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3-3

 契約完了から数日。


「ふぃ~。ようやく入った~」

「お疲れさん。しかし俺たちのまで用意させちゃって悪いな」

「いーのいーの。そのために貯めてたお金だからね」


 リビングとキッチンに俺の部屋と、大物は俺も手伝ってミカの部屋に家具を搬入。

 まだ足りないものはあるが、ひとまず俺たち兄妹は新たな我が家へと引越しを済ませた。

 俺は二階、妹たちは三階。

 三階の一部屋が空いているが、今のところは荷物置き場になっている。

 将来俺が住み込みの弟子を取ったりしたら、その時に部屋が埋まるだろう。


「引っ越し祝いにそばでも打つか?」

「ハンマーで?」

「そうそうハンマーでお前の頭をな」


 ミカの頭にポカポカとハンマーを振り下ろすポーズをすると、キャーと言いながら逃げて行った。


「リタ、そっちは終わったか?」

「あとはこの棚の位置を少し……」


 次にリタの部屋を覗けば、大きな棚をほんの少しだけ動かしている。

 俺も知らなかったリタの顔。リタはとても几帳面だった。

 血液型での性格診断は一切信用しない俺だが、リタはA型だと思う。


 リビングに降りると、ミカは果物を間食中。


「お兄、お店の準備は順調なの? なんなら手伝うよ?」

「その必要はないよ。準備は着々と進んでいるのだ。

 それにしても、大司教様からの開店祝いのおかげでだいぶ初期費用が浮いたな」

「引っ越してみたら山盛りの鉄鉱石と引っ越し祝いって書いた板が置いてあるんだもんね。

 大司教様らしいやり方だけど、せめてわたしには言っておいてほしかったな」

「拗ねないの」

「拗ねてない。ところでお店の看板はどうするの?」

「もう発注してある。ミカのお世話になったアッサムさんにな」

「へぇ~、やるねぇ~」


 これも俺なりの恩返し。

 アッサムさんからはゾーリン父さんからは教わらなかった、商売としての鍛冶を教わった。


 武器の攻撃力には自主規制枠があり、最高でも280までしか販売してはいけない決まりがある。

 だが実際に攻撃力280の武器を販売する武器屋は存在せず、一般流通する武器は攻撃力100で頭打ちだという。

 その理由は鍛冶師の腕などもあるが、一番は価格。

 剣の場合は攻撃力50を境に相場が急上昇し、攻撃力100で80万~100万ミレスにもなるため、一般冒険者にはおいそれと出せる値段ではなくなるのだ。

 これを踏まえ、俺の店では攻撃力40~80の武器をメインに扱い、オーダーメイドに限り高い攻撃力の武器を作ることにしたのだ。


「誰かさんの剣は本気で打たせてもらうけどね」


 独り言をつぶやき、工房へ。


 現在は魔力窯の魔力を空にする作業中だ。

 先日のメンテナンス業者も言っていたが、改めて説明。

 この魔力窯は10年以上放置されていて、しかも適切な封印処理をされていなかった。

 おかげで徐々に魔力を吸い続けてしまい、その量がかなり過剰になっている。

 そんな窯にいきなりヘパイストスの火を入れると、天を衝く火柱が上がってしまう。

 これを防ぐために魔力の切れた空の魔石を入れて、魔力を吸わせている。


「順調に減ってるな。魔力窯にも【鑑定術】が使えるのは助かった」


 しかし安全な数値になって火を入れても、それですぐに鉄が打てるわけではない。

 炉の全体に熱を行き渡らせ、鉄を溶かして不純物を取り除き、型に入れて鉄の棒を作る必要があるのだ。

 ただし俺は錬金スキルを持っているので、鉄の棒を作る工程を【錬金術】で飛ばせる。

 また【錬金術】は日本刀のようにふたつの異なる素材を合わせる場合にも使えるので、つまりは整形以前の工程のほとんどを省略できる。




 【錬金鍛冶】のウインドウを開いて処女作のデザインを練っていると、外から大声で俺の名前を呼ぶ声が。

 向かってみると、そこにはアッサムさん。


「アッサムさん、まさかもう?」

「いやいや、さすがにそんな早くは出来んさ。ただ店の様子を見てみたくってな。

 お邪魔してもいいかい?」

「ええ、どうぞ」


 もう看板が出来上がったのかと焦ったが、そう簡単には行かないか。


「いや~地図が無かったらたどり着けた気がしないな」

「路地の奥ですからね。でも隠れ家的でいい場所でしょ?」

「商売人の言葉じゃないぞ、それ。

