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3-5

 わたしの名前はミカイア・ウェライン。

 今日からしばらく、リタと一緒にダンジョン攻略。


 ダンジョンは、お兄は不思議のダンジョンみたいなタイプだと思ってるけど、実際にはひとつの巨大なフロアがリアルタイムで姿かたちを変えていく。

 だから通路と部屋の境目に階層すらも明確ではないし、先行したパーティーと途中で合流することも滅多にない。

 ただスタートとゴールは固定で、位置の変わらない固定部屋もあるので、そこで落ち合うことは可能。

 固定部屋に通じる道があればの話なんだけどね。

 そんな感じなので、一般的にダンジョンは巨大な生物だと考えられている。


「ここは?」

「国の西にある海産物で有名な港町。ダンジョンはあまり人が来ない穴場なんだ」

「海産物……兄様へのお土産にいいかもしれませんね」

「わたしたちが食べるの前提になってない?」

「なってますね」


 二人で笑いあいながら、地元の冒険者協会で受付。

 わたしたち以外には、魔族オンリーのパーティーが1組入っているだけ。これならば食い合いもなく稼げるはず。

 今回のダンジョンは6級相当で、最もスタンダードな洞窟型。

 ほかに人工的な四角い通路と部屋で構成される遺跡型や、地上そっくりの森や川を持つ自然型なんてのものもある。


「内部は町の大通りくらいの広さがありますね」

「うん。だからわたしもリタも遠慮なく剣を振り回せる。

 なんて言ってたらさっそく魔物みっけ。ねえ、見つけた人が狩るのでいい?」

「はい。それが一番分かりやすいですからね」

「んじゃもーらいっ!」


 敵はコボルト1匹。スッと近づいて一刀両断!

 相手からすれば、気付いた時には首が落ちているくらいの素早さ。

 文字通り相手にもならない敵だったけど、ドロップアイテムはお店の糧になる。

 そうそう、ダンジョンの魔物はダンジョンが作り出した偽物だから、倒すと黒い霧になって消えて、運が良ければアイテムがドロップする仕組みなんだ。

 まさにゲームなシステムだけど、この世界って結構そういうところがある。


「ミカの素早さは、ちょっとうらやましいです」

「元から身軽だったからね。

 でもこの身体能力が無かったら死ななかったんだろうなーって、たまに思う」

「そうすると兄様に再会することも無かったでしょうね」

「そう! そこなんだよ!

