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2-4

 俺の予想通り、リタも転生者だった。

 だがどうやら俺たちとは事情が違う様子。


「私も転生者です。だけど私は、この世界の転生者なんです」

「つまり俺と美花とは違うと?」

「はい。だって私は、グラモート真教の教会騎士でしたから」


 ぐらもーとしんきょう?

 という表情で美花に助太刀を頼む視線を送る。


「グラモート真教は、300年くらい前にあった女神信教の一派だね」

「今はないのか?」

「うん。とある事件から王様暗殺を企てていることが明るみになって、教祖以下幹部も神官も全員が処刑されて消滅した」

「……よかった」


 良かったと言えるということは、前世のリタはその悪事を知っていたのか。


「私はグラモート真教の教会騎士として、村々を回る宣教師の護衛をしていました。

 ある日、護衛対象の宣教師が別の教会騎士から書簡を受け取っている場面に遭遇して、その夜偶然にもその書簡の内容を見てしまった。

 そこにあったのは、暗殺対象者の名前の羅列。30以上の名前があり、その中にはこの先向かう村で静養中の第四王子の名前もあったのです。

 私は宣教師の目を盗みその書簡を奪い王の元へと走りました。

 しかし追手の襲撃を受けてしまい、どうにか追手を倒したものの私も重傷を負ってしまった。

 もはや一歩も動けない死の間際、もうダメかと諦めかけたその時、少年が私を見つけてくれたのです。

 私は無理を承知で王に書簡を渡すようにと告げ、そして息絶えました」

「だったら結果は知らないわけか」

「はい。

 ただ私に対する追手の手配も手馴れていたので、おそらくあの子供は……。

 申し訳ないことをしました」


 確かに今の話だと、子供がそう簡単に書簡を王様に渡せたとは思えない。

 そして自己紹介で美花が教会騎士だと言った時の、敵視するような目線にも納得がいく。


「ねえリタさん。リタさんの前世の名前って、【ヘンリッタ】じゃない?」

「ええ、確かにヘンリッタです。なので周囲からはリタと呼ばれていて、今生でもそれを望んだのです」

「やっぱりね。だったらその子供、無事に書簡を王様に届けたよ」

「なんだ美花、見てきたような口ぶりだな」

「直接見たわけじゃないけど、有名な話だからね。

 王様暗殺計画を暴いた女性騎士ヘンリッタと、彼女に希望を託された少年。

 少年は三日三晩走り続けてボロボロになりながらも王様に書簡を届けた。

 この功績をたたえて少年には騎士の称号と、真実を届ける者という意味の家名が与えられた。

 その少年の名前は、ヤニック・ウェライン。

 わたしの家、ウェライン家の初代当主様だよ」


 そして美花は、まさかという表情で固まるリタを抱きしめ、「届けましたよ、騎士様」と一言。

 今までどれ程耐えてきたのだろうか、リタも先ほどの美花に負けず劣らず泣き崩れた。


 持ち直すまでの時間は、美花のほうが早かっただろうか。いや、ほとんど同じか。


「すみません、取り乱してしまって……」

「ううん、わたしだってさっき、ね」

「泣き顔はまるで姉妹だったぞ」

「……兄様は、確信しておられるのですね」

「確信とまでは言えないけど、そうならいいなとは思っているよ。

 まあ、答え合わせは二人の姉がしてくれるはずだから」

「「姉?」」


 声が揃うあたり、やはり二人は利多と美花で間違いない。

 そしてその姉と言えば。


「女神様だよ」

「まさか……と言いたいところだけど、お兄をおにいちゃんって呼んだり、わたしを妹ちゃんって呼んだり、リタのことだって女神様ならどうにでも出来ちゃうよね」

「俺が死んだ10年後に美花が死んだのに、俺と美花の年齢は離れてないからな。

 それくらいの調節が出来るんだったら、前世で俺たちが死ぬまでの間に利多にもう一度人生を与えることも出来るだろう」

「そうですね。私の知る女神様ならば可能でしょう」

「ということで美花、今晩夢見て女神様に答え合わせさせろ」

「唐突な無茶振り!」


 美花のツッコミに三人揃って大笑い!