 店の中は……結構広いな。あそこのテーブルは?」

「商談スペースです。元から付いていたので、そのまま利用します」

「そうか、商談スペースな~。ウチにも欲しいな」

「お互い様なので真似しちゃってください。

 ついでなので、お客さんから多く出る要望って何かありますか?」

「そうさなぁ……女性冒険者からは試着スペースが欲しいって言われることが多い。

 けどウチは狭いからそんな余裕ないんだよなぁ」


 試着スペースか、それは考えになかった。場所はあるので簡易的に作ってみるか。

 というか女性であるはずのミカは何も言っていなかった。もしかしてあいつ、着替えに対する羞恥心が薄いのでは?


「んで次は本命の工房を見せてくれよ」

「分かりました。こっちです」


 アッサムさんを工房にご案内。


「中々に広いな。火は入ってないのか?」

「封印処理が正しくなかったせいで魔力が過剰になっているんですよ」

「あ~、それで魔石を放り込んでんのか。

 この魔石はあとで冒険者協会に持って行って処理してもらえよ。

 このままだと魔力の属性が混ざり合ってて使い物にならないからな」

「分かりました」


 加工して使おうかなと思っていたが、それならば素直に処理しよう。


「道具類は揃ってるな。金床は中古だって言ってたけど、これ新古品だな」

「ですよね。傷がほとんど無いですから」

「……オレも欲しいな」


 ぼそっと呟かれた言葉を、俺は聞かなかったことにする。


「ん? このハンマーは?」

「村を出る時に父から贈られたものです」

「ゾの一族直伝のハンマーか! ックゥ~! 羨ましいぜ!」

「父の名に恥じない使い手になれるように精進します」

「鍛冶はスキルと自分の腕前の両方があってこそだからな。かくいうオレもまだまだいただきは見えない。お互い精進しようや」

「はい」


 職人の道に終わりはない。しかしゾの一族はいただきに達した。

 もしかしてそれは言葉通りの意味ではないのかもしれない。

 しかしそれを知るのはゾーリン父さんだけだ。


「工房の中は、見た限りじゃオレが心配するようなことはないな。

 後は……そうだ、鉄鉱石とかの業者は見つけたのか?」

「はい、空の魔石をもらいにギルドに行った時、ギルマスのハーリングさんからいい業者を紹介していただきました。それにレアなものは二人がダンジョンに潜って取ってくるって息巻いていますから」

「そうか、剣聖がいればギルマスとも話が出来るもんな。

 ……なあ、たまにでいいから、融通してくれんか?」

「はっはっはっ。たまにならば」

「よっしゃ! お前さんと懇意になって正解だったぜ!」


 子供のようにはしゃぐアッサムさん。


「おっ、そうだ。シンシアナ地区の宝石商で【クレイブ】ってのがいるんだが、魔石の売買に関しちゃ奴が王都で一番詳しい。

 クセのある奴だが、頼りになるから顔を出しておくといいぞ」

「分かりました。今度訪ねてみます」


 魔石は宝石商が扱うものなのか。

 確かに綺麗に磨けば宝石のようにも見える。


「お兄~、ってさっきのアッサムさんだったんだ。こんにちは」

「おうミカちゃん、お邪魔してるよ。って言ってももう帰るけどな」

「お茶くらいなら出すよ?」

「いいのいいの、たかりに来たわけじゃないんだから。

 んじゃハルトさん、看板が出来たら連絡するよ」

「はい。よろしくお願いします」


 軽く手を振ってアッサムさんをお見送り。


「それで?」

「あ、うん。余裕が出来たらでいいんだけど、わたしの鎧も作ってもらいたいんだ。

 今のって既製品だからフィット感もいまいちだし、あんまり強くないんだよね」

「分かった。でもデザインは自分で考えるように」

「え、自分で考えていいの? やったー!」


 まるであの頃のようにはしゃぐミカ。


「でもいきなりだな」

「だってリタの鎧見たらさ~」

「はっはっはっ! 嫉妬したのか。そうかそうか。んでそのリタは?」

「まだ家具の配置に悩んでる。凝り性だねぇ~」

「キッチリしてるのは悪いことじゃないさ。度が過ぎると困るけどね」

「んだね。……お腹すいたかも」

「またもやいきなりだな」


 開店前、おそらく今が一番忙しいだろう。

 そんなことを思いながらキッチンへと向かう俺だった。


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