 寿命まで生きてお兄に胸張って生き切ったよって言いたかった気持ちと、早くお兄に出会えてよかったって気持ちがあるんだよ」

「兄様ならばどちらでも喜んでくれたと思いますよ」

「だよね~」


 そんな話をしていると、次はリタが先に敵を発見。相手はコボルトが5匹。

 リタは重戦車みたいに豪快に走り寄り、飛び掛かってきたコボルトたちを5匹一気に薙ぎ払う。


「わたしからしたらリタのパワーファイターな部分が羨ましいな~」

「前世からこういう戦い方だったので、今更変えようがないんですよ」

「そういえばあの話はヤニック・ウェラインのほうが有名で、女性騎士ヘンリッタの素性は全然知られてないんだ」

「今の私を緑色にした感じですよ。地方農家の出身だし身長も同じくらいで、得物も丁度これくらい。

 そうだ、10歳の誕生日に兄様がこの剣をプレゼントしてくれた時は、私の好みを知り尽くしていて本当に驚きました」

「いいなぁ~。鎧じゃなくて剣を作ってもらえばよかったかな……」


 リタが何か言いたげ。

 わたしも妹だから言いたいことは分かる。お兄なら今のうちに作っていてもおかしくないって。

 だけどお店の準備で忙しいだろうから、わたしとしては望み薄だと思ってる。


 敵は一撃。フロア構成も当たりを引いた。

 たった二人のわたしたちは、おかげで進むのがとても早い。

 でもドロップは渋い。粘るか進むか、判断の分かれるところ。


「素材優先にする? それともクリア優先にする?」

「ボス部屋手前の固定部屋がセーフエリアなので、そこをキャンプ地にする手もありますよ」

「いいね、一挙両得だ。じゃあそれで行こう!」


 方針が決まれば後は突っ走るのみ。

 向かって来る魔物は切り飛ばし、そうでない魔物はスルー。

 予定3日の行程だけど、この調子ならば最後の日は丸ごと稼ぎに費やせる。


 そうして突き進み、2日目の16時ごろには目的の固定部屋に到着。

 予定よりもかなり早い。早すぎるってくらい早い。


「このまま今日は終わりでもいいけど?」

「私はまだ、というか全くもって余裕です」

「だよね。それじゃあ20時目安で別行動してみる?」

「そうですね、賛成です。この部屋への道が塞がった時にはボス部屋待機で」

「うん。おっけー」


 小休止のあとに再出発。

 わたしはこの固定部屋からボス部屋までの、片道だいたい1時間くらいを往復する。

 この最初の往路で、わたしは少しの違和感を覚えた

 どのダンジョンでもボス部屋手前は魔物が増えるのがお約束。だけど魔物の数が妙に少ない気がするんだ。

 移動はリタよりもわたしのほうが早いから、リタに倒されてる可能性はない。

 考えられるのは先行しているはずの魔族パーティーだけど、たったひとつのパーティーが違和感が出るほど魔物を倒すとなると、わたしたちと同レベルじゃないとおかしい。


「でも冒険者ランク6級だって話だしなぁ……って、犯人いた!」


 前方から来たのは、このダンジョンにはいないはずのハイオーク。

 4級相当の魔物がいれば、そりゃー6級相当の魔物は数を減らすよ!

 わたしがそう納得したと同時にハイオークが幅広の剣を構える。

 もちろんこのままになんてしておけない。倒すよ!


 ハイオークは名前の通り、オークの上位種。

 オーク種は鈍重なパワータイプなので、ハイオークだろうとわたしの敵ではない。

 いつものように一気に懐に入り【剣術】で連続で切り刻む。

 耳障りな悲鳴を上げるハイオークは、特に見せ場もなく霧に……ならない?


「倒したのに霧にならないってことは、【外来種】か」


 たまにいるんだよね、その場に相応しくない魔物ってのが。んで、そういうのを一般的に【外来種】と呼んでいる。

 ダンジョンではこういう感じに霧にならないから判別が出来る。

 代わりにドロップアイテムがないから旨みは薄いんだ。


「ま、肉にはしますけどねー。今日のご飯は豚肉~♪」


 ハイオークを倒して進むと、地面に見慣れない魔法陣を見つけた。

 罠かな? 罠っぽい。

 魔法陣を踏まないように、足で擦って消しておく。

 たまにこういった見える罠もあるのがダンジョンだ。


「……もう1匹は聞いてないなぁ」


 次の獲物を探して彷徨っていると、もう1匹ハイオークが現れた。

 もしかして外来種のオークたちが大量に入り込んでいるのかもしれない。


「よし決めた。後の人のために全部狩りつくす!」


 2匹目のハイオークも無傷で倒し、わたしは次のオークを探して通路を駆ける。

 いざ探してみると、いるわいるわハイオーク。

 よっぽど大きなコミュニティが入り込んでいるのか、10分もしないうちに次が見つかるような状態だ。


 ハイオークの討伐数が20を超えたところで、運よくリタと合流できた。


「無事でよかった」

「ハイオーク程度に後れを取っていたら兄様に笑われます」

「それもそっか。そっちは何匹倒した?」

「20くらいですね。でも減っている気配はありません」

「合わせて40でこれってことは、100匹以上入り込んでる?

