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21-5

 2人の剣聖と深い話の最中、まさかの3人目が現れた。


「なんで2人がこんなところにいるんすか?」

「武具屋だからな」

「そうね」

「……それしかないっすよね」


 両親に睨まれて気まずいダメ息子かな?

 拳の剣聖バルガンさんは、怠け癖から剣聖7人のうち一番スキルレベルが低く、そのせいで強制的に修行をさせられている。


「バルガン、まだ修行させられてるのか?」

「そうっすよ。この前なんて1級ダンジョンの最深部に1か月軟禁!

 まあ……おかげでスキルレベルめっちゃ伸びたっすけどね」

「あら、どれくらいまで行ったのかしら?」

「最高で58っす」


 おっ! めっちゃ伸びたな! 確か最初はレベル40くらいだったはずだ。


「あら、やるじゃない」

「おらたちに並んだな」

「そうっすね。我ながらびっくりするほど体感してるっす。

 そんでさすがに今まで使ってたグローブが持たないんで、どうせなら知ってる店でと思って買いに来たんすよ。

 マンドリューさんとマギサ様は?」

「おらは今買ったところだ。ほら、どーよ!」


 キラーピックと島斬りを構えて自慢するマンドリューさん。

 マギサさんとバルガンさん、そしてナティアさんも興味津々だ。

 ……ん? ナティアさん?


「ナティアさんが生えてきた」

「お昼時だからカフェで食事をしていたんだけど、3人にそっくりな声が聞こえたから見に来たんだよ。ついでにアポロとクラウスもいたよ」

「何を企んでいるんですか?」

「偶然だよ、偶然」


 なんて言ってると、カフェへの扉が開いて本当にアポロさんとクラウスさん、ついでにミカもやってきた。


「マジで国の最大戦力が揃っちゃったよ……」

「だね。ってことでみなさん、重要な話がありまーす」

「俺たちは退避したほうがいいか?」

「むしろお兄を中心とした話なんだから、いてくれないと困る。

 でもトムとアレンカさんは席を外してくれるとありがたいな」

「いや、逆のほうがいいだろう。皆さん工房にどうぞ」


 トムとアレンカさんには一旦休憩してもらい、剣聖7人と俺で工房へ。


「それで?」

「まずはお兄に現状を教えておくね」

「……もう何か起こってるのか?」

「まだだよ。だけど女神様からの警告が出てるからね、女神様の守護者たる剣聖はみんな警戒態勢に入ってる」

「具体的に声を聞いたというわけではありませんが、予感がしているのです。

 このような事例は過去にも幾度か観測されていまして、そのたびに大きな災いが発生しています。

 例えば約650年前に西大陸で発生した火山の噴火では、噴煙の影響で西大陸全域に大干ばつが起こり、それが北大陸との大陸間戦争にまで発展しました。

 この戦争前、正しくは噴火前に、西と北双方の剣聖が事前に災いを止めようと動いていたという記録があります」


 さすがクラウスさんは詳しい。


「つまりこの先何か大きな災いが起こる。そしてその災いを止めるために必要なのが、攻撃力1万の剣。わたしはそう考えてる」

「剣で止められる災いと言えば荒事です。そして今その荒事に備えるために一番必要な人物と言えば?」

「……俺か」

「女神様の兄上ですものね」


 えっ!? なんでマギサさんがそれ知ってんの!?

 という顔をすると、皆の視線がミカに集中。


「……お前、やったな?」

「許可は得てる」

「俺の許可は出てないぞ、まったく……」


 言ってしまったものは仕方がない。

 それにミカの表情から、これは他の6人を口説き落とすために必要なことだったのだと分かる。

 ……とはいえ事前に一言あってもいいと思うんですけどね?


