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本番、オリハルコンを刃に使った剣の制作を始める……前にやることがある。
それはオリハルコンという素材の調査。
神の金属であるオリハルコンが、どれほどの温度で人にその身を託すのかを調べる必要があるのだ。
だが……。
「参ったな……」
王立図書館で、該当の鉱石で作られた装備を調べ、そこから制作者を、そして制作方法を調べる。
いつもはこの方法でどうにかなるのだが、今回はまったく情報が出てこない。
オリハルコンを手に入れた後から時間を見つけては王立図書館で調査をしているのだが、今まで進展はゼロ。
そもそもオリハルコンの武器となると伝説だの神器だのと真偽不明な眉唾物の話ばかりで、実在する武器の情報が一切出てこないのだ。。
鉱石はある。知名度もある。かなりのレア物だが量もある。
なのに何故なのか。
分からん……。
「あらハルト様、珍しいところで会ったザマスね」
「クレイブさんじゃないですか。そちらは何用で図書館に?」
「本を読みに。……という当たり前の答えは望んではいないザマスよね」
宝石商のクレイブさんが図書館にいた。
クレイブさんに手招きされ、人気のない場所へ。
「ここならば誰にも聞かれないザマスね。
……スティーリア王国の件、ご存じザマスか?」
「ドラゴンに襲われて消滅ですよね。ミカから聞いています」
「ならば話が早いザマス。
ドラゴンの襲撃から辛うじて逃れられた一団からの話で、ドラゴンたちが【女神の代行者】を名乗ったという情報が出てきたザマス」
「女神の代行者……随分と図に乗ってやがるな」
「全くザマス。しかし問題はその先。この本の、ここを」
クレイブさんが開いた本は、今にも崩れそうなほどに古い。
保護魔法が掛かっていてなおこの状態ならば、1000年以上は経っていそうだ。
そんな本のとあるページには、こう書かれている。
『ドラゴンは女神様が創造した最初の存在であり、それゆえにドラゴンは女神様の第一の僕である』
「これを根拠に女神の代行者を名乗って復讐か。やることがみみっちいねぇ」
「しかし女神の代行者を名乗った以上、彼らは掟に従わなければならない。……このページを」
『女神の代行者現る時。それは人類に審判が下る時。
女神の審判、すなわち逃れられぬ終焉の時』
「女神の代行者を名乗った以上、ドラゴンたちは掟に従い、人類に【逃れられぬ終焉の時】をもたらさなければならないザマス。
たとえそれが女神様の意に沿わないものだとしても」
つまりドラゴンたちの最終目標は俺ではなく、人類皆殺し。
だけど俺の知る限り、女神様はそんなことは望まない。
「……そうか、だからオリハルコンなのか」
自称女神の代行者に、神の金属でお灸をすえろ。
永遠がオリハルコンを指定してきた理由がようやく分かった。
「オリハルコン……またとんでもない存在に手を出しているザマスね。
して、見込みはあるザマスか?」
「いいえ。オリハルコン自体の数はあるはずなのに、武器の制作方法となると一片も出てきません」
「武器に? ならば当然のことザマス。
オリハルコンは神の金属。ゆえに争いごとに用いてはならない。
そういう暗黙の了解があるザマスよ」
「女神様を人や魔物の血で穢してはいけない、的な感じかな」
「その通りザマス。なのでオリハルコンの武器は伝説上の存在であり、実在してはならない。
唯一の例外が、古の魔王を屠った聖剣ザマスね。
しかしその聖剣も女神様から賜った物であり、女神様に返納された。
よって今現在、この世にオリハルコンの武器は一振りとて存在していないザマス」
武器が存在しないのだから、その制作方法も存在しない。
当然の話だ。
そして永遠のオーダーの真意は、俺に聖剣を打てというものだった。
とんでもない話だ。
だがやる!
千年に一度の切り札を切った妹の頼みだ、兄として命を懸けて応えてやる!
「ところでクレイブさんの本当の目的は?
この本だけならわざわざ出向く必要もなかったでしょうに」
「中々鋭いザマスね。わたくしの本命は、この本ザマス」
「アイビー放浪記?」
「著者のアイビーはその身一つで世界各地を渡り歩き、あらゆる宝石を見つけ、その加工法を確立させた、宝飾業界の伝説的存在ザマス。
そのアイビー放浪記には、ドラゴンの体内でのみ生成される【竜核】という宝石についても書かれているザマスよ」
「……まさか倒したドラゴンから手に入れようと?」
「ふっふっふっ。わたくしも商売人ザマスからね」
さすがはクレイブさん、抜け目ない。
そしてそんなことを聞いてしまえば、俺も狙わざるを得ない。
このアイビー放浪記は貸出禁止なので、クレイブさんと一緒にテーブルでお勉強。
そのなかで、こんな記述に目が行った。
『ドラゴンがキラキラしたものを集めたがる性質を持つのはよく知られている。
しかしそれが何故なのかはあまり知られていない。
実はドラゴンは臆病な性格で、自分を傷つける存在を身近に置くことで安心しようとしているのだ。
ではドラゴンを傷付ける存在とは?
それがオリハルコン。
オリハルコンは神の金属とも呼ばれ、かの聖剣にも用いられたことで知られる。
そんなオリハルコンは赤みのある金色をしており、魔力を与えると浮遊するという唯一無二の性質を持つ。
剣にすれば超硬質の鱗を易々と断ち切り、盾にすれば超高温のブレスを跳ね除け、靴に使えば人類に空という新たな世界を見せてくれるだろう』
……ドラゴンブレスでも溶けない!
めっちゃいいヒント!
ドラゴンブレスは、火の色で言えば白に該当する。
つまりオリハルコンを打つためにはそれ以上、青色が必要になる。
「青い炎かぁ~、可能性はあると思ってたけど、やっぱりかぁ~」
「青い炎と言えば、別名があるのをご存じザマスか?」
「別名ですか? 知りませんでした」
「青い炎は別名で【女神の瞳】と呼ばれるザマス。
女神様が降臨なさった際、その瞳に青い炎を纏っていたという話からザマスね。
ちなみに女神信教のシンボルマークが青色なのも、ここから来ているザマスよ」
あの青十字はそんなところから来ていたのか。
……待てよ。相手が女神の代行者を名乗るのならば、女神の専門家に話を聞くのが道理だよな。
女神の専門家、すなわち女神信教のロシル大司教様。
あの場にアトスさんもいたわけだから、きっと大司教様にも情報が行っている。
ならばオリハルコンに関しても、何かしら知ってるかもしれない。
「よし、次は大聖堂に行こう」
「ならばわたくしも同行するザマス。ちょっとロシル様とお話があるザマスよ」
「分かりました」
こうして急きょクレイブさんと共に、ロシル大司教様を訪ねに大聖堂へと向かうことになった。




