17-1
槍聖のアポロさんがご来店。
「え、フルセットですか?」
「はい。どうせならばと思いまして、槍のほかに防具一式も頼もうかなと」
アポロさんの鎧は青い以外は一般的なもので、合計でも防御力80くらい。
なので剣聖と魔槍に相応しい鎧をというのであれば、やぶさかではない。
「でも国家騎士だったら鎧にも色々と規定があるんじゃないんですか?」
「いえ、国家騎士を示す前垂れさえあれば、デザインは特に定められていません。
ただ騎士として恥じないものを、という注釈がつきますけど」
「……皆が同じ鎧を使っているのは、安いからだったり?」
「まさにです」
王様聞いた? 騎士団の予算足りてないよ。
……いや、その程度の性能で済んでいるから、予算も多くないのか?
「それから、俺の持つ第二騎士団の分もオーダーできればと」
「うーん……100人くらいいましたよね?」
「俺と副団長と、一般兵100人です」
「予備も含めると150着くらいにはなっちゃいますね……」
「さすがに今日明日揃えろと言うつもりはありませんし、今は考えておいてもらえればそれで構いません。
ミカイアから、ハルトさんは表立って活動する気がないというのも聞き及んでいますから」
俺は隣で聞き耳を立てているトムに視線を向ける。
「労力に対して割に合わない仕事だと思いますよ。
国からの依頼というのは、最初は高い額を提示しておいて、着手してからなんだかんだ理由を付けて出し渋り、最終的には報酬は名誉だから金は払わない、ってね」
「んで浮いた予算分を自分のポケットに突っ込むと」
「そうそう」
どこの世界も変わらないな。
「ということですけど?」
「耳の痛い話です」
「こちらも商売なので、そういった問題がある限りは頷くわけにはいきません。
そもそもウチは俺一人しか鍛冶師がいないわけで、そこに150着は無謀が過ぎますから」
「……分かりました。この話は聞かなかったことにしてください」
ということで第二騎士団の鎧作りはキャンセル。
それだけ評価してくれているという事実だけは、ありがたく受け取っておくけど。
「話を戻してアポロさんの鎧ですけど、デザイン的にはどうしますか?」
「今の物とあまり変えず、性能だけ上がってくれるのが一番なんですが」
「となると……攻撃力1000、防御力800辺りを狙いますか」
「……桁ひとつ間違えていませんか?」
無言でにっこり微笑むと、アポロさんの表情がこわばった。
「ミカの装備一式、見てないわけじゃないですよね?」
「え、ええ。でもまさか……」
「信じられないのならば、クラウスさんにも聞いてみればいいですよ。クラウスさんの杖も俺が作ったものですから」
「ああ、あの。会うたびに自慢してきてウザ……んんっ!
しかしミカイアの装備にクラウスさんの杖ですか。
……ハァ、もはや疑いようがないですね。
性能はすべてお任せします。そして俺はそれを使いこなして見せます」
ため息をつき、覚悟を決めたアポロさん。
そんなに力まなくてもいいんだけどな。
「そうだ、今度知り合いを集めてダンジョンに潜るんですけど、時間があったら一緒にどうですか?
