深夜、自販機前
教授の1月は忙しい。
学生の卒論のチェックに始まり、持っている講義の期末テストの作成、共通テストの監督、自身の論文の執筆などと有り得ないほど忙しい。分刻みで動くスケジュールを建てなくては、この1月を乗り切ることは出来ない。
しかし、その分刻みのスケジュール通りに遂行できるはずもなく、段々とずれていく計画は、仕事の後回しを強制させるが、期限という壁が私を板挟みにする。この1月のジレンマは学生時代からずっと変わらず頭を悩ませている。
学生時代は、一夜漬けのみでテストを攻略することばかりしていたから、私の計画は立てるが、後回しにする性格はずっと変わらないようだった。
今日も今日とて、寝不足の体にカフェインを投薬しなくてはいけないようだ。
「……下の自販機で、コーヒーでも買うか」
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私は1階にある自販機に向かうと、先客がいた。
「ああ、天田さん。お久しぶりです」
天田教授は私に気が付くと、こちらに振り向いた。天田教授は少し急いでいるようだった。そして、天田教授について目を引く所は、缶コーヒーを8本も買っている所だ。
「……今日は徹夜ですか?」
「……ああ、そうですね。もう、コーヒー何本もキメないと起きてられないのでね」
「それは中毒者ですね。行き過ぎると、病院行きですから気を付けてくださいね」
「大丈夫です。ようやくさっき明日提出の論文が出来上がったので、あとは少し修正するだけです」
「それは良かったですね。こちらは、まだまだ仕事が山積みですよ」
「まあ、大学教授は高給取りの公務員に分類されますから、その分はお互いに頑張りましょう」
「そうですね」
私達はそう言って話が落ち着いた。天田教授は合計8本の缶コーヒーを両手で抱えて、自販機の前から去ってしまった。
……何かおかしいな。
確か、天田教授はコーヒーは無糖しか飲まなかったはずだ。それにもかかわらず、微糖から、カフェオレまで手当たり次第にコーヒー買っていた。それに、缶コーヒーを8本も買うなんて、普通に考えておかしい。
そこまでコーヒーのカフェインが必要ならば、自分の部屋にストックしておくべきではないか?
それに、論文が出来上がったのならば、もうコーヒーを飲む必要などないのではないか?
ということは、自分が飲む以外でコーヒーが必要になったということか?
……研究生にコーヒーを奢った。これが今出せる一番合理的な結論だろう。
天田教授の研究室は工学部だし、今は卒論・修論の追い込み時期だ。だから、缶コーヒーを学生にでも奢ってあげたのだろう。
私の研究室は文系だから、生憎研究室で徹夜する学生は少ない。だが、私も頑張っている学生には、そのような気配りができた方が良いのだろう。
いい眠気覚ましの推理になったな。
私は勝手に自分の中で結論をまとめると、自販機の硬貨入れに100円を2枚を入れて、無糖の缶コーヒーのボタンを押そうとする。しかし、そのボタンには売り切れの文字が赤く光っていた。
私は隣の微糖、カフェオレのボタンも確認するが、無情な売り切れ表示が光っていた。どうやら、天田教授がコーヒー類を買い占めてしまったらしい。
私はしょうがないので、他のカフェイン飲料を探すと、上段のエナジー系のドリンクは買い占められていなかった。それに、ペットボトルのコーヒーも買われていなかった。
私は不思議に思いながらも、ペットボトルのコーヒーのボタンを押した。そして、出てきたコーヒーを持って、自身の研究室に戻った。
私が随分と夜更かしをして、深夜の3時に仕事を終わらせた。
その頃、天田教授は大学キャンパスで倒れて、病院に搬送されていた。




