USBを探す条件
「確かにそうだ。
昨日は、天田教授の論文執筆を邪魔しないために、研究室は全て人払いがされていたな。だから、天田教授以外の研究員は誰1人いなかったはずだ」
「……ひとまず天田教授が強く頭を打った理由は一旦棚上げしておこう。
今大事なことは、USBだ。」
「そうだな」
「状況を整理すると、まず、天田教授は完成した論文の入ったUSBを研究棟の外に持ち出していない。そして、自分の管理している研究室以外に大事なUSBを置いておくとは考えにくいので、この研究室内にあるはずだ
USBさえ見つけてしまえば、教授のメールと論文の送り先は知っているから、俺達が天田教授に成りすまして、論文とメールを送ればいいわけだ」
「オーケー! 状況は理解した。だから、この研究室内のどこかにUSBが隠されているって訳だな。
この研究室はものが少ないから、すぐに見つかりそうだな」
「確かにそうだ。工学部だから、部品や物は別の研究棟に保管されているし、ペーパーレスが進んでいるから、ほとんど紙はない。本もほぼすべて電子化されているから、本の間も探す必要がない。他は雑貨的なものばかりだ。
だから、このコの字になった机たちを1つ1つ調べるだけだ。この12畳ほどの空間を探しきるのに、1時間もかからないだろう」
「それじゃあ、探しましょうか?」
「ああ!」
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「見つかんねえ!」
「見つけかねえぞ!」
「終わった。俺達、救急車で大学に向かう羽目になっちまう!」
「なんで、この狭い空間にあるはずのUSBが見つかんねえんだよ。
ほとんどが動かせない家具ばかりだし、引き出しの中も裏側も隅々まで探したのに見つからないじゃん」
「あの教授が俺達が簡単に探して見つかるような場所に、USBを隠すはずがないかな」
「じゃあ、どうするんだよ」
「今までの教授の研究室での行動を振り返るんだ。何か不可解なことがあるはずだ。それが、もしかしたら、そのUSBの隠し場所に繋がっているのかもしれない。
だから、どんな些細なことでもいいから、1つずつ挙げていくぞ!」
「……何かあったかな?
そう言えば、この研究室の椅子は特殊だよな」
「ああ、机の支柱に椅子の足が繋がっているタイプだからな」
「これは何で机と椅子が繋がっているんだ?」
「それは、数年前の地獄の時は、研究室全体がピリピリしていたからな。発狂して、椅子で他人を殴り出す状態だったらしい。だから、部屋の中の物は全て、耐震対策も兼ねて、固定されているんだ」
「エグっ! 世紀末じゃん」
「明日は我が身だぞ」
「ええ……」
「はい! 次々挙げていけ!」
「じゃあ、あそこの缶コーヒーなんだ?」
「……確かにそうだよな。教授が用意したのか?」
「何のために?」
「俺達にコーヒーを奢りたかったとか?」
「それはないだろう。俺達の研究室には、インスタントコーヒーがあるじゃないか。インスタントコーヒーを切らしているってこともないし、新品のコーヒーの瓶もあるし、使い捨てのコーヒーカップもそろってる。
砂糖もミルクもふんだんにある。それなのに、缶コーヒーを買う理由があるか?」
「でも、缶コーヒーは持ち運べる。だから、インスタントコーヒーと違って、贈り物としては価値があるんじゃないか?」
「確かに、缶コーヒーとインスタントコーヒーの違いはそれがあるな。だが、そう考えたとしてもおかしい。
もし、俺達へのプレゼントなら、研究室の生徒の人数は18人だ。3年が7人、4年が4人、院の1年が俺達2人、院の2年が3人、後は博士が2人だ。
基本、切りのいい選び方をしても8人にはならないだろう。缶コーヒーの数が微妙なんだよ。なぜ8個も缶コーヒーが必要だったのか?」
「俺達以外の誰かが来た?」
「……ありえるな。来客が8人いたから、教授は咄嗟に缶コーヒーを8個買った」
「もしや、その来客に殴られて、教授は玄関で倒れていたんじゃないか?」
「そこで、USBを取られた?」
「ありえないか?」
「確かにあり得る。だって、今回、教授が発表する論文は工学分野の最新技術に関する論文だ。有名な電機メーカーと共同研究していたと言っていた。
だから、その電機メーカーのライバル会社がこの研究室を訪れて、天田教授の論文を盗もうとした。その途中で、天田教授が抵抗したので、玄関前で頭を殴って放置。
……でもそうなると、ライバル会社の人間に、缶コーヒーを渡す理由が無いな。
いわゆる敵とみなされる人間全員に、缶コーヒーを渡す真似をするかと言われるとしないだろうな。
それに、天田教授は帰り支度をした格好で玄関前で倒れていたから、来客があったとしても、その来客は研究室を1度去ったことになる。もし、天田教授が研究室から急に逃げてきたなら、コートを着ていくなんてことしないからな。
なら、研究室を去ろうとしていた玄関前で、殴ったのか?
