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18-7

「ただい……鍵掛かってる。カフェに回りましょう」


 ナティアさん以外の7人で帰ってきたら、ハルトワークスの扉に鍵が。

 珍しいこともあるもんだと思いながらカフェ・ソロルへ。


「ただいまー」

「あ、お兄お帰り! 皆さんも無事そうで……あれ、ナティアさんは?」

「帰り際に別のパーティーに合流した。知り合いだったみたい」

「そかそか。……うん、ギルドハウスの許可出たよっ」


 意識が壁の掲示板に行くと、ミカが嬉しそうにそう報告してくれた。

 掲示板にはびっしりと依頼書が貼られ、既にいくつか取られた形跡もある。


「これでカフェに入り浸る理由が出来たのニャ!」

「私は料理目当てで来るぞ」

「ニャ~」


 ゼロさんの正論に、諦めのような何とも言えない表情をするラフィーさん。

 いい時間なので今日は慰労会も兼ねてみんなカフェで食事することに。もちろん俺のおごり。

 コックさんは一旦家に帰って綺麗にしてから厨房に入る予定なので、まずはリタの料理が出ることになる。

 もうすっかり料理人だなと言うと、尻尾を振ったせいで鍋を落として大音響が。

 こういう所が危なっかしいんだよなぁ。


「んで、トムはなんでこっちのカウンターにいるんだ?」

「在庫切れを起こしたのであちらは閉めて、代わりにこちらのギルドハウス部分を手伝っているんですよ」

「5日で在庫切れって、俺ちゃんと補充してから出発したぞ?」

「ギルドハウスの許可が下りたのがハルトさんが出発したその日で、しかもコンテストの効果も重なった結果ですね。

 たぶんセシルト地区中の冒険者が来たんじゃないかな。

 おかげでオーダー、9件溜まっていますよ」

「ひえぇ~!」


 ってことはしばらく自由な時間は無いな……。


 このあとは一番大変なアイテムや素材の選別作業が待ち受けている。

 今回は人数が多いので、各々のアイテムボックスを一旦俺が預かり、後日清算した分をアイテムボックスに入れて返すことにした。

 ただしナティアさんの分はここには含まず、帰還次第の清算となる。

 明日はカフェの定休日なので妹二人と、ついでにコックさんラフィーさんゼロさんも手を挙げてくれたので、幾分かは楽になりそうだ。

 まあ、ラフィーさんとゼロさんは食事目当てなんだけど。


「それで、珍しい素材は手に入れましたか?」

「そっちの成果は特には。だけど色々な動きを見られたから、技術的な経験は大きかった。おかげで作りたいものも増えたし」

「売れるものを作ってくださいね」

「保証はしかねます」


 しかし在庫が5日で捌けるとなると、俺一人でやっていくのにも限界がある。

 俺がもう1人いれば事足りるが、さすがにそうもいかないし、それなりの腕の鍛冶師を雇う……のもどうなんだ?

 そういえば、ウチよりも売り上げのあるアッサムさんは、どうやって店を回しているんだろう?

