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30-3

 道中は特に大きな問題もなく、俺たちは無事聖都に到着した。

 聖都なだけにやはり宗教色が色濃く出ているのだが、俺はそれ以上にとある建物に目が釘付けになっていた。


「どう見てもアレにしか見えない……」

「だよね……。けどあれは紛れもなくこの世界の建造物なんだよ」

「偶然……なわけないよなぁ……」


 俺たちが見上げる先にある建物こそが明日向かう予定の中央神殿なのだが、その姿は前世にあった【第二東京タワー】そっくり。

 恐らくはこの世界の女神様たちの出自からなのだろうけれど、こうもあからさまだと同郷として複雑な心境になる。


「ロシル様、この神殿の歴史について何かご存じですか?」

「人間が創造される以前よりここにあったと伝わっており、女神信教としてはこれを真として、この中央神殿も女神様がお創りになられた神器の一つと数えています。

 ただ、それを誰が伝えたのかという矛盾はありますが」

「大司教様がそれを言っちゃダメじゃないですか?」

「女神信教は案外とゆるいものなのですよ。はっはっはっ」


 あとで女神様に怒られても知らないぞ~。

 しかしこの話もあながち間違いではないように思う。

 初代女神様は中々の逸話持ちで、嫉妬から世界を滅ぼしかけたこともある。

 そういう人物なので、この中央神殿も昔を懐かしんでそっくりに作ったという想像が出来てしまうのだ。

 ……となると初代女神様って、俺たちよりも未来の人の可能性もあるのか。

 神の世界の時間軸って、どうなってるんだ?


 ホテルに到着。

 あえて言う必要もないと思うが聖都で一番の高級ホテルで、大司教様たち3名はスイートルームを超える特別室で、俺たちもかなりいい部屋に入れた。

 ホテルのボーイさんに聞いたら、この時期は降臨祭とも巡礼時期とも外れるので、観光が目的の場合にはとてもいいタイミングらしい。

 残念ながら俺たちは弾丸旅行なんですけどね。

 そして女神信教は食事の制限が無いので、美味しいディナーを堪能致しました。

 ちなみにディナーの終わり際に、ロシル様にこう声を掛けられた。


「ハルト様。わたくしは明日、何も見ませんし、何も聞きません」


 まあ、ね。

 俺みたいな俗物がいきなり聖都に行きたいだなんて言い出したら、何かを企んでいると察して当然だ。

 実際、企んでるし。

 しかしそれに対して知らぬ存ぜぬを通すと宣言するとは、ロシル様も中々に世俗的だなと思うのだった。


 翌日。

 既に俺たちの入場許可が取れているとのことで、朝食後さっそく神殿へ。

 なおセキュリティの関係で、ここから事が終わるまでザナドゥは出しっぱなし。

 途中で知らない人が増えると問題だからね。


「近くで見てもアレにしか見えない……」

「中は全然違うけどね」


 入るとまずは礼拝堂で、一般の教徒はこの礼拝堂までしか入れない。

 規則的に組まれた骨組みからの日差しが、綺麗で特徴的な影を作っている。

 ……一番奥の壁にいい感じに十字の影が出来ているのだが、女神信教のシンボルマークにある十字の由来って、これか?


「まずはお祈りを捧げましょう」


 そのお祈りが1時間以上かかるのだが、ここは俺もしっかりお祈りしておく。

 内容は……家内安全・商売繁盛・交通安全・恋愛成就・安産祈願。

 最後は鍛冶で事故なく成果物を生み出すという意味でよろしく。


 なが~いお祈りも終わり、礼拝堂の奥へ。

 しかしここでアトスさんと女性が離脱。俺は入れるのに二人は入れないそうだ。


「ハルト様、これより先の光景の一切は他言無用にお願いいたします」

「はい、承知しました」


 この先は女神信教の、ひいてはこの世界の中心地。

 セキュリティの種類すらも秘匿にするのは当然の話だ。

 係の神官に案内された先には、三名の神官が待機する小部屋とポータル魔法陣。

 彼らがいなければこの魔法陣は発動しない仕組みのようだ。

 セキュリティをバラしてる? それはそれ、これはこれ。


 魔法陣に乗って転移した先は、タワーの中腹にある第一展望台。

 中央に円卓会議場という部屋があり、部屋の周囲はぐるっと一周歩ける。


「わたしが降臨祭にお邪魔した時は、ここで各国の大司教様が会議をしてたよ」

「雰囲気は女子会って言ってたやつか」

「ふふっ、女子会ですか。しかし参加者を見れば老人会でしかありませんよ。

 ザナドゥ様がいらっしゃれば場も華やぐでしょうけれど」

「考えておきます」


 考えない奴だこれ。


 さてここから上に行ける階段が見当たらないのだが?

