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3-1

 王都滞在3日目。

 昨日はリタ一人で冒険者協会に行き、諸々の手続きを終えてある。

 いわゆる新人いじめイベントも発生したが、犯人を文字通り床にぶっ刺したら黙ったそうだ。

 なので今現在、冒険者協会の床には穴が開いている。

 そしてヒルダ母さんが元剣聖で、当時のパーティーメンバーの一人が現在のギルドマスター【ハーリング】さんであることも判明。

 色々と協力してもらえるらしいので、頼れる部分は頼っていこうと思う。


 朝食を終えて今日の予定を考えているとミカがきた。


「お兄、お店の内見許可出たよ」

「それじゃあ今日は内見と、良ければそのまま契約だな。ミカはどうする?」

「昨日のうちに溜まってたお仕事を全速力で切り捨てました~」


 書類を剣で切って紙吹雪にする光景が浮かんでしまった。

 と、ミカが突然スンとした表情に。


「……ねえお兄、何かわたしに言うことない?」

「ありがとう」

「どういたしまして。けどそれじゃない。

 昨日今日でわたしを呼ぶ時の雰囲気違うよね?」

「ん~まあ、そろそろ高橋美花じゃなくてミカイア・ウェラインとして接するべきかなって。俺が前世を乗り越えるためにもさ」

「そっか。だったら許す!」


 許された。

 とはいえ何か言いたそうな表情ではあるのだが。


 お店に到着して内見開始。

 並んでいた武器に防具たちは全て接収済みで、商談スペースのイスとテーブルくらいしか残っていない。

 まずは俺にとって一番重要な工房へ。

 工房はカウンターの裏と、店の外からも行ける。


「炉は当然魔力窯か。使われた形跡自体はあるけど、結構ほこりをかぶってるからメンテナンスしないと怖いな。

 金床は、これまた結構使い込んでるな。あ~亀裂入ってるよ……」


 他にも色々と使い込んだ跡があり、一筋縄ではいかない様子。

 とはいえ最低限必要な炉はあるし広さも十分なので、メンテナンスの業者さえ見つかればどうにかできそうだ。

 他の細かい部分は業者を入れた時に改めて見てもらうか。


 次にお店の商品陳列棚を確認。

 造りはしっかりしており、金属部品も使われている。強めに揺すってもびくともしないので、バトルアックスを置いても大丈夫だろう。

 防具を飾るスタンドが無くなっているのは一緒に接収されたのだろうが、あれくらいならば日曜大工で作れるので大丈夫。

 そしてカウンターは中央がガラス張りで中に棚があり、レジ側に鍵付きの引き戸がある。指輪などの装飾品を陳列するのに丁度よさそうだ。

 商談スペースは他よりも一段高いウッドデッキで、簡素な円形のテーブルとイスが2脚。

 どうせならばこのテーブルとイスもこだわりたいところだ。


「お兄って防具も作れるの?」

「一通り作れるよ。皮もなめすところからやれるし、木材や骨なんかの加工もできる。魔石の加工もお手の物。

 あの頃は両親が次から次へと新しいことを押し付けてきて大変だったよ」

「出来ないことを聞くほうが早い気がしてきた」

「兄様に出来ないのは戦闘くらいですから」

「買い被りすぎだよ」


 ガラス細工は専用の窯が必要だし、大きな金属の加工は物理的に不可能だし。

 あるいは錬金鍛冶ならば行けるかもしれないが、商品としては販売しないだろう。


「さて住居スペースはどうかな?」


 二階へは工房や倉庫と同じくカウンターの裏から上がれる。

 リビングにキッチンに風呂トイレ別、六畳ほどの部屋がひとつ。

 さらに三階もあり、こちらも六畳ほどの部屋が三つと四畳半ほどの納戸がひとつ。


「家電はないけど現代とあまり変わらない設備だな。

 ミカ、この世界ってこれくらい技術が進んでるものなのか?」

「この王都が特にって感じかな。わたしの実家もこんな感じだから。

 王都って水道橋が四本もあるし下水道も整備されてるから、キッチンが立派な家が多くてお風呂とトイレが別の家が標準なんだ。

 けど地方や別の国ではキッチンは土間だしトイレは共用で風呂無しシャワーのみも多い」

「そういうことか」

「ちなみにお兄の家はどうだったの?」

「藁ぶき平屋の一間ひとまだったよ。キッチンは土間でトイレ風呂シャワー無し。沢の水で体を洗う生活」

「うげ。わたしやっていける自信ない……」

「慣れだよ。慣れ」


 ちなみに村人全員、沢で体を洗っている最中に魔物が来て、素っ裸で逃げ回った経験がある。


「兄様、部屋割りはどうしますか?」

「気が早いよ。まだ入居を決めたわけじゃないんだから」

「「え~?」」

「そんなところでシンクロしないの。