 お裾分けの際に聞いてみるか。




 翌日。


「我ら仕分け隊!」

「なのニャ」


 妙に気合の入っているゼロさんと、いつも通りのラフィーさんが来た。

 仕分けの会場にはカフェも使う。どうせ2人はそっちが目的だろうし。


「昨日軽くチェックした限りではレア物はありませんでしたけど、それでも結構な額のする素材たちなので、傷をつけないようにお願いします」

「とりあえず種類で分ければいいのかニャ?」

「そうですね。種類と、後はサイズで。品質とかは俺が見るので、お二人は気にしなくて大丈夫です」

「了解ニャ!」

「では始めよう」


 アイテムボックスごとに開封し、仕分け開始。

 なお事前に、ダンジョンで入手した食材はすべてコックさんが引き取り、その代わり攻略中の食事はすべてコックさんが作ると約束を交わしてある。

 なので食材関係はすべて時間停止仕様のアイテムボックスに入れてあり、仕分けは不要となっている。


「銀鉱石あったよ。結構大きい」

「ん~……7点」

「5500ミレスですね」


 品質は10段階で点数をつけ、それを参考にトムが値段を決める。


「息ピッタリだニャ」

「俺たちもすっかり戦友だからね」

「ですね」


 トムとラフィーさんは幼馴染。

 だからなのか、トム以上にラフィーさんが嬉しそうである。


 仕分けはなおも続く。


「レア物はないと言ったな。あれは嘘だ」

「聞いたことあるけど、なんだっけ……」

「筋肉モリモリマッチョマンの変態だ」

「あっあっ……名前出てこない~!」


 シュワちゃんの出世作だよ。


 話を戻してそのレア物とは、【ライトニングマイスター】という魔法鉱石だ。

 その名の通り雷属性の鉱石で、魔力を通すとバチバチとスパークし光る。

 電気のない世界なので用途は限られるが、使いようによっては面白いことになりそうだ。


 しかし他にレア物はなく、淡々と仕分けが進んでいく。


「よーし次のアイテムボックス開封するぞー。これは……ゼロさんのだな」

「私の記憶では、あまり期待できないと思うが」

「えーっと……いきなり鎧が出てきたな。

 あ、そうだ。今使ってる鎧ってどういう基準で選んだんですか?」

「性能はそこそこに、フィット感と動きやすさで選んだ。

 オーダーならばもっと良いものになるのだろうが……懐事情がな」


 性能を確認させてもらうと、防御力は54で素早さが3だけ上昇。


「アポロさんの鎧、どれくらいの性能だと思いますか?」

「む? 剣聖の鎧だからな……200くらいはあるのではないか?」

「ウチはもちっと上だと思うのニャ。220くらいかニャ?」


 ミカにちらりと目をやり、許可を得る。


「あの鎧、防御力1100あります」

「「「うっそぉ!?」」」


 ゼロさんラフィーさんに、コックさんまで驚いている。

 そういえばコックさんにはそこら辺の話はしていないんだった。


「でもゼロさんなら納得できるんじゃないですか?」

「……ああ。しかし性能的に桁違いの額になっていそうで恐ろしいのだが」

「槍も含めて7500万ミレスですよ」

「さ、さすがフォルティス家の次代の当主殿……」

「庶民には夢にすら描けない額なのニャ……」

「カフェの売り上げの何年分だろう……」


 そんな槍と鎧を1週間で作る鍛冶師がいるそうですよ。

 信じられませんね。


「ゼロさん、手伝ってもらった報酬に、後で鎧を強化しましょうか。

 数分で今の倍くらいの性能になりますよ」

「夢のような話だが……今更ハルトさんを疑う余地もないか。その申し出を有り難く受け取ろう」

「だったらだったら、ウチも甘えちゃっていいかニャ?」

「構いませんよ」

「やたー! えへへ~、お手伝いしてよかったのニャ」

「あ、僕の靴も」

「分かってますって」


 こうして和気あいあいとした雰囲気のまま、仕分け作業は日が落ちるまで続いた。

 そして。


「本当に防御力が倍に上がっている……」

「着心地はなんも変わらないのに、不思議だニャ~」


 拾った鎧を白イガを混ぜて合成しただけだが、両者とも元の防御力が低かったので、どちらも倍近くの性能になった。


「ついでにオマケで防御力強化のエンチャントを付与しておきました。これでどちらも実質的な性能は120くらいですね」

「ミスリルアーマー並ではないか!」

「もしかしてウチ、2級狙えるかニャ?」

「私から見て、ラフィーは1級も狙えるぞ。自信を持っていい」

「ニャ!? い、いっきゅう……ぅう~っ! 燃えてきたのニャー!」


 ……もしやゼロさん、相方がほしいのでは?

 そんな邪推が脳裏をよぎったが、しかし確かにラフィーさんならばもっと上を狙えそうではある。


「ミカ、攻撃力220で1級ダンジョンって潜れるものなのか?」

「ちゃんとしたパーティーを組む必要があるけど、それ以下の攻撃力でも活躍してる人はいるから十分行ける。

 だけど1級は攻撃力だけじゃなくてスキルを使いこなしたり、敵の性質を知ってうまく立ち回るクレバーさも必要になる。

 資格が必要になるくらいだからね」

「ニャ~、自信なくなってきたのニャ」

「資格を持っていても下位のダンジョンには潜れるんだから、まずは挑戦してみてだよ。頑張れ」

「……確かに、それもそうなのニャ。よーし、まずは頑張って2級なのニャ!」


 萎れかけたラフィーさんを、トムが励ました。

 こうして仕分け作業および防具の強化は無事に終わった。


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