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24-2

 ヴォルカニックイラプションを打つ。

 火山噴火の名を冠するこの鉱石は、超高温でなければ打たせてくれない。


「…………よし」


 その合図を勘だけで読み取り、金床に固定して打つ。

 前回とは違い、今回はアイスリング(リバース)を装備しているので、熱さはそれほど感じない。

 ……それほど感じないということは、熱くはあるのだ。

 つまり短期決戦こそが勝利への鍵。

 幸いヴォルカニックイラプションは打ち心地はとても素直なので、余計な邪魔さえ入らなければ、勝てない戦ではない。


 ……ん?

 コックさんのブレイズエッジと比べると打ちやすい気がする。

 俺のスキルレベルが上がっているのもあるだろうが……いや、そうか。

 このヴォルカニックイラプション、自分がどういう目的で人の手に渡り、どういう使われ方をするのか、分かってやがるんだ。

 ということは、デザインの改良案もあったり?


「……そうか。じゃあやってみせろ」


 以前、鍛冶師と鉱石との主導権の割合が話に出たが、今回はこいつが自信満々なので、デザインの主導権を渡してみる。

 そう思ったら、脳内に赤髪の元気な男の子がイメージされた。

 玩具アニメの主人公みたいな。

 ブレイズエッジの時は雄々しい火の魔人だったので、中々のイメチェン具合だ。


 デザインは彼に任せ、俺は無心に打ち続けて数日。


「どうしてこうなった……」

「綺麗なグラデーションだぁ」


 ヴォルカニックイラプション君が自分で選んだその姿は、まさに温度で変わる火の色そのもの。

 持ち手の近くは赤黒く、そこからから赤、黄色、白と変わり、最後は青。 


「まあいいや、次だな」

「これで完成じゃないんだ?」

「素手で持ったら火傷するからね」

「……うわっ! 近づいただけでも熱い!」


 これまたコックさんのブレイズエッジよりも熱を帯びており、たぶん冬場でも汗をかけるほど部屋が暑くなるだろう。

 当然そんなものを素手で握れるわけがないので、しっかり熱を遮断しなければ。


 ヴォルカニックイラプションは水を張った桶に入れて待機させ、倉庫で次の素材を選ぶ。

 遮断と言えばミスリルと、色的にもレッドワイバーンの皮がいいだろう。


「ん? お前らもか? 火属性総出だな」


 火属性の魔石と、レッドクリスタルが手を挙げた。

 と同時に、ミスリルが手を下げた。

 これは、持ち手はレッドクリスタルで作ったほうがいいということかな?

 レッドクリスタルにも遮熱の特性があるので、ミスリルとの交代も問題はない。


 工房に戻り、錬金鍛冶の画面でデザインを再考。

 ヴォルカニックイラプションはロッドの棒と宝玉の台座が担当なのだが、持ち手をレッドクリスタルで作るとなると少々話が変わる。


「そういえば、錬金鍛冶でヴォルカニックイラプションを成形しないのはなんで?」

「理由はミスリルと同じで、錬金鍛冶で作ると固有の能力が消えるんだよ。

 他にも強力な鉱石ほど錬金鍛冶には対応してない場合が多い」

「そうなんだ」


 素材たちも一緒になってそうなんだーって言ってるよ。

 君ら自身のことでしょうに。


 魔石を宝玉化する。

 方法はいつも通り、錬金鍛冶の画面に魔石を放り込み圧縮するだけ。

 エーテルディバインで死にかけたのを思い出すが、今はマジックリザーバーがあるから心配無用。

 そうしてサクッと宝玉が完成し……たけど、なんか不満そうな?


「ねえ、これ台座が青いから宝玉も青いほうがよくない?」

「火属性の宝玉は青くならないぞ。……たぶん」


 火の魔石、集めて束ね、青くなる……?

