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3-4

「ねーねー、こんなの欲しい」


 工房で窯の魔力切れを待っていると、ミカが鎧のデザイン案を持ってきた。

 胸部だけのライトアーマー、肩と腕にプロテクター、そして下半身はグリーブのみ。

 これに赤マントと赤ハチマキを装備させたら、魔王の名前でダジャレを言える某RPGの主人公だ。


「さすがに下半身が無防備すぎ。やり直し」

「ちっちっちっ。分かってないな~お兄は。

 わたしの戦闘スタイルは素早さで敵を翻弄しつつ、一瞬のスキを突く。

 つまり動きやすさこそが生命線。当たらなければどうってことはない!」

「……お前もしかして、俺がいないうちにオタク化したな?」

「いや、その~、遺品整理でお兄の持ってた漫画とかアニメ見てたらドハマリしちゃって……。

 でも剣道は休んでないし学校にもちゃんと行ったからね!」

「当たり前だろ」


 原因は俺か。しかしあの脳筋スポーツ馬鹿がアニメや漫画を……想像できない。


「とにかく、わたしはこういうスタイルで行きたいの!」

「はいはい分かったよ。お前にデザインセンスがないのも含めてな」


 元々軽戦士のスタイルだったので、納得は出来る。

 だが兄としてこの防具の少なさは看過できない。可愛い我が妹に傷一つ付けさせてたまるものか。

 となると……ふむ、全身タイツというかボディスーツ型のインナーを想定しているようなので、そちらを利用して防御力を高めるか。

 あとは鎧のデザインを詰めたいが……そうだ。


「ミカ、一番ハマった作品は?」

「桜は楓に恋してるっていう小説原作のアニメ。

 主人公の葉咲桜はざき・さくらが登校中のバスの中でだけ会える篠山楓しのやま・かえでに恋しちゃうの。

 もう~っ! 切ないっ!

 だって恋している相手よりも早くにバスを降りなきゃいけないんだよ。その葛藤に毎回毎回キュンキュンするんだよー!」

「それって確か、のらりくらりん先生の新作だから、ジャンルが……」

「百合です」

「あっはい」


 真顔で言われちゃったよ。我が妹ながら中々の属性を身に着けてしまったようだ。

 しかしあの作品、数年後にはアニメ化されるのか。

 ……ネタバレを食らった気分になるな、これ。


「そっちの話は深くは聞かないでおくとして、他には?」

「お兄は絶対に知らないけど、スタ―ライトナイツオンライン。

 SF世界が舞台のフルダイブ型オンラインRPG、を舞台にしたライトノベルが原作のアニメ。

 ビームソードとかビームライフルとか、あとパワードギアっていうロボットに乗ったりとか!」

「まさかのそっち系か」

「いや~これが楽しいんだよ。ゲームもしたことのない主人公の女の子が、自前の身体能力だけでランキングを駆け上がるんだから!」

「……お前、自分と重ねただろ?」

「それは……否定はしないけど、それだけじゃないもん!」

「はいはい、分かった分かった」


 このファンタジー世界にSF装備はありえないのでこれも一切参考にならず。

 さてどうしたものか。


「あ~わかった。鎧のデザインの参考にしようとしたんでしょ。

 にひひ~、わたしは一向にかまわん!」

「ファンタジー世界だろ、ここは!」

「チッチッチッ。我々冒険者は世界観など気にしないのです。だからSFアーマーもアリ!」


 親指をグッと立てて、そういう方向性で行けと言わんばかりのミカ。


「ハァ、全く。一応参考にはさせてもらう。ただしこれ以上肌の露出をする装備は許さないぞ」

「言動が娘を嫁に出したくない父親じゃん。それにこの世界って結構こういう人多いんだからね」

「世界がそうでもお兄さんは許しません!」

「父親かっ!」


 ボケとツッコミが決まったところで、炉の魔力がようやく尽きた。

 炉の中に入れてあった魔石はミカに頼み、俺はランプの中で待ち続けていたヘパイストスの火のお引っ越し作業だ。

 鉄の柄杓に乗ったヘパイストスの火は、ランプから出した瞬間から魔力窯へと吸い寄せられるように揺らめく。

 そして炉の中に入れれば、元気よく燃え上がった。


「ふう、爆発はしなかったか」


 魔力窯が自動で火を維持してくれるので、あとは熱がしっかり回るまで待機。

 今のうちに鉄鉱石をいくつか工房に運んでおこう。

 そう思い外で作業をしていると、上からリタが手伝おうかと声をかけてきた。

 しかしこの程度ならばドワーフにとってはどうってことないので遠慮。


 窯の温度が目標値を超え、用意しておいた鉄板が真っ赤に焼けるのを確認。

 これでようやく鍛冶仕事が可能になった。


「兄様」

「ん~? どした?」

「いえ、手持無沙汰なので」

「とは言っても……晩御飯の買い出しくらいしか頼むことはないよ」

「ならば買い出しに行ってきます」

「気を付けてね」


 尻尾が下がっているリタを申し訳ないと思いながら見送り、これで人払いが出来た。

 さて、ここに取り出したるは【ゾーリンのハンマー】。

 アッサムさんは気付いていなかったが、このハンマーにはエンチャントが施されている。

 その名も……鑑定不能!

