりすぎたのだ。
バツが悪い表情のリタに踵を返し無言で去る。構ってられない。
そうして半日。
ようやく魔石とおすそ分けの選別が終わり、一斉に出発。
売れる魔石は拳サイズのものが1個と、親指と人差し指で円を作った中に収まるサイズが15個。色は青と緑が多めかな。
それとお店で加工するもの以外の小さな魔石は、リタに持たせて冒険者協会で引き取ってもらう。
俺は先に素材屋に寄ってからクレイブさんのお店へ。
「こんにちはー。魔石の買取お願いしまーす」
「フフフ、来たザマスね。早速見せてくださいまし」
「はい、こちらが買取希望の魔石です。あと表に肉と魚介類のお土産もあるので、皆さんで食べてください」
「あらあら、わたくしお魚大好きなの。外の子たちはお肉大好きだから、ありがたく頂きますわ」
クレイブさんは従業員を呼んで店先に置いてある俺の荷車を裏に移動。
従業員たちの歓喜の声が聞こえてきた。
「それでこちらが魔石ザマスね。う~んどれどれ~?」
一つ一つルーペでしっかりと見定める、とても真剣な職人の目だ。
「大きさはまあまあ、形もまあまあ。色は薄いものが多いけれど、用途次第ってところザマスね。
ハルト様、魔石の相場はお分かり?」
「いえ。それも含めて勉強させていただきたいと思っています」
「よろしいザマス。
まず、魔石の買取で最も重要視されるのは大きさザマス。
わたくしのお店で扱う最小サイズは親指の爪ほどザマスが、その場合ひとつおよそ300ミレスで買い取るザマス。
次に形ザマスが、これはよほど奇形でなければ価格に影響はないザマス。加工すればどうにでもなるザマスからね。
そして色。魔石は内包する魔力によって色が変わるザマスが、この色が濃く鮮やかなものほど高価になるザマス。
特に光属性を持つ金色の魔石と闇属性を持つ漆黒の魔石。この二つは他とは桁違いの価格で取引されているザマス。見つけたらぜひ買い取らせてくださいまし」
「分かりました」
大きさと色が重要。今後の選別の際に指標になる、いい情報を得た。
「して、これらの魔石ですが……〆て15万ミレスで買い取るザマス。
この特に大きなサイズのものは5万ミレス、他は5千から7千ミレス。
わたくしは我が子に嘘はつかない主義ですので、この価格は信用していただいてよろしいザマスよ」
「分かりました。では15万ミレスでお願いします」
妹二人がどれほどの魔物を倒したのかは分からないが、3日で15万の収入と考えると割のいい仕事に見えてくる。
しかしその実態は文字通りの命懸け。そう考えるとたった15万という気もしてくるのだから不思議なものだ。
帰宅してからお土産をご近所さんにもおすそ分け。近隣の晩御飯は焼き魚と豚肉料理で決定だ。
「ただいまー。お兄、アッサムさんから看板明日には完成だって」
「となると開店は2~3日後になるか。こっちも追い込まないと」
「手伝うよ~?」
「じゃあ素材を種類とサイズで分けるから手伝って」
「おっけー」
お店の商談スペースを作業場にして、まずは骨を選別していく。
骨は太さと長さで選別するが、しかしどれもこれも似たサイズばかり。
「なんか変じゃないか? サイズがどれも似通ってるし、肉も付かずに綺麗だし」
「あ、そっか。お兄は知らないんだった。
ダンジョンはアイテムドロップ方式なんだよ。だから素材は綺麗だし、ポーションとか武器防具も新品でドロップする。
新品なのに錆びた剣っていう矛盾もあるけどね」
「完全にゲームの世界だな」
「興味があるなら一緒に行ってみる? わたしとリタでガッチリ護衛するからさ」
「……今のところ興味ないな。それに店を何日も空けてられないし」
「それもそっか」
ただし全く興味が無いというわけではない。
異世界だぞ? モンスターだぞ? ダンジョンだぞ?
俺だって剣を振り回して格好良く戦闘を繰り広げたいという気持ちはあるんだ。
だけど俺には戦闘スキルがないし、元からインドア派で運動は苦手としている。
しかし兄としてそんな弱みは見せられない。
だからこれは、妹二人のお荷物になるのが嫌だというのが正しい。
骨の選別が終わり皮の選別に移ろうという所でリタも帰宅。
「ただいまです。素材の選別ですか?」
「そう。リタも一息ついたら手伝って」
「分かりました」
そしてリタも加わり、皮の選別。
皮は種類ごとに分ければいいのでそこまで大変ではない。
なめす作業を考えると気が遠くなるけど。
「こういうのやってくれるサービス無いかな」
ぽつりとそう呟いてしまう。
「兄様、今更言いづらいんですけど、冒険者協会でやってくれます。
魔物の解体から選別に、一般には扱えない毒袋の買取も行っています」
「マジかよ。それ先に言って欲しかったな。でもお高いんでしょう?」
「1割だっけ?」
「そうですね。作業した物品の1割を冒険者協会に渡せば無料でやってくれます」
「あらお安い」
1割程度ならば痛くない。
だけど選別も後は爪だけなので、まさに今更。
爪は今回1種類だけなので、大きさで選別。しかしそれも大と小の2種類だけ。
「ふう、選別終わり」
「おつかれー」「お疲れ様です」
「といっても俺はこれからこいつらを使って装備を作らなきゃいけないんだけど」
「量はあるけど、種類は足りるの?」
「今のところは足りるよ。
だけどこれからは時々ダンジョンに潜ってもらうから、そのつもりでね」
「うん、分かったよ」
「承知しました」
骨と爪は研ぎ、皮はなめして使う。
開店目標3日後までにどれほど作業が進められるかな。