 そう思っているとロシル様がおもむろに、入口とは反対の壁に手を向ける。

 すると青い魔法陣が浮かんで起動し、円卓テーブルが床に収納され、中央に大きな魔法陣が浮かんだ。


「さあ、参りましょう」


 まさにファンタジーな仕掛け! こういうのが欲しかった!


 魔法陣に乗ると、魔法陣そのものが床になってゆっくりと上昇。

 つまり下が丸見えなので、高所恐怖症だったら泣いているかもしれない。

 逆に上を見ると、タワーの残り階層以上にあるような錯覚を覚えて目が回る。


「……ここからは神域になります。皆様方もそのつもりで」


 俺、ミカ、ザナドゥが頷く。

 するとそれを待っていたかのように、エレベーターが光の中に吸い込まれた。


 ……神域、という言葉に偽りはない。

 俺たちが到着したそこは、浮遊島に作られた荘厳な空中神殿。

 下を覗いても雲しか見えない。


「そういうことでしたか」

「ザナドゥは分かるのか?」

「はい。ここは私たちのいた世界ではなく、しかし神の世界とも違います。

 言うなれば両世界の緩衝地帯として作られた、狭間の世界です」

「左様。故に神域なのです。

 そしてこの神域を守護し、神域を汚さぬよう世界の秩序を保つ。それこそが我ら女神信教の真なる姿なのです」


 だからこそ剣聖はその国の君主と女神信教の大司教が連名で任命するのか。

 ……一部、汚職にまみれた大司教もいるようですけど。


 空中神殿を奥に進むと、見上げるほど巨大な、しかし開いた状態の扉があった。

 なんとなくだが、俺を歓迎しているように感じる。

 その先は円形の部屋になっており、壁には様々な神器が飾られている。

 槍に弓にハンマーに、兜に鎧にブーツ、指輪に腕輪にリボンなどなど、さすがは神器と唸るものばかり。

 やはり世界は広いな。


「……いた。久しぶり、エーテルディバイン」

「初めまして、兄様」


 あれっ、もう来たの? だってさ。

 ……ああ、なるほど。本来俺がここに来るのは死んでからなのに、生きてる状態で来たから首をかしげたのか。

 そして妹こと【聖剣】ザナドゥの登場に、他の神器も一緒になって大盛り上がり。

 これは聖剣という称号が他よりも頭一つ抜けているからのようだ。

 ……だからなのか?

 台座は余っているのに、一番神器になりそうな剣が何処にも見当たらない。


「神器って言うからもっとお堅い雰囲気かと思ったのに、みんなノリがいいんだな」

「神器の……ノリがいい……?」

「ロシル様、お兄の言葉は真に受けちゃダメです」

「本人からもそう進言させていただきます」

「そ、そうですか……」


 困惑するロシル様が存外かわいいおじいちゃんで、ほのぼのしてしまう。


「さてザナドゥ、どうする?」

「決めるのはエーテルディバイン(兄様)です。……が、とっくに答えは出ていますね」


 ちなみに他の神器たちは幻体を得ることを辞退。

 彼らはあくまでも神の持ち物であり、神の許し無く手が加えられるのは、あらゆる世界的に非常にまずいらしい。

 ちょっと羨ましがってはいるけれども。


「最後に、ロシル大司教様。私が【聖杖】エーテルディバインに手を加えることをお許し頂けますか?」

「聖杖は既にわたくしどもの手には無く、女神様の手にあります」

「ならば構いませんね」


 軽い口調のザナドゥに、ロシル様の顔がこわばったのを俺は見逃さなかった。

 なにせ女神様の持ち物だからな、今のエーテルディバインは。


 ザナドゥが深呼吸をすると、エーテルディバインが輝き、自ら棚から出てきた。

 そしてザナドゥからエーテルディバインへ、光が流れ込む。

 ……今までよりもさらに強い光だ。

 そして光が収まると、そこには【聖杖】エーテルディバインを手にした……男の子がいた。

 見た目は茶髪に南国の海のように透き通った青い瞳で、背丈は本体と同じ。

 そして将来間違いなくイケメンになるタイプの整った顔立ち。モテモテ確定だ。

 服装は金色ラインの入った白いフード付きローブで、裾が地面に着いている。


 男の子は早速俺に向かって頭を下げた。


「この姿ではお初にお目にかかります。僕は聖杖エーテルディバイン。

 改めて、再びお父様とお会いできたことを光栄に思います」

「こちらこそ。……男の子でいいんだよな?」

「杖なので正確には性別はありませんが、この姿は15歳の男性として形成しています」


 さすがは知を司る武器の化身、めっちゃ律儀で聡明だ。

 なのに堅苦しさの無い、むしろ柔和で人懐こい印象を与えてくれる。

 伊達に全属性を持っているわけじゃないな。


「それではザナドゥ、始めましょうか」

「はい。私と兄様で力を合わせて、あの方を……女神永遠(とわ)様を召喚します」


 そして二人そろって俺を見やり頷く。


 ……俺の願望。

 【家族】をこの手に取り戻す!


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