 でもそんな巨大コミュニティがあったらとっくにわたしの耳に入ってる」

「ダンジョン内で繁殖したんですかね?」

「かなぁ? うーん、どちらにしろここで結論は出せない。

 時間的には……もう21時だ。残りは明日狩ろうか」

「そうですね」


 二人で固定部屋へと戻り、ハイオークの肉で乾杯して2日目は終了


 そして3日目。

 早速朝からハイオーク狩りを開始し、お昼に合流して15時ごろには合計100匹討伐を達成。


「それっぽい気配はもうないね」

「100匹丁度というのは考えづらいですけど……ミカあれ。宝箱が生えてきた」

「こんな通路のど真ん中にポップするなんて珍しい」


 ダンジョンがアイテムドロップや宝箱を配置するのは、それを目的に入ってきた人間を捕食するため。なので宝箱には罠が仕掛けられていることが多い。

 当然この宝箱にもあるはずなので、警戒して剣先で蓋を開ける。


「……罠、無し。中身は何かな?」

「紙が1枚で……海の幸交換券って書いてあります」

「なんで!?」

「まあ、この世界って結構こういうところありますから」

「あはは、そうなんだよね~。

 っと、蓋の裏に文字が刻んである。『ハイオーク全滅ありがとう』だって」

「ダンジョンに感謝された……」

「この世界って結構こういうところ……いや無い無い!!」


 思わずノリツッコミだよ!

 わたしでもこんなのはさすがに聞いたことがない!

 だけどダンジョンが巨大な生き物説が正しいとすれば、異物であるハイオークを排除したわたしたちに感謝するのも分からない話ではない。

 ハイオークの件も含めて、今はただ事実を事実として受け入れておこう。


 それからは2時間ほど雑魚狩りをした後、ボス部屋へ。

 大抵のダンジョンにはボス部屋があって、そのボスを倒すと宝箱と魔法陣が現れて、直通で地上に帰還できる。

 このダンジョンのボスは港町だからなのか、空中を泳ぐ鮫のフライングシャーク。

 5級相当だからそこいらの敵よりは強いけど、所詮は5級。


「あれは私一人でも余裕でしょう」

「うん、じゃあお任せ」


 リタは部屋の中央へと歩き、フライングシャークに対峙し剣を抜く。


「落とせよ、フカヒレ!」


 食欲旺盛!

 走り出した重戦車。だけどフライングシャークは素早い動きでリタの手から逃げる。

 何度か空振りをした後、リタは剣を収めて部屋の中央で止まって動かなくなった。

 これを好機と捉えたフライングシャークが、咆哮とともに大口を開けてリタに突撃!

 これをリタは左腕を噛ませることで止めた。


「リタ!」

「ふっ、やはりこの程度か」


 焦るわたしとは対照的にリタは笑ってすらいる。

 次の瞬間、リタは右手でフライングシャークをぶん殴り昏倒させてしまった。

 そして頭に剣を突き立て、「おらあ!」という声と共に尾の方へと走り真っ二つ!


「ハハハ、こんな倒し方ありかよ……」


 あまりのパワープレイに唖然。

 一方のリタは涼しい顔で宝箱を回収してるんだから、前世でも似たような戦い方をしていたんだろうね。


「宝箱の中身、回収しましたよ」

「それはいいけど、今の戦い方をお兄が見たらお小言もらっちゃうよ?」

「んー確かに。とはいえダメージなんて無いも同然なので、話せば分かってくれると思いますけどね」

「ドラゴニュートに黒鉄の鎧、そしてお兄がエンチャントした防御力強化24なんていうありえない数字のネックレス。

 そりゃーここまで揃えばフライングシャーク程度じゃ傷ひとつ付けられないね」

「はい。……?」


 会話の最中に、ふいにリタが自分の剣を眺めて数秒フリーズ。


「なに? いきなり剣を眺めてぼーっとして」

「いえ……たぶん気のせいですね。さて魔法陣も出ましたし、帰りますか?」

「そうだね。アイテムボックスにはまだ余裕があるけどお土産も買いたいから、脱出しよう」


 ボス部屋に出た魔法陣の中央に立てば、自動で地上のダンジョン入り口付近までテレポート。

 こうしてわたしたち姉妹の初ダンジョンは、特にダメージもなく攻略完了。

 あとは町で海の幸交換券を使って、お兄へのお土産を買って帰ります。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「何? ハイオーク部隊が全滅しただと? 100体も送り込んだのだぞ!」

「申し訳ございません。しかし事実でして……」

「……貴様が嘘をつくとは思っていない。しかし原因は究明しなければいかん。そこのところは?」

「それが、往復用の魔法陣が消されており、確認に時間がかかったため詳細が分からず仕舞いでして……」

「何をしているのだ貴様ともあろう者が!」

「申し訳ございませんっ!」

「全く……一刻も早く人員を補充せよ。奴らの後塵を拝するなど、”あのお方”に顔向けが出来んではないか……」


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