今回ミカとリタが来ないのが確定しているんで、戦力外の俺を守ってくれる騎士が欲しいんですよ。その点アポロさんならば不足はないですから」
「ダンジョン探索ですか。うーん、確かに魅力的ではあるけど……休暇届が受理されるのを待っていただけるのでしたら」
「決まりですね。それじゃあこのマジックランタンを預けます。装備の引換券代わりなので、光ったら持ってきてください」
「分かりました」
リタが来ないことで俺を守る役がいなくなっていたのだが、アポロさんが来るのならば心強い。
これで5人。あと1人か2人いれば1級ダンジョンでも大暴れ出来そうだな。
翌日からアポロさんの装備一式製作に入る。
今回は俺の勝手なイメージで、アポロさんには竜騎士になってもらう。
とはいえ本物のドラゴンの素材は手に入らないので、全身ワイバーン仕様だ。
「使うのはレッドワイバーンの鱗……っと」
今回は一個体の中でも最大かつ最も硬い、背中の中央付近の鱗を使う。
この鱗を細く研げば、継ぎ目の一切ない槍が作れるはずだ。
まずは錬金鍛冶の画面でアポロさんが提出したデザインを再現。
このデザインでは穂先にだけ刃があるのだが、他がシンプルゆえに取って付けた感が強い。
デザインは自由に変更して構わないと言われているので、逸脱しない程度に俺なりに変更してみようと思う。
最初に穂先のデザインを大幅に変更する。
そもそもサイズが小さいし、ポール部分からいきなりナイフが生えている感じなのが悪い。
なので穂先を長く、元が10センチ程度なのを一気に30センチまで伸ばす。
そしてポール部分との境界を滑らかに変化させることで、一体感を出す。
「騎馬で使う槍とも違う感じになったな」
あとは装飾として鍔と……槍って旗が付いてるイメージもあるな。
さすがに戦場では外すだろうけど、付属品として用意しておこう。
デザインが決まったら鱗からの削り出し開始。
今回はスライム溶液のような軟化剤が使えないので、真正面から削っていくことになる。
「まあ、ドラゴンの骨粉が強すぎて相手にならないんですけどね」
竜特攻持ちの道具たちが、飛竜に襲い掛かる。
もうそれはそれは気持ちいいくらいに削れて行き、あれよあれよという間に形が変わっていく。
そしてこの鱗もそれを喜んでいるように思える。
もしやただのワイバーンの鱗では満足出来ていなかった? ……かもしれない。
それからたったの2日。
「よーし、外観は完成だ。あとはエンチャントを付与してと」
槍は攻防一体の武器。
なのでエンチャントも攻撃と防御、両方をメインに付与していく。
それから、使うかどうかは分からないが、投擲槍にあると便利な【バックホーム】というエンチャントも付与。
これは投げた槍が紐でも付いているかのように自分の手に自動で戻ってくるというエンチャント。
事前に魔力で紐付けをする必要があるので、受け渡し時にアポロさんに頼む。
ちなみに距離制限も時間制限もあるので、売った槍を後でバックホームするという詐欺行為は不可能である。
完成した槍を鑑定。
名前は【魔槍】飛竜の槍。
確かにワイバーンの鱗から作ったけど、それでいいのか?
……名前は二の次って言ってる気がするから、まあいいんだろうな。
デザインは30センチもある長い穂先に、全長2メートルの柄、一体型の鍔に、持ち手にはレッドワイバーンの革を使い、石突きには赤い宝玉。
この宝玉に魔力を流すと、魔光で柄から穂先まで一直線に赤く光る仕組みだ。
これで遠くから見ても一目瞭然だろう。
性能は攻撃力1100、防御力650、魔法攻撃力と魔法防御力がそれぞれ200あり、素早さが70も上昇する。
俺の中では特に苦労なくサクッと作れたので、それでこの性能は驚きだ。
「素材が良かったんだろうな」
そうつぶやくと、槍から自慢げに胸を張るイメージが伝わってきた。
エンチャントは各種強化に重量軽減、耐久性向上と自動修復のセットに、先ほども言ったバックホームで投擲槍としての運用も可能。
それぞれレベル40以上と大盤振る舞いだ。
ここに素材由来で火属性も付与された。
「そして旗も装着させれば……あ~そうそう、こういうイメージある!」
トムに聞いてみたところ、槍につける旗はやはり戦場では外すとのこと。
なので穂先の刃を保護する鞘に旗を取り付けられるようにしておいた。
ちなみにここはアポロさんの要望があれば作り変えるつもりだ。
さて休憩を挟んで、次は鎧作りに進もう。