 最上川的な俳句じゃないが、試しにもっと圧縮してみるか。


「……んよっと!」

「箱ごと持ってきた!?」

「50個入ってるはず。質にバラつきがあるけどね」


 木箱一杯の火の魔石たち。

 これらを10個で1つの宝玉にして、最後に5つの宝玉を1つに圧縮。

 すると色が輝くオレンジに。


「マジで色が変わるとはな。でも50個でこの程度しか変わらないのは、この先が思いやられるぞ」

「青くするんだったら、何百個必要になるんだろ?」

「雰囲気的に500個くらいだろうけど、さすがに……」

「……ねえ、ここ」

「ん~? ……あ、これはダメだな」


 宝玉の一部が黒くなり、そこにヒビが発生している。

 この宝玉が太陽だと仮定すれば黒ずみは黒点で、温度差に宝玉が耐えられずヒビが入ったのかもしれない。

 圧縮する個数を増やせば出力は上がるだろうけど、このままでは使えないな。


「……待てよ。レッドクリスタルを使えば行けるか?」


 ふいに思いついた解決法。

 レッドクリスタルで宝玉の器を作り、そこに魔石を圧縮して流し込む。

 レッドクリスタルは同名の魔物からドロップする素材で、文字通り赤い水晶。

 他にもブルーとかイエローとか色々とあるのだが、これらは魔物由来であるために、普通の水晶よりもはるかに硬い。

 それこそ鋼よりも硬いクリスタルソードが作れるほどだ。


「ダメ元でやってみるか」


 錬金鍛冶を使ってレッドクリスタルで中空の100面ダイスを作り、その中に先ほどの宝玉を放り込む。

 そしてこれを出力してみると……?


「安定した。……ん? なんだこれ?」

「宝玉が溶けて溶岩みたいになってるね」


 レッドクリスタルの球の中に、わずかにだがオレンジ色に輝く液体がある。

 まるで溶岩だが、しかしレッドクリスタルのおかげで触れても熱くはない。

 この液体の正体は分からないが、とりあえず成功はしたようなので、この路線で行こうか。

 と、何故かリタが来た。


「どしたー?」

「魔導コンロの出力が突然上がったんですよ。すぐに落ち着きましたけどね」

「俺は何もして……したけど無実だ!」

「だと思いました。そして犯人はそれですか。

 これは……兄様、魔力の液状化なんて高度な技術、いつ覚えたんですか?」

「覚えたわけじゃなくて、勝手にそうなったんだけど」

「クラウスさんに怒られてください」


 そう言ってため息をつきながら、リタはカフェに戻っていった。


「魔力の液状化って、聞いたことある?」

「ない」

「だよな」


 氷は圧力をかけると氷のまま液体になるというのは聞いたことがある。

 それと同じ原理だとすると、普通は圧縮に耐えられず砕けるはずが、レッドクリスタルの中に入れたせいで液状化するレベルまで圧縮出来ちゃった、ということか?

 とするならば、さらに大量の魔石を放り込めば、球体内を全て液状化した魔力で満たすことも可能かもしれない。

 さらにその先にあるのは……青ではなくて、黒か? 無か?

 無とはいったい……うごごご!!

 それはそれとして、この道は間違いなく危険だが、しかしこの杖は最強のファイアボールのためだけに存在する杖。

 選択肢があるのならば、迷わず選ぶ。それが鍛冶師。それがドワーフ。


「それじゃあ魔石を買い込んでくるか」

「ミカちゃんたちをダンジョンには向かわせないの?」

「例の不審者の件がどうにも引っ掛かるんだよ。だから妹たちには家にいてもらう」


 永遠とわが来て以来過敏になっているのかもしれないが、俺が起点になる以上は慎重すぎるくらいがいいと思うのだ。


「よーし、大量に集めるぞー!」

「アタシも手伝うよ。面白そうだしっ!」


 ということで予定大幅変更!

 ヴォルカニックイラプションにはさらに数日寝てもらうことになるが、しかし必ず満足するはずだ。

 さあて、忙しくなるぞー!


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