「とにかく、わたしたちは備えなくちゃならない。んで、そのためにはお兄の協力が必要なんだ。

 お店のことがあるのは承知の上だけど、今はマギサさんとバルガンさんの装備を最優先してほしい。お願いします」

「無理を言っているのは分かっているわ。だけどお願い」

「オレからも頼むっす」


 3人が俺に頭を下げる。

 そんなの……必要ない。


「話は分かったから、頭を上げてくださいな。

 どちらにせよ今はオーダーが入っていないので、順番に作っていきますから」


 そこは俺のスタンスとして変える気はないし、変えちゃいけないものだと思っている。

 だがひとつ、明かしておかなければいけないこともある。


「ところで、ミカにも言っていないことがあるんだ」

「え、いきなりなに。こわいんですけど」

「今後起こる事態の発端は、たぶん俺だ」

「……どういう、こと?」


 さすがは剣聖たち。一瞬で視線が鋭くなった。


「あの時あいつが言ってたんだよ、俺も妹たちも大丈夫って。

 口調から察するに、俺が原因で事態が起こる。だけどそれを俺やお前が気に病む必要はない。そういう意味だと俺は取った」

「お兄が原因だけど、直接お兄が何かを起こすわけじゃないってこと?」

「そんな感じだな。

 それでも俺が発火点なのは間違いないから、今から牢屋に入れと言われれば従うつもりだ」


 大人しく牢屋に入る。これが今俺に出来る覚悟の一つだ。

 7人は戸惑った様子で顔を突き合わせ、そして俺に聞こえないようにヒソヒソと話し合い。

 さてどういう判断が下るかな?


「うん。えーっとね、お兄はそのままで」

「そのままってことは、牢屋に入るのはナシ?」

「ナシ。だって既に事態が動いてたらさ、お兄が牢屋にいるせいで攻撃力1万の剣が用意できなくなってこの世界終了のお知らせだもん」

「……なるほど、そういう可能性もあるか」


 しかしどちらに転ぶにせよ、俺が発火点であることに変わりはない。

 しばらくは慎重な行動を心がけなければ。


「例えハルトさんが発端であったとしても、その火を消すのもまたハルトさんです。

 それに荒事は俺たち専門家に任せてくれればいいんですよ」

「ふふっ、さすがは騎士団長様ね」

「あなたもでしょ、元第一騎士団長様」

「わたくしが団長だったのは半年だけ。あなたとは比べてもらいたくないわ」


 えっ、マギサさんも騎士団長、しかも第一!?

 人は見かけによらないなぁ。


「ということでハルトさん、わたくしの鞭、よろしくね?」

「あ、はい。でもその前に素材を入手しないと」

「あら、珍しい素材なの?」

「1級ダンジョンのボスがドロップする、レッサードラゴンの髭を狙っていまして」

「あっ、オレ持ってるっすよ!」

「マジですか!?」

「マジっすマジっす!」


 レッサードラゴンはレッサーとは言えドラゴンなので、その実力は様々いる1級ダンジョンボスにおいてもトップクラス。

 そのレッサードラゴンの髭を、まさかバルガンさんが持っているとは。

 つまりバルガンさんは、やれば出来る子。

 これは今後の成長にも期待が持てるっ!


「ならばそれ、わたくしが買い上げるわ。あなたはそのお金で新しいグローブをオーダーすればいい」

「えっ、でもそれじゃあマギサ様に利がないっすよ?」

「わたくしの年商を知った上での言葉かしら?」

「……狙いはなんすか?」

「修行、これからも頑張ってね」

「うっ……わ、分かったっす……」


 マギサさんも中々に食えない方だな。

 次にクラウスさん。


「ハルトさん、僕は全面的に協力を申し上げますので、この件に関してはいつでも訪ねていらしてください。

 本当ならば僕からこちらに来られればいいんですけど、なにせ忙しい身ですので、そこはご容赦を」

「分かりました、その際はよろしくお願いします」


 クラウスさんはこう言ってくれたが、その都度確認したほうがいいだろうな。

 これで剣聖たちとの打ち合わせは終わり、マギサさんとバルガンさんを残し解散と相成った。

 今後の流れとしては、マギサさんの鞭を作り、バルガンさんのグローブを作り、クラウスさんに色々と教えてもらいつつ剣の試作品を作り、最後に本番だ。

 焦らず急がず、着実に一歩ずつ進んでいこう。


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