缶コーヒーの考察
「さて、まず缶コーヒーの要素分析についてだ」
「要素分析?」
「缶コーヒーには他と違う特徴があるか?
これを限りなく客観的に考えてみる。例えば、熱。
缶コーヒーは他の飲料と違って、温められている場合が多い。だから、冬の外では缶コーヒーが売れるわけだね。
しかし、この特徴は今回は使うことができないだろう。なぜなら、この研究室にはポットがあるからだ。まあ、インスタントコーヒーがあるのだから、熱湯を起こす道具があることは当たり前なのだがね。
ポットがあるということは、熱を起こすことがこの部屋で出来るということだ。カップに熱湯を注げば、熱を確保することができる。だから、缶コーヒーとポットの熱湯は交換が効くので、この熱の特徴は却下だ。
実際、この研究室の暖房は別に壊れていなさそうだから、熱の可能性は低いだろうね。
このように、缶コーヒーにしかない特徴を挙げてみる。
他にあるとすれば、コーヒーだけにしかない特徴もある。例えば、コーヒー特有の匂いや色。これは衣服に零せば、匂いと色が付いてしまう。誰かの服を汚してしまいたかったなんて犯行なら、適切な特徴だ。
しかし、この特徴は言わずもがな、インスタントコーヒーと替えが効くので、これも違う。そもそも、缶コーヒーは1本も開けられていないからね。
それでは、前置きはそろそろやめにして、結論を話すとしよう。
答えは、缶だ」
「缶?」
「ああ、缶だ。
コーヒーも熱も替えが効くなら、私の考え得る限りで残る特徴は、缶であるということだ。
実は、私は昨日、天田教授と会ったのだが、その時も不思議に思っていた。なぜ、缶のコーヒーだけを買ったのか?
天田教授は眠気覚ましのために、カフェインを体に入れたいからだと話していた。だが、それなら、ペットボトルのコーヒーでもいいだろう。
ペットボトルのコーヒーの方が大容量のカフェインが入っているからね。缶コーヒーを何本も買うくらいなら、ペットボトルのコーヒーを買った方がいい。
しかし、天田教授は缶コーヒーを8本も買った。
これがもし、学生への贈り物ならば、少量の缶コーヒーでもいい。だが、見た所、そんな訳でもなかったようだから、別の意図があったということになる。
おそらく、その意図は天田教授はコーヒーを手に入れることではなく、缶を手にれることにあったんです」
「缶を手に入れるって、何に使うんですか?」
「それは、缶を8本買ったことから分かるだろう?」
天神と名乗る男はそう言った後、研究室を徘徊し始めた。そして、期末レポートが積まれた箱の前で立ち止まる。
「この部屋の不思議な所は、研究室にしては珍しく、本が全くない所だ。おそらく現代の言葉で言うと、ペーパーレスということなのだろうけど、少しこの研究室は異常だね。本を1冊も置かないというのは、研究室にとっては無学を晒しているようなものだ。
研究室は博識であるために、他分野の侵攻からの防衛のために、自身の自信のために、見栄のために、紙の本を研究室に置いておくものだ。
実際、私の研究室にも多数の紙の本が本棚の中に並べられている。しかし、この部屋はその本を全く取っ払ってしまった。
ここには何かの意図があるのではないか?」
「意図?」
「その意図は、この椅子にもつながるだろう。
なぜ、この椅子は机とつながって、自由に動かすことができなくなっているのか?
そして、この期末レポート。
なぜ、ホチキス止めが成されているのにも関わらず、パンチ止めが左右の両方に成されているのか?
これでは、穴に紐ととおして、まとめると紙をめくることができなくなる。
しかし、それが今回の場合、利点となって来るんだがね」
天神はそう言って、近くの棚を物色した。そして、その棚の中から紐を2本取り出した。そして、その紐を期末レポートの穴に通していく。右の穴に1本の紐を通して結び、反対側も同様に通して結んだ。
「さて、これで準備は整った。
では、結論から言うことにしよう。
君達の探しているUSBは……」
天神は上部を指差した。
「あの電灯のカバーの中に隠されているよ」