 まずは工房の状態を業者に確認してもらわないと始まらないんだよ」

「あ、だったら当てがあるよ。わたしが剣聖になった時に選んだ武器屋さんで、今も懇意こんいにしてるんだ」

「……厳しいな」

「え、なんで?」

「上客を奪う側だぞ、俺は」

「大丈夫大丈夫! あのおじさんならむしろ歓迎してくれるよ。

 ってことで行ってみよー!」


 何がどう大丈夫なのだろうか。

 一抹の不安を抱えながら着いたのは、通りに面した小規模の武器屋。

 店主は身長1メートルほどのヒゲもじゃドワーフのおじさん。


「いらっしゃいってミカちゃんじゃないかい。今日はどんな武器を作る?」

「残念ながらそっちじゃないんだ。

 わたしのおに……知り合いが王都で武具屋さんを開くから、その工房をメンテナンスできる業者さんを知らないかなって」


 おじさんと目が合ったので、ここからは俺が。


「ハルトと言います。町の反対側で武具屋を開こうと思っているのですけど、工房が長い間放置された状態だったので、使う前に専門業者を入れてメンテナンスをしようと考えているんです」

「んで、伝手を持ってるオレんところに来たってわけか。

 分かった! 若いもんが頑張ろうってんだから、応援してやるのが先輩の役目だ。腕のいい業者を教えてやるよ」

「ありがとうございます!」

「いいってことよ。しかしお前さん自身の腕はどうなんだ?」

「おじさんから買ったこの剣、刃こぼれしちゃったのを直したのがおに……ハルトさんだよ」

「んー? 見せてみろ」


 ミカが俺が錬金鍛冶で直した剣をおじさんに渡す。

 するとみるみるおじさんの表情が険しくなっていく。


「……こりゃあ……お前さん、誰から習った?」

「父です」

「名は?」

「ゾーリン」

「なっ!! 【ゾの一族】だとっ!?」


 カウンターに身を乗り出して俺の顔を凝視する店主に、困惑の表情を向ける。


「えーっと……」

「お、お前の父親、本当にゾーリンって名前なんだな?」

「そうですけど。お知り合いですか?」

「いや、そうじゃない。

 ドワーフの名前には意味があって、頭文字は一族の家名を示すんだ。オレはアッサムだからアの一族って感じにな。

 んでだ、ゾの一族はドワーフの中でも飛び切りの腕を持ってた伝説の一族でな、特にオレらの爺さん世代に当たるゾットっていう人は、魔剣打ちのゾットで名の通る伝説の名工よ。

 だがゾの一族はある日『我が一族、いただきに至り』との言葉を残して、表舞台から忽然こつぜんと姿を消したんだ。

 その【ゾの一族】が、まさか再び表舞台に上がるとはな! ハッハッハッ!!」


 そうか、ゾの一族が隠れたのが俺たちの出身地である名もなき村だったのか。

 道理で地獄のような場所にあるのに村が平和なわけだ。

 それに伝説の一族の末裔まつえいと元剣聖。両親が静かに暮らすのを選んだ理由も分かる。


「この剣を見る限り、悔しいがお前さんの腕は既に俺を超えてやがる。

 とはいえそんな有望株を邪魔するのは無粋の極みってもんだ。

 改めて自己紹介だ。オレは【アッサム】。武器屋アイアンウィルの店主兼鍛冶師だ。

 鍛冶で分からないことがあったら何でも聞きに来てくれ。そんで、ゾの一族の腕前を世界に見せつけてやってくれ」

「分かりました。ご協力感謝します。アッサムさん」


 アッサムさんはとても気持ちのいい人だ。

 なるほど、ミカが大丈夫だと太鼓判を押したのも分かる。


 その後はアッサムさんも使っている業者を教えてもらい、見積もりで目が飛び出したものの全額をミカが肩代わり。

 業者の人曰く炉に問題はないが、しかし魔力窯の封印処理が正しく行われておらず、このまま火を入れると危険だという。

 なので魔力の切れた魔石を使って一度魔力を空にする必要があるとのこと。

 次に金床だが、こちらは剣聖価格で程度のいい中古品を譲ってくれることに。

 他、煙突などもチェックしたがこれらは掃除だけで修繕の必要なし。

 問題がないわけではないが、そこまで深刻ではなくて安心した。


「ご苦労様でした。

 さて、あとは契約だな」

「今の所有者は大司教様名義になってるから、直接大司教様に話をするよ。

 その時にお兄とリタのスキルレベルも見てもらおう」


 ゾーリン父さん曰く、俺の鍛冶スキルのレベルはかなり高い。

 ヒルダ母さんは付与スキルのレベルも相当なものだと言っていた。

 その結果がようやくつまびらかにされる。

 それだけじゃなく、リタのスキルも気になるところだ。


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