 約40年ぶりに、ようやく兄妹三人で楽しく笑えた。

 そう思ったら次は俺が泣いてしまいそうになった。

 見ているか、名前のない俺の妹。君も一緒に笑うんだぞ。




 翌朝。

 俺とリタで朝食の準備をしていると、眠い目をこすって美花が起きてきた。


「おはよう。お兄に伝言」

「当たってたか?」

「うん、夢の中の女神様……お姉ちゃんが全部話してくれた。

 お姉ちゃんが水子で死んだ時、丁度先代女神様が後継者を探してて、それで拾われたんだって。

 こっちの世界と神様の世界では時間の概念自体が違ってて、だからお姉ちゃんの手で利多さんをこの世界に転生させた。それがヘンリッタさん。

 お兄が死んだ時もすぐに転生させたかったけど、わたしを待って転生させることにした。

 だけどわたしが死ぬ前にヘンリッタさんが死んじゃったから、いっそ全員タイミングを合わせて転生させることにしたって。

 だから余計長くおあずけを食らっちゃって、すごくすごく早くお兄に会いたかったんだけど、昨日も言った通りの失敗をしちゃった」

「おっちょこちょいな女神様だよな。この世界って本当に大丈夫なのか?」

「あはは! それは王都に着いてからお兄自身の目で確かめてね」

「そうだな。楽しみは後に取っておこう」


 そうか、やっぱり女神様は俺の妹だったか。


「それと、お兄って小さいころに意識が途切れることなかった?」

「あ~、赤ん坊のころにたまにあったな。気付いたら1か月とか、長くて1年近く飛んでるんだよ。おかげでリタが初めて立つ瞬間を見られなかった」

「それお姉ちゃんのせい。お兄とコンタクトしようとして設定を変えるとお兄の自我が再起動されちゃうんだって」

「自我が再起動って、おいおい……」

「リタが生まれた時に試したのが最後で、それでもダメだったから諦めたって言ってたよ。あと不安にさせてごめんなさいって」

「自我が消えかけてるんじゃないかって思って、めっちゃ怖かったんだよ。

 女神様の性格がよく分かる話だよ、ホント……」


 ため息をついて呆れる。今もきっと見ているんだろうから、しっかり反省してもらおう。

 次にリタ。


「私って、弟だったんですね」

「前世では男っぽいところあったか?」

「……ないですね。今だって身も心も女性ですから」

「だったら事実だけを受け入れて、後は今の自分として生きればいい」

「はい。そうします」

「敬語もやめてもいいんだぞ?」

「ふふっ。いいえ、これはもう癖なので変えようがありません」

「癖だったら仕方ないな!」


 リタの表情が柔らかくなったように感じる。

 それでも尻尾の動きを見るほうが分かりやすいけど。


「ところで昨日二人だけで話してただろ。リタが自分も転生者だって言ってるのは聞こえていたけど、他は何を話してたんだ?」

「それ以外は世間話だよ。ね?」

「はい。決してミカとどちらが兄様を好きかで争うなんてしていません」

「リタ、それ言っちゃダメな奴……」


 二人ともブラコンなのはしっかり俺にバレているので、今更な話だ。

 なので俺も特にリアクションもせずに朝食を作る。

 ずっと肉が続いてすっかり飽きてはいるのだが、食材が肉しかないので今日も肉。


「文句は言うなよ」

「肉は好きだから文句ないよ。いただきまーす」

「私も肉好きなので。いただきます」


 文字通りの肉食系女子が二人。

 美味しそうにかぶりついてくれるので、作り甲斐があってよろしい。


「あ、そうだもうひとつ伝言あったよ。

 お兄にわたしの剣を作ってもらえって」

「いいぞ。ちょっと今の剣を見せてみろ」

「はーい」


 現在の美花の剣を【鑑定術】で鑑定。

 見た目はごく普通のショートソード、攻撃力は120だ。

 結構使い込まれていて、刃こぼれしている部分もある。


「この刃こぼれは最近のに見えるけど」

「石に当たった時のかな。直せる?」

「ここでは無理だな。ただ、これを元に別の剣を作ることは可能だ」

「うーん、結構値が張ったんだけど……」

「見た目も性能も同じに作れるから心配するな」

「おー。だったらお願い」


 まずは錬金鍛冶の画面を開いて、今ある剣を画面に通してスキャンする。

 出力だけではなくスキャン能力も備えていたのには驚いたが、おかげで手直しの手間が省けてありがたい。


「なんか出てきたけど、これ『りったい堂』で使ってたやつじゃない?」

「どう見てもそれだよな。けど女神様が妹だって分かった今なら納得できる」

「なーるほど!

 そうだ、ひとつ注文つけていい? グリップをもうちょっとだけ細くしてほしいんだ」

「はいよ。少し時間かかるから、その間に出発準備しておいてくれ」

「はーい」


 事前に要望を明確にしてくれるクライアントはありがたい。

 グリップを美花の握りやすい細さに修正し、あとは刃こぼれをしっかり直して出力。

 錬金鍛冶ではスキルレベル・素材・精度の三点で性能が決まる。

 今回は元の剣を素材にしたので、性能もあまり変わらないはずだ。


「よし出来た。性能はどうかな。【鑑定術】っと。

 ……げっ。美花ーちょっと確認してくれー」


 美花を呼んで攻撃力の数値を見せる。


「えっ、めっちゃ上がってる!」

「使い勝手が変わるかもしれないけど、これでいいか?」

「めっちゃいい! 攻撃力200なんて300万ミレスはするよ!」

「……ミレスってお金だよな?」

「あ、そこからなんだ。1ミレス1円で覚えちゃっていいよ」

「分かりやすくて助かる」


 村にも行商人は来ていたが、お金の管理は両親がやっていたので。

 しかし思えばあの行商人はよくこんな道を通ってこられたものだ。


「兄様、出発準備出来ました」

「よし、それじゃあ行こう」

「おー!」

「お、おー……」


 美花に乗せられ、恥ずかしそうに手を挙げるリタ。

 仲が良くて何よりだ。

 こうして俺たちは、失ってしまった時間を取り戻すかのように、三人で仲良く歩き始めるのだった。


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