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2-8

 今日は私、リコッタの出番。

 兄様は冒険者協会には来ないというので、お母さんからの手紙を受け取り私一人で向かう。

 建物はさすがに違うが、300年前と同じ場所に冒険者協会はあった。

 周囲よりも立派な建物で、酒場と宿屋が併設されている。

 教会騎士になる前は私もお世話になった。


 受付の女性は笑顔の可愛い人。


「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょう?」

「新規の冒険者登録をお願いします」

「ではこちらの用紙に記入をお願いします。代筆も可能ですがいかがいたしますか?」

「問題ありません」


 前世の経験もあるし、今生でも両親がしっかり教えてくれたので文字の読み書きは問題ない。

 それに記入すべきことも名前と年齢と性別だけ。


「お願いします」

「はい、承りました」


 受付の女性は一旦奥に向かい、数分でギルドカードを持って戻ってきた。


「リコッタさん、最後にこちらに血を一滴垂らしていただけますか」

「分かりました」


 専用の針で指を刺し、血をギルドカードの特定部分に垂らす。

 すると血が小さな紋様を描く。


「はい、これで登録完了です。

 次に冒険者ランクの説明ですが、冒険者は8級から始まり1級までのランク付けがされます。

 遂行した依頼や挙げた功績で自動的にランクが上がっていきますが、8級の方は3か月以内に昇級出来なければ冒険者登録が失効しますので、まずは7級を目指して頑張ってください。

 依頼書は右手にありまして、それ以外に私共でも相談に乗りますので、お気軽にお尋ねください」

「ご丁寧な説明ありがとうございます」

「いえいえ~。あ、ちなみにですけど今まで魔物を倒したご経験は?」

「母が元冒険者だったので、訓練で何度も」

「そうですか。ならば昇級も問題なさそうですね」


 女性が気を使った理由は、私の年齢と装備が釣り合わないからだろう。

 逆の立場ならば私も同じことを思うはずだからだ。


 あとは手紙を【ハーリング】という人に渡せば用事は終わり、兄様の元に帰れる。

 そのはずだったのだが、手紙を受付の女性に渡すところで面倒な事態が発生した。


「すみません、それからこの手紙を」

「よ~姉ちゃん、新人のくせに随分といいなりしてんな。

 どうだいオレのところに来ないか? あぁ~ん?」

「先客がいるので間に合っています」

「あぁ~? っとこいつは何だ?」


 人の話を聞かず、私の手がから手紙を奪う男。

 男はそのまま手紙を破いて捨てた。


「おい、何をする」

「オレんところに来るって言っときゃ~、この手紙ちゃんも無事で済んだのにな。

 あ~カワイソウな手紙っちゃぁ~ん」


 思わず手が剣に伸びる。

 しかしこのような俗物この剣で切る価値もない。それにこんな奴の血を吸わせたらこの剣に、そして剣を打ってくれた兄様に失礼だ。


「おっと、怖気づいたか。そりゃーそうだろうな~。この剣聖デイビッド様が相手だもんなぁ?」

「……剣聖?」

「なぁ~んだ剣聖も知らないのかよ。剣聖ってのは、この国で一番強い奴に贈られる称号だ。つまりこの国じゃオレが一番強い!

 どうだ、オレのところに来たくなっただろ?」


 どう見ても自称剣聖。ミカの足元にも及ばない。


「剣聖というものは知っている。だが私の知る剣聖は貴様のような小物ではない」

「……ぁあん? 誰が小物だって?」

「そうか、自分が小物だと気づかないほどの小物だったか、これは失礼」

「っテメー!!」


 男が剣を抜くが、その動きは怠惰。

 しかし剣を抜かれたからには応戦をする。剣は使わずに。

 男の振りに合わせて外側から腕を掴み、ひねり上げる。

 その勢いのままに片手で背負い、もう片手で足を掴み、頭から床に全力でぶっ刺した。

 剣聖と名乗るほどなのだから、これでもすぐに体勢を立て直すだろうと思い距離を取る。が、男はそのまま失神した様子。

 やはり自称剣聖だったか。


「失礼、床が抜けてしまったようなのですが」

「えっ、あっ、そう……みたいですね。補修業者を呼ばないと」

「それで先ほどの話の続きなのですが、この協会に……」


 そう切り出そうとしたところで、またもや邪魔が入る。

 上の階から、顔に大きな傷のある50代くらいの大男が怒鳴りながら来たのだ。


「誰だー! ワシの協会で騒いどる不届き物はー!

