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25-2

 ミカが試し切りから戻ってきた。

 見た顔数名と、見ない顔1人を連れて。


「そっちの話はあとにして、試し切りしてどうだった?」

「使いやすいし強いしで、普段使いに最適だったよ。

 伸び縮みするのもワンボタンでシュッと簡単。もちろんガタつきもない。

 本番もこの感じで……と言いたいところだけど、お兄のやりたいようにやっちゃっていいよ」

「基本は変えずにアレンジ自由にってところか?」

「うん、それがいい」


 細かいことだが、それでいいではなく、それ”が”いい。

 俺にすべてを投げるのではなく、俺の意見に賛同したわけだ。

 おそらくは試し切りに行っている間に永遠とわとの会話があり、姉妹間での合意があったのだろう。

 となれば話は早い。


「急ぎが良いんだろ?」

「焦らず急いでもらえるとありがたい。ってかお兄、もう気づいてるよね?」

「後ろの面子を見て気付かない馬鹿がどこにいるよ」

「あはは、それもそうだね」


 ミカが連れてきたメンバーは、ギルマスのハーリングさん、槍のアポロさん、大司教様の孫のアトスさん、ダズ兄さん、ダズ兄さんの後ろに隠れる知らない女性。

 あの女性、どっかで見たことあるような、無いような……?

 それはそれとして。

 ミカも含めたあちら全員で一度顔を見合わせて、代表としてハーリングさんが話を始めた。


「北大陸にスティーリア王国って国があるんだが、知ってるよな?」

「最近聞いたような……?」

「元剣聖、無敗のハインツ」

「あ~はいはい! それで、その国が何か?」

「消滅した」

「……え?」


 思わず思考が止まってしまった。


「いきなりで色々と混乱するんですけど……消滅? 滅亡じゃなくて?」

「ああ消滅だ。

 かいつまんで説明するとだな、元剣聖のハインツがとあるドラゴンを倒した。そんでそのドラゴンの仲間やら何やらが怒り狂って、国ごと滅ぼしたってところだ」


 呆れた。ハインツさんの『念願の』って、竜殺しかよ……。


「……だからアトスさんがいるのか」

「ラッキーくんがどうしてもと」


 ラッキーくんは、リタが偶然拾ったグリーンドラゴンの骨を削り出して作った、本物のドラゴンキラーだ。しかもアトスさん限定で喋る。

 なのでドラゴン関連ならば誰よりも詳しい。


「えー翻訳するとですね、強いドラゴンは一人で自由気ままだけど、弱いドラゴンは群れるし、そういう奴ほどしつこくて面倒だと」

「どこのヤンキー漫画だよ……」

「……自分をあんな連中と同列にしないで欲しい、だそうですよ。たぶんこれが言いたかったんでしょうね」

「その気持ち、よく分かるよ」


 しつこくて面倒な奴に喧嘩を売ったせいで、国が滅んだわけか。

 もしもハインツさんにドラゴンに対する知識があれば、結果は違ったかもな。

 しかし何故にハインツさんはドラゴンなんかに喧嘩を売った?

 まさか白鯨の試し切りで倒してしまったとかいうオチ?


「ともかく、ハインツさんが原因なら、ハインツさんの持つ白鯨を打ったのは俺だから、俺が発端なのは間違いない。

 でも話を聞く限り、ハインツさんが死んでしまえば終わりでは?」

「事はそう簡単じゃない。

 国の上層部では、そのドラゴンどものターゲットがお前さんなんじゃないかって話になっててな、いずれはここアンダール王国にも襲来するんじゃないかと不安視されているんだ。