もしそうなら、仕事鞄のUSBを抜き取った可能性もあるな。だが、そんなことすれば、監視カメラなりにその姿が映っているはず。おそらく、この1件に警察が関与している様子はない。でないと、俺が病院で簡単に持ち物を物色することなんてできなかったはず」
「そもそも、そんな物騒なことが起こり得る日本なのか?」
「確かにそうか。そこまでして、論文のデータを奪い去るほど価値のある研究をしているとは教授は言っていなかったし、命を狙われているなんて匂わせもなかったな」
「まあ、価値観は様々だから、一旦それは可能性の1つとして置いておこう」
「じゃあ、他に不思議なことは無かったか?」
「……期末レポート!
天田教授が持っている3年生の講義の期末レポートが、そこの棚の上に積まれているんだ。そのレポートが少し妙なんだ」
「どこが妙なんだ?」
「レポートの紙の束が左上でホチキス止めにされているんだが、同時に左右がパンチで穴を開けられているんだ」
「左右?」
「ああ、見たら分かるが、A4の紙の左右にパンチで穴が開けられている」
「意味が分からないな。
まず、ホチキス止めされているなら、パンチで紙に穴を開ける必要はない。さらに、パンチで穴を開けるとしたら、片方だけでいいはずだ。片方に穴を開けるだけで、紐で束ねることができるからだ。
左右に穴を開けてしまうと、紙が開けなくなってしまうからな」
「だから、妙なんだ」
「これもまた何かの理由に繋がっていると良いんだが……」
「じゃあ、まとめると、以前からおかしい所は、研究室の椅子が固定されている所、今日になっておかしい所は8個の缶コーヒーと不自然なパンチ穴が空いた期末レポート。
この3つと天田教授がUSBを隠した場所に繋がっている可能性がある。
ってことか?」
「ああ、しかし、俺らは探偵じゃないから、するりとその謎を解決するような類稀なる推理力は持ち得てない訳だ」
「この時、名探偵が通りがかってくれると嬉しいんだがね」
「そんな都合のいいことが起こるはずがないだろう?
ここはミステリー小説の中じゃあるまいし」
「現実は小説より奇な~り!!!」
研究室の外から突拍子もない大声が聞こえる。俺達は研究室の外へと顔を向けた。
「現実がフィクションを超えてしまうことは往々としてあるものだ。
人間の想像力が万能ならば、この世界の全てを既に説明しきっているだろうからね」
「……あなたは誰ですか?」
「天神だ」
「どの天神ですか?」
「君の言葉で言うならば、名探偵の天神だ」
「……」
「心配ない、君達が探しているUSBの場所はもう既に分かっている」
「本当ですか!?」
「ああ、昨日の時点では別の可能性を考えていたが、そこに山積みにされている缶コーヒーを見て、確信に変わった」
「やはり、缶コーヒーが鍵になってくるわけですか?」
「ああ、それでは、ここら辺で名探偵による解決編を行うことにしよう!」