 ゾーリンのハンマーには、俺の目利きスキルレベル45でも見破れないエンチャントが施されているのだ。

 そのエンチャントが一体何者なのか、ナイフを試作して解明しようという算段だ。

 本当ならば別の剣を処女作にするつもりだったのだが、さすがに試し打ちもせずには作りたくないのでね。


「金床に固定して、まずは一撃」


 カンッ!

 いい音がして、久しぶりの感覚が手に伝わる。

 カンッ!

 う~んこれは、なるほど。

 カンッ!

 いい感じだ。


 ゾーリンのハンマーは、とても打ち心地がいい。

 狙いたい一点に吸い込まれるように向かうので、無駄な力が入らないのだ。

 おかげで疲れを気にせず打ててしまう。夢中になってしまうほどに。


 その後はやはり夢中にハンマーを叩き続けた。

 完成を示す甲高い打音が鳴り、そこでようやく意識が「お腹空いた」という情けない声を出す妹二人に行ったほど。

 それでもまだ疲れは感じないのだから不思議なものだ。

 おそらくこれがゾーリンのハンマーに施されたエンチャントなのだろう。


 食事を挟み、完成したナイフを確認する。


「鉄のナイフで攻撃力180は軽く異常だな。エンチャントまでしなくてよかった」

「100万ミレスのショートソードを超えてるナイフ、おそろしや~。

 んでそれ誰にあげるの?」

「誰にもやらないよ。この工房で最初に打った業物わざものなんだ、記念に俺が取っておく」


 使ってやる方が幸せかもしれないが、しかしこいつに傷はつけたくない。親心だ。


「んでだ、これから二人に頼みたいことがある。

 お店が開店するまではまだ時間がかかる。看板がまだだし、商品も揃える必要があるからね。

 だからその間に、ミカとリタでダンジョンに潜ってもらいたい」

「素材収集ですね」

「そういうこと。

 鉄製品だけじゃ味気ないだろ? だから色々な素材で武器を作りたいんだ。

 それに色々な素材を触れば俺の腕も上がる」


 村ではゾーリン父さん指導の下、特殊な硬い木や魔物の骨など、鉱石以外でも武器を作った。

 もしもその時の経験値のおかげで鍛冶レベルが高いのならば、村では手に入らない素材に触れれば更なるレベルアップにつながるのではないかという考えだ。

 もちろんお店として職人として、お客さんに腕前を示すという意味合いもある。


「兄様に貢献するのならばやぶさかではありませんが、ミカはまだ教会騎士のままですよね。

 このままダンジョンに潜ってもいいのでしょうか?」

「あーそれね、さっき大聖堂に寄った時に聞いたんだけど、もう名誉騎士になるのは内定してるってことで、自由行動の許可取ってあるよ。

 ただ称号の授与式が1か月後くらいにあるから、式には必ず出席するようにって釘を刺された」

「1か月も猶予があるのならば、タイムアウトの心配はありませんね」

「うん。それで潜るダンジョンなんだけど、ポータルから行けて5日くらいで攻略できる穴場があるから、そこにしようか」

「ではそこを3日で攻略しましょう」

「おっ、いいねぇ!」


 やっぱりこの二人は戦闘狂だ。


「でも二人だけで大丈夫か? いくらお前らが強いからって、囲まれたら危険だろ」

「大丈夫。冒険者ランク6級相当だから、ダンジョンの魔物が全部向かってくるようなことがない限りは余裕だよ」

「私だって前世では3級相当で、今生ではもっと強いので」

「そこまで言うならば分かった。だけど油断はしないようにね」

「「うん」」


 二人は翌日からダンジョン攻略の準備。

 ポーションや日持ちのする食料を買い込み、それらを俺が村から背負ってきたリュックに詰めて、次はリタが背負う。

 ダンジョンで手に入れた素材に関しては、ミカがアイテムボックスというものを持っているので、そちらに入れる。

 見た目はメガネケースほどのサイズの化粧箱なのだが、入れる物が箱に合わせて小さくなり、かつ異次元に収納される魔法の道具だ。

 ミカはこれを腰に下げて使っている。後でリタにも用意しよう。

 その間に俺は攻撃力100程度の予備の剣を3本用意し、二人に持たせる。


「それじゃあ行ってくるね」

「行ってきます」

「おう、頑張って俺のために働けよ~」

「「あはは!」」


 絶対に俺には似合わない言葉で送り出す。

 こちらはしばらく俺の一人舞台。武具を量産して開店に備えよう。


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