 実際ドラゴンどもは巣に帰る様子が無いからな」

「……しつこくて面倒な連中だからこそ、仲間を討った剣を打った俺を討ちに来るってことか」

「そんなところだ」


 マジで渦中のど真ん中だな。

 それに永遠とわが覚悟の催促をした理由も分かった。

 俺を狙ってドラゴンが来る。その道程で何百万何千万という無関係の人が死ぬ。

 ……確かに覚悟が必要だ。


「そんでだ、悪いんだが近々審問会が開かれるんで、その際は大人しく同行願いたい」

「つまりその審問会までに、急ぎで本番を作れと」

「ワシらも時間稼ぎはするが、もしもドラゴンどもの脅威が再び上の耳に入れば、性急に動かざるを得ないだろう。

 多く見積もって、10日というところだ」

「え、短っ! 絶対無理!」

「そう言ってもだな……」

「本番の剣は、想定では1か月以上かかるんですよ。それを10日は物理的に不可能ですし、審問会のために途中で仕事を止めるなんてもってのほかです。

 そしてドラゴンの狙いが俺ならば、今から打ち始めないと襲来に間に合わない」


 本番の剣は、比喩でも何でもなく命がけで打つことになる。

 そんな仕事を10日でやれだとか、途中で集中を切らすだなんて論外だ。


「それじゃあ対ドラゴン戦の前に、お兄の邪魔をする上層部と一戦交えるかな」

「では我々騎士団も上層部に反旗を翻しましょう」

「上層部の動きは把握している。いつでも動けるぞ」

「仕方ない、ギルドが矢面やおもてに立ってやるか」

「教会もいつでも出陣可能です」


 おやおや、みんな乗り気というか、国の上層部がお嫌いなご様子。


「うーん、ツッコミ待ちかな?」

「あはは。ま~さすがにね」

「え、そうなのですか?」

「悪しき者どもを叩き出す絶好の機会だと思ったが」

「いい加減上の連中にも目に物を見せなきゃならんからな」

「教会としてもほとほと困り果てていたところですからね。ということで皆様、お耳を拝借……」


 呆れる俺とミカをしり目に、ワル~イくわだてを相談し始める男4人。


「わたし聞かなかったことにするー」

「それが賢明だな。

 ……んでマジな話、どうする?」

「さすがに反乱や革命はしないけど、審問会を潰すくらい造作もありません。

 だからお兄は気にせずそのまま突っ走っちゃっていいよ」

「ほっほ~ぅ。随分とたくましく育っちゃいましたなぁ~」

「えへへ~」


 しっかり照れてるよ。

 ミカがこう言うのだから、俺が審問会とやらを気にする必要はない。

 であれば、俺は本番の剣を完成させるのみだ。


「しかし元剣聖のハインツさんが引き金とはな。……なんでハインツさんなんだ?」


 そう疑問を口にしたところ、すぐさまダズ兄さんが仕事の顔に。


「4年ほど前、スティーリアの次期剣聖候補がドラゴンに挑み殺されている。

 それからだ、ハインツが狂い始めたのは。

 事件後半年とせず唐突に剣聖を引退し、強い武器を求めて世界中を放浪。

 ハルトを知ったのは南メルブリアで偶然に噂を聞いたからのようで、ここ王都でそれらしい聞き込みをしている姿を何度も目撃されている」

「俺を知った経緯いきさつはハインツさん自身も言ってたから覚えてる。

 けどそれだけで剣聖を辞めてまで竜殺しなんてするか?」

「殺された次期剣聖候補だがな、ハインツの孫なんだよ」


 ……そうか、孫の仇討ちか。

 その『念願の』仇討ちに必要な剣を求めて世界中を旅して、辿り着いたのがこのハルトワークス。

 しかし仇討ちなんて考える奴はこの店には入れない。


「なるほどね、だからストーキングの真似事なんてしてたのか」

「……あっ! マンションのオートロック!!」

「ご明察。路地の入口には幻影の結界が張られているから、復讐を目的として動いていたハインツさんの目にはただの壁に見えていた。

 そこでハインツさんは路地に出入りする人を待ち、どこが路地の入口なのかを把握し、幻影の結界を突破した」

「……ってことは今回の件、わたしにも責任の一端があるね。

 だってわたしがレジ裏の守護剣を持ち出さなければ、止められてたかもしれないんだもん」

「そんなことを言い出したら、ワイバーン狩りを指示した俺がそもそもの原因だ」

「でも……ん~、責任の話したら堂々巡りしそうだからやめとく」


 賢明だな。

 しかしこれで俺が白鯨を打つことに乗り気でなかった理由も分かった。

 俺は無意識に、唯一事情を知るアブソリュートゼロの声を聞いていたのだ。

 だけどアブソリュートゼロ自体が最高難度の鉱石ゆえに、打つことに集中せざるを得ないために、意識がそちらに向かなかった……。


「ダズ兄さん、魔剣の、白鯨の所在は分かる?」

「ハインツも魔剣も行方不明だ。そもそもドラゴンの襲撃という非常事態なので、情報が錯綜していてな。

 現状で分かっていることと言えば、ハインツがドラゴンを倒し、その結果スティーリア王国が消滅した。これくらいしかない」

「そう……」


 白鯨は今どこにいる?

 俺はあいつを探し出し、言葉を聞かなければいけない。

 ……生み出してしまったことを、謝罪しなければならない。


「ふっ、そんな顔をするな。

 お前が打った剣は、どうせお前の元に帰ってくる」

「ブーメランじゃないんだから、そんな保証はないでしょ」

「保証はないが、証人ならいるぞ」


 そう言うと、先ほどからダズ兄さんの後ろに隠れていた女性が一歩前へ。

 そして俺に向かって深々と頭を下げ、一言こう言った。


「初めまして。お父さん」


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