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ついに連結工事がすべて完了した。
まずはハルトワークス側だが、今まであった商談スペースは撤去され、そこに大型の更衣室が作られた。そして更衣室の横にカフェに通じる扉がある。
連結の結果できた増築分はすべてカフェの敷地に。
これでカフェの席数は4人席が3組、2人席が2組、カウンターに6席の合計22席予定となった。
カフェとしては丁度良く、ギルドハウスとしては小規模と言える。
なおテーブル数は増やそうと思えばまだ増やせる余裕がある。
「だけど内装は無いそうです」
「だって看板の雰囲気と合わないんだもん」
確かに、元々あったイスやテーブルは、カフェというよりもバーの雰囲気に近いものなので、雰囲気には合わない。
問題はそれを開店2日前のこのタイミングで言い出したこと。
「足りない木材は自分で買ってこいよ」
「それくらい分かってるって。行ってくるね」
店の倉庫にも木材はあるが、魔法の木だったりとんでもなく硬い木だったりで家具には適さない。
なので既存のイスやテーブルをばらして再利用することになったのだが、全てが使えるわけではないし、そもそも数が足りない。
結果、6~7割を新規で作る必要が出てきたのだ。
おかげでカフェの内装作りに鍛冶スキルレベル87を発揮することに。
まったく、兄使いの荒い妹たちだ。
「さーて、日曜大工やるかぁ」
「おう! あんちゃん!」
木くずが出るので店の前でカンナを掛けようとしたところ、連結工事を請け負っていたドワーフの大工さんたち4人がなぜか今日も来た。
「何か忘れものですか?」
「そういうワケじゃなくて、あんちゃんの作った道具がめっちゃ使いやすいもんだから、他のも一緒に注文しちまおうかってな」
「そうですか。だったら……だったらカフェの内装を手伝ってもらえたら、その分お安くしておきますよ」
「ハッハッハッ! あんちゃん人の使い方が分かってるねぇー!」
と、大工さんたちがおもむろに大工道具を取り出した。
道具を持ってきている時点で大工さんたちもその気だったのがバレバレだ。
あとは錬金鍛冶を応用して設計図をプリントアウトし、皆に配布して作業開始。
しかしまあ本職だけあって大工さんたちの作業が早いのなんの。
カンナの刃を出すのも一発だし、ノコギリの切り跡にも歪みが全くないし、釘打ちも斜めになることなくピッタリだ。
しかも指示もないのに作業が分担され、部材の受け渡しも息ピッタリ。
「皆さん本当に作業がスムーズで息ピッタリですね」
「オレら全員兄弟だからな!
そこのカランドが全体の2番目で、オレが4番目のカッサン」
「ボクは5番目のカーロ」
「んでオイラが7番目で末っ子のカジナードでーす」
カランドさんは寡黙な職人という感じで、声ではなく手を挙げて反応してくれた。
そしてドワーフの命名ルールに則り、全員の頭文字が『カ』で統一されている。
それを考えると、ゾーリン父さんがルールに従わず俺にハルトという名前を付けたのも、一種の愛情なのだと分かる。
「お兄木材買ってきたよーって人増えてるし大工さんたちだし」
「手伝ったら道具を安く作るっていう契約だ。補填分はミカとリタの給料から天引きしておく」
「自業自得だから何も言えない……」
さて木材不足の心配がなくなったのでガンガン作っていく。
テーブルは4人席が丸型で2人席が角型。足は金属製のほうが良さそうなので錬金鍛冶でさっと作る。
イスはカウンターは一本足の背もたれ無し、他は太めの四本足に腰の辺りまでの低い背もたれ。
背もたれが低いことで、剣を背負う人でも邪魔にならないようにしてある。
そうして急ピッチで準備が進められ、たった1日でイスとテーブルが揃った。
大工さんたちには後日こちらから道具を渡しに行くと約束して、今日は解散。
一方の店内では、厨房はコックさん、店内装飾はミカ、ギルドハウス部分はリタが担当して作業している。
「こう見るといよいよそれらしくなってきたな。
コックさん、厨房で必要な準備って何かありますか?」
「いえ、元ある設備と僕の持つ道具たちで事足ります。……あ、すみません金属のボウルを作ってもらえますか? あと吊り下げるためのフックも足りなくなりそうなのでお願いしたいんですけど」
「はいはいお任せあれー」
屋内から扉をくぐってハルトワークスへ。
うん、すこぶる便利だ。
ボウルもフックも錬金鍛冶でササっと作り、コックさんに渡す。
この忙しさ、ハルトワークス開業時を思い出す。
あの時は別の意味で忙しいという感じだったが。
「兄様、クエストボードは作れますか? コルクボードで構わないのですが」
「サイズは?」
「天井まで着くサイズが欲しいところなんですけど、なるべく大きくとだけ」
「分かった。けどコルクってどっかにあったっけ?」
「コルク材はカフェの倉庫にあったはずですよー」
「分かりました」
コックさんが知っていたので、カフェの倉庫へ。
連結工事と並行して搬入は済んでいるので、木箱がいっぱい積まれている。
その中には過去に使われていたコルク栓の古材もある。
この古材を一旦砕いてからシート状にして接着すれば、コルクシートの出来上がり。
あとは木枠を作ればクエストボードの完成だ。
「……やっべ、でかく作り過ぎた」
ドアに引っかかって通れない。
しかーし! ここはファンタジー世界。アイテムボックスに収納すれば解決だ。
「よしよし、こんなところだな」
「木枠よく見ればかまぼこ状になってるんだね」
「少しでも可愛げがあったほうがいいと思ってな。あと俺が手伝えそうなのは……ないか?」
「掃除くらい?」
「それはお前たちでやりなさい」
「はーい」
兄のすべきことはなくなり、後は座して待つのみ。
「明後日に開店ってことは、この店の誕生日でもあるわけだな。花でも飾るか」
「……ああっ!!」
「どした!?」
「明後日! わたしの誕生日だ! すっかり忘れてた!」
「そんな重要なこと……俺も忘れたことがあるな。血は争えないか」
「じゃあ開店記念日はミカの誕生日でパーティーですね!」
食いしん坊が何か言い始めたぞ。
しかも二人そろって「パーティー! パーティー!」って盛り上がり始めたし。
「お前らは食うんじゃなくて運ぶ係だ。まったく自覚しろってんだ」
「まあまあ、いいじゃないですか。僕もここの厨房に慣れるためにいっぱい作りたいところですから」
「気を使わせちゃってすみません。費用はこいつらの給料から天引きしておいてください」
「……元よりそのつもりです」
二人には聞かれないように、耳打ちでそう話すコックさん。
経営については強かにやってくれそうだ。
「……そうだな。パーティーするんだったら来月のリタの誕生日と合同でやるか」
「嫌です!」
「強制だ。それとも食材全額自腹で買って全部自分で作るか?」
「それは……」
「どうせ来年は俺も含めて3か月連続でパーティー出来るなんて考えてたんだろうが、売り上げがそれを許さんぞ」
「クッ……お金が憎い……」
とんでもないことを言い始めたな。
「ともかく、今は開店だけ考えて働けー」
「「はーい」」
駄弁りが休憩になっていたので、発破をかけると二人とも素直に手を動かす。
しかしこの世界でのミカの誕生日は明後日なのか。
……ならば、兄として全面的に協力してやろうではないか。




