天田研究所
「おい! 坂田!」
「聞いたよ! 袴田! 天田教授が倒れたんだろう?」
「なら!」
「分かってるよ! 天田教授の論文が提出されないと、この研究室の研究費削られちまうってんだろう!」
「ちげぇよ! 天田教授の心配しろよ! 腐っても、俺らの教授だろうが!」
「大丈夫だ! 命に別状はないし、後遺症が残るような状態じゃないってよ。今は意識が戻っちゃいないが、数日すれば、何事もなくこの研究室に来るよ。
研究の怪物、天田を舐めるな!」
「グッ……!!」
「俺は天田教授がこの程度でくたばるとは思っちゃいない。
だが、この研究室の研究費が削られれば、天田教授は弱る!
研究の怪物天田の弱点は、研究ができなくなることだ。だから、研究を支える研究費が削られれば、天田は弱体化する。弱体化した天田の尻拭いは誰がすると思う?」
「俺らか?」
「そうだよ! 俺らは来年も研究室にいるだろう?
天田教授のできなかった研究の後処理は俺らに任される。今年は研究費がたんまり入っていたから、天田教授はご機嫌で研究しまくってた。だから、今年、俺達は自分の研究に専念するだけで良かった。
でもな、数年前だ。天田教授の論文があまり評価されず、論文が出せない時期があった。その時期は当たり前だが、研究費が減らされたんだ。そしたら、あの天田教授が風邪を引いたんだってよ。
結果、教授は風邪をこじらせて、教授ができなかった研究の後処理を学生がしていたんだ。その時、学生を除いた研究員は9人いた。だが、3人は失踪、4人は留年した。
生き残った先輩に聞いた話だと、研究室で疲労で倒れた先輩は救急車で運ばれたが、数時間後には救急車で帰ってきたらしい」
「嘘だろ……」
「本当だ。研究室があまりにもブラック過ぎて、国が調査に来た。しかし、その時には、怪物天田の功績により、研究費が増額していた。だから、怪物天田の覚醒により、漆黒の研究室が純白の研究室へと姿を変えていた。
だから、国は何の処罰も無しに帰っていった」
「それ、数年後にばれて訴えられるじゃん」
「そうだが、今の俺達が怪物天田を訴えるには、一度地獄を通り抜けなければならない。
そんな地獄を体験したいと思うか?」
「それは……」
「ただの1度も死にたくないだろう?」
「そりゃそうだ」
「だから、一番ウィンウィンな方法は、教授の論文を俺達の手で見つけ出し、論文を提出してしまうことだ」
「なるほど、理解した」
「ならよろしい。
この研究室から、教授の論文データが入ったUSBを見つけるぞ!」
「天田教授のパソコンには入っていないのか?」
「入っているだろうが、天田教授無しでパソコンを開けるか?」
「そうか、パスワードがあるか」
「そうだ。しかし、天田教授はパソコン内とUSBに論文のデータを保管している。それもこの研究室内にあるはずだ」
「なぜ?」
「天田教授はこの研究棟の玄関で倒れているところを見つかった。
天田教授はコートを着て、仕事鞄を持って、倒れていたらしい。ということは、天田教授は帰り支度をしていたことになる。もし、USBを家に持って帰ったなら、天田教授はその時に持っているはずだ。
しかし、天田教授の所持品をあらかた調べたが、USBらしきものは見つからなかった」
「いつ調べたんだよ?」
「天田教授が運び込まれた病院に行って、所持品を全て調べたんだよ」
「その時に、病状を聞いたわけだな」
「ああ、さっきの命に別状はないとかいうことを聞いたわけだ。
……そう言えば、天田教授は脳出血だと言っていたな」
「脳出血? 病気的なものか?」
「いや、脳の血管が損傷して、内出血を起こしている状態だったらしい。だから、頭を強く打ったことによる脳出血らしい」
「なら、玄関で転んだのか?」
「転んだ?
今は1月だが、この地域では雪は降っていないから、地面が滑りやすくなっているってことは無い。だから、大の大人がただの地面に転んでしまったってことになるが、そんなことは無いだろ」
「じゃあ……誰かに殴られた?」
「それもないだろう?
だって、昨日はこの研究室に天田教授1人しか残っていなかったじゃないか。」




