表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/225

2-7

 俺とリタにあてがわれた部屋は、国外から来た上位の神官が泊まる、言わばホテルのスイートルームのような部屋。

 調度品に宗教の色が見えるのは仕方がないが、それ以外は至って快適だ。


「とりあえず屋根のある場所が確保出来てほっとしたね」

「そうですね。……兄様、ちょーっと近寄らないでもらえますか?」

「はいはい」


 お互い汗と土臭いし、リタは鎧で蒸れていただろうから余計にだ。


「そういえば共同浴場があるって言ってたっけ。先に入ってきたらどうだ?」

「そうさせていただきます」


 妹とはいえ年頃なので遠慮する兄の図である。

 実際のところ村でも俺は遠慮していたので、リタの裸を見たのは生まれた直後くらいしかない。

 しかしあの見事に出るとこ出てる体型は、鎧を着こんでいても分かってしまうほどだ。

 もしやあの鎧は女っ気を封じて男を近寄らせない作戦だったのか?

 全く、無駄な努力を。

 そもそもリタも前世持ちなので、変な男に騙されるようなことはないはずだ。

 フラグじゃなくて、マジで。

 ちなみにその後、夕食前には俺もすっきりできた。

 人からあんなに黒い水が出るとは思わなかったけど。


 夕食はシスターさんが部屋に運んでくれた。

 女神信教は食事にうるさくないので精進料理ではなく、味も量も満足の出来だった。

 食後、扉をノックされたので返事をすると、美花が入ってきた。


「様子見に来たよ。どんな感じ?」

「高級ホテルを満喫中」

「あはは。ここに泊まる神官はみんな帰りたがらないんだ」

「分かります。もうしばらく泊まっていきたいですよ」


 リタも尻尾を振って満足そう。


「それで? ただの世間話をしたいわけじゃないんだろ?」

「うん。まずは報告。

 教会騎士たちが乗り込んで、無事に女神の指輪を奪還しました。

 今あの店主を尋問じんもんして、窃盗犯の所在を吐かせてる」

拷問ごうもんの間違いじゃないか?」

「あはは、さすがにそれはないよ。女神信教の教えに背くからね。

 あとお兄が言ってた収集家の家の捜索。あれ凄いことになってるよ。

 出るわ出るわ盗品の山。隣国から消えた国宝まで出てきちゃったもんだから、王様が血相を変えて相手国に平謝りの真っ最中。

 戴冠たいかんしてまだ時間が経ってないのに、可哀想だよホント」

「パンドラの箱だったか……」

「だね。でも隣国とは仲がいいから返還は粛々と行われるだろうし、戦争にまでは発展しないと思うよ」


 それは安心した。俺のせいで戦争だなんて笑い話にすらならない。


「それでお兄にひとつ相談があるんだけどさ、あのお店、欲しくない?」

「指輪の報酬でか?」

「そそ。工房併設、上は住居でみんなで住める~♪」


 確かに、お店の造りは俺の好みだった。

 広さも十分で、むしろ俺一人だと広すぎるくらいだ。

 なんて思っていたら、隣からパタパタと尻尾を振る音がしてきた。

 そうなれば兄としては選択肢はあって無いようなもの。


「内見は可能?」

「今は憲兵の調査が入ってるけど、それが終われば可能だね。

 そこらへんも含めて、しばらくの宿泊許可を取ってあるから安心して」

「助かる。だったら内見をしてから答えを出すよ」

「おっけー」


 とんとん拍子に事が運ぶ。これも女神様のおかげかな?