 ……ん? そこにぶっ刺さってるのはデイビッドか?

 まーた問題起こしたのかこの剣聖崩れの恥さらしが!!」

「ギルドマスター、落ち着いてください!」

「チッ! おい誰か、デイビッドの野郎をさっさと引っこ抜いてやれ」


 豪胆を絵に描いたようなギルドマスターだ。

 そんなギルドマスターと目が合った。


「んー? 貴様見ない顔だな。新人か?」

「はい。リコッタと言います」

「ほう……そうか、デイビッドをぶっ刺したのは貴様か。して、今日は何用だ?」

「こちらにハーリングという方がいらっしゃると聞きまして。

 母からの紹介状もあったのですが、この男に破かれました」

「ふん、なるほどな。事情は察した。

 んで【ハーリング】はワシなわけだが、貴様の母の名は?」

「ドラゴニュートのヒルダです」

「なっ!? ヒルダだと!? ならば話は別だ、こちらに来なさい!」


 途端にギルドマスターの顔色が変わり、態度も柔和になった。

 ギルドマスターの執務室に通され、応接用の高そうなイスに座る。


「改めて自己紹介をさせてもらう。

 ワシは冒険者協会アンダール王国統括ギルドマスターの【ハーリング】だ。

 そうか、お前さんヒルダの娘だったのか。そう言われれば確かに面影があるな」

「母をご存じのようですけど、知り合いなのですか?」

「ああ。一緒にパーティーを組んでいた。

 あいつは昔から剣の腕前が立っていてな、ついには剣聖にまでなりやがった」

「それは初耳です。母からは何も聞いていませんでした」

「剣聖になったはいいが、それを隠して普通の生活を望む奴もいる。ヒルダもそういう奴でな、だからこそ娘には隠しておいたんだろう。

 しかし、生きていたとはな……正直、驚いた。

 昔話になるが、ヒルダも含めたワシらのパーティーは、リパリス山脈に巣食う魔物の討伐に出かけたことがあるんだ。

 だがあそこの魔物どもは桁が違った。百戦錬磨のワシらですら自分を守るので精いっぱいな、まさに地獄だった。

 そんな中、ワシらを逃がすためにヒルダだけが魔物に立ち向かってな、その後は行方知れずになってしまったんだ。

 ずっと、死んだものだと思っていた。今日までずっとな」


 お母さんにそんな過去があったとは。

 しかし、確かにあの化け物たちから村を守れるほど強いのだから、剣聖だとしてもなにもおかしくはない。


「リパリス山脈の奥地に、私たちが生まれた小さな村があります。

 そこで母はドワーフの父とともに、今も元気に暮らしています」

「……良かった。本当に良かった。これでパーティーの奴らもみんな安心して女神様の元に向かってくれる」

「その言い回しだと、当時の方々は?」

「ワシが最後の生き残りだよ。

 元々平均年齢の高いパーティーだったからな、20年も経てば腕が鈍ったり病に倒れたりもするってわけだ」


 お母さんもそれを察してハーリングさんを指名したのかもしれない。


「っていうか、今私たちって言ったよな?」

「はい。2つ上に兄がいます。

 私と兄は昨日王都に到着して、現在は大聖堂にある宿泊施設でお世話になっています」

「ロシル大司教のところか。ならば問題はないな。

 何かあればワシに話を通せ。出来る限りの協力はさせてもらう。

 あのデイビッドを床にぶっ刺せるんだから、心配はいらないと思うけどな」

「ありがとうございます」


 これでお母さんの紹介状は渡せたも同然。

 協力も取り付けられたので、兄様も喜んでくれるはずだ。


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