「あーそうだ。美花って剣聖なんだな」

「うん、わたしもそれを説明しようと思ってたところ。お兄にも関係してくるし。

 アンダール王国では年に一度、武具屋対抗の武術大会が開かれるんだ。

 この武術大会の優勝賞品が、剣聖への挑戦。

 剣聖って呼ばれる人に挑戦するって意味もあるし、剣聖という称号を得るために試練に挑戦するという意味でもある。

 んでわたしはこのどちらもを達成したので、剣聖の称号を持ってまーす」

「元気に剣を振り回しすぎだろ!」

「あはは! 自分でもそう思う!」


 前世から運動神経抜群だったが、この短い間で過去をはるかに超越した運動能力を会得している場面を見てきた。

 まったく、この妹はどこまで強くなってしまうのやら。


「ちなみに剣聖はこの国に7人いて、わたしは史上最年少12歳で剣聖になった天才少女なのです!」

「はいはいすごいすごい。

 でも剣聖なのに7人もいるのか。そう聞くと価値が下がるな」

「剣聖って言っても使ってる武器で意味合いが違うんだよ。

 私は剣を使うから剣聖。拳を使うと拳聖。魔法だと賢聖。他にも槍を使う槍聖そうせい、斧を使う斧聖ふせい、弓を使う弓聖きゅうせい、鞭を使う鞭聖べんせいがいる」

「みんな武器が違うのか」

「うん。でもこれはこの国がイレギュラーなだけで、他の国では大抵1人だよ。

 あと剣聖は女神様の守護者っていう位置づけで、王様と大司教様が連名で称号を与えるものなんだ」


 なるほど。それならば美花が大司教様と話が出来るのも頷ける。

 それに女神様の守護者とは、美花に相応しい役職だ。


「剣聖のことは分かったけど、俺と関係あるってのは?」

「あーそうそう。さっきも言ったけど武術大会は武具屋対抗なんだよね。

 つまりお兄がお店を持てば、リタがお兄のお店からエントリーして、お兄の武器で優勝して、正式な場でわたしと戦えるってわけ」


 途端に横からブンブンと尻尾を振る音が。


「うちの妹共は戦闘狂か」

「武人として、この機会を逃す者はいませんよ」

「それにお兄にも大きなメリットがあるからね。

 なにせ武術大会で優勝した人の使っていた武具だよ。宣伝効果抜群なんだから!」

「あ~興味なくなってきた~」

「「なんで!?」」


 同じタイミングで同じリアクション。さすがは姉妹。


「一人で武器作って一人で店番して一人で仕入れして。そんな状態で大繁盛なんてしてみろ。体壊すっての」

「店番は私がやります」

「仕入れ先ならいいところ知ってるよ。顔も利く」

「そうじゃなくて! はぁ……。

 正直に言って、俺は金持ちになろうって気はないの。月に一度ちょっとした贅沢が出来ればいいかなって程度なの」

「こりゃまた、貧乏根性が染みついてるね~」

「お前には言われたくないわ! 大体な、お前の剣道にどんだけ! ……いや、やめよう」

「ま、まあ……そうだね。その節は多大なる苦労をおかけいたしました」

「いいよ、前世の話だ」


 あの頃は美花に気付かれないように俺の生活費を切り詰めて、その金を美花の剣道に費やしていた。

 結局気付かれたが。


「兄様、それでも私は兄様の打った剣で大会に出場したいです。

 それに名声が村にまで届けば、両親も喜ぶでしょうし」

「……まったく、リタは俺の痛いところを的確に突いてくるなぁ」

「私も嬉しいですし」

「追い打ちするんじゃないよ!」

「「あはは!」」


 これまた姉妹同時に笑う。

 そうだな。確かに俺の剣でリタが武術大会で優勝すれば、両親は大喜びだろう。

 うん、その姿が容易に想像できてしまう。想像できたら次は実現したくなる。


「仕方ないな。妹二人から迫られちゃ、兄は折れるしかない。

 それに前世で果たせなかった親孝行のチャンスでもある」

「あ~そうだよね。親孝行……わたしもしなきゃ」

「ん? もしかして今の両親とは疎遠なのか?」

「ううん、両親とも王都に住んでるし仲いいよ。

 ただ目に見える親孝行ってしてないなって」

「娘が教会騎士であり剣聖でもある。十分な親孝行だと思うぞ」

「それもそうなんだけどさ」


 あるいは俺が何か作って贈るか。いつになるかは分からないが、考えておこう。


「そういえば美花、なんで教会騎士なんてやってるんだ?」

「人を助ける道に進みたかったからだよ。現実はわたしの想像とはちょっと違ったけどね。

 でも後悔はしてない。してないけど、めっ…………ちゃ! 悩んでる」

「人に言える悩み事なら相談に乗るぞ?」

「じゃあ聞いて。

 このまま教会騎士を続けるか、教会騎士をやめて冒険者になってお兄やリタと一緒に冒険するか。どっちがいいと思う?」

「一人で悩めバカタレ」

「「あはは!」」


 思わず三人で笑ってしまった。

 そんなの俺たちで決められるわけがないからだ。


「でもそこで悩むってことは、剣聖の称号は教会騎士だから持てるっていうわけじゃないんだな」

「関係ないよ。斧使いは木こりだし、弓使いは森の狩人。鞭使いなんて夜の女王様だし」

「おいおい、そんな人が称号持ってていいのかよ……」

「この世界って結構そういうところあるから」

「前も聞いたな、そのセリフ」

「でも事実だからね」


 柔軟性があるというか、なんでもありというか。

 おかげで俺たちが再会できたと考えれば悪くはないけれど。


「それじゃあわたしはそろそろ帰るね」

「ああ、色々教えてくれてありがとう」

「だったらついでにもうひとつ。冒険者協会は王城を挟んだ反対側ね」

「美花は来ないのか?」

「教会騎士は忙しのです。じゃあまたね~」


 手を振る美花に振り返してお見送り。


「美花の奴、しっかり教会騎士してたな。

 もう高橋美花じゃなくて、ミカイア・ウェラインとして接するべきかな」

「兄様ももう高橋春人ではなくて私の兄、ハルトですよ」


 それを聞き、大きくため息をつく。

 前世に縛られていたのは、その実俺の方だったのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