【91】第20話:舞踏会(6)
舞踏会最終日。
今日は、ほぼ丸一日執事をしなくてはいけない。
それだけならまだしも、今日は俺達のクラスのミュージカルがある。
執事もやって、劇の裏方もやって、雑用ばかりで嫌になる。
そもそも劇はともかく、執事をやるのは納得がいかない。
俺の売り上げがトップな理由は指名人気じゃなくて水晶石人気なのだから、俺が執事をやるメリットは俺にも店にもない。
あぁ。劇にだけ集中しておけばいいタクトやゼルが羨ましい。
「フレイくん、また指名が入ったよ!」
「は〜い...。」
「もしかして疲れる?僕が代わろうか?」
「まぁ、疲れてはいますが、皆さんほどではありませんよ。」
気遣ってくれるホリーの方が指名が多いのに、交代なんか物理的に無理だろ。
今日は人気メンバーが勢揃いしているからか、昨日や一昨日とは比較にならないくらい人が多い。
指名自体は比較的に少ない俺でも、開店早々へろへろになりそうなくらい指名が入った。
もう疲れた。
部屋に帰ってベッドで寝転がりたい。
...そうだ、いいことを思いついた!
「すいません、少しトイレに行ってきます!」
そう言って俺は店から出て、トイレの個室へと入った。
魔法で分身を作れるのだから、店の接客を分身に任せればいいじゃないか。
俺は分身を作って執事カフェへ向かわせたあと、寮の自室へ帰った。
帰り道で買った持ち帰りの食べ物を食いながら、部屋のベッドで横になってスマドのゲームをする。
みんなが働いている中で俺だけゆっくり休憩するのは、背徳感があって最高だな。
分身に何かがあった時のために、一応、分身の様子もちょくちょく見ておくか。
執事カフェの様子を魔法で映し、ゲームの合間合間に様子を確認した。
しばらく時間が経つと、分身の方に変化が現れた。
「フレイくん、お疲れ様!」
「お疲れ様です殿下。もうそろそろ劇が始まりますね。」
「あぁ。フレイくんも劇の舞台裏の係だから、一緒に行こうか。」
「すみません、フレイくん、殿下。そのことで相談があるのですが。」
「何だい?」
「フレイくんにはこのまま執事として働いて欲しいのです。」
「ホリーくん、それはどういうことだい?」
「演劇で人気のある執事が4人もいなくなると、執事カフェとしては大きな痛手となります。せめて裏方のフレイくんだけでも、お店に残ってもらえると助かるのですが、よろしいでしょうか?」
「僕は別にどちらでも構いませんよ。多分、僕がいなくても劇に支障はないと思いますし。」
「わかった。それじゃあ演劇のメンバーには僕から説明しておくよ。フレイくん、お店よろしくね。」
「はい。」
今更、裏方から執事に役割が変わったところで今の俺には関係ない。
どうせするのは分身だし。
そうだ。せっかくだし、ウチのクラスの劇でも見てみるか。
俺はキリの良いところでゲームを中断し、劇が始まるのを待った。
しばらくすると、案内とともに幕が上がった。
序盤は、双子の王子と隣国の姫が仲睦まじく歌い踊るシーンから始まる。
改めて観ると、レオンもレックス殿下も演技が様になったな。
始めの頃は『2人の配役を変えた方がいいんじゃないか?』と心の底から思っていたが、今ではその時の面影が全くない。
始めは嫌味な感じが醸し出していたレオンの演技だが、今では全く嫌な感じがせず、『誠実な兄・カイン』そのものとして舞台に立っている。
レックス殿下も、わざとらしさがなくなって『意地悪な弟・マリシャス』を見事に演じていた。
カタリーナも練習じゃ呆れるほど間違えていたのに、舞台では振り付けを間違えずに、イキイキと踊っていた。
...まだ少し固い感じはするが。
そして物語は進み、マリシャスが姫に良いところを見せるために厄災の魔王を殺すシーンになった。
「う...ぁ...。俺は、このまま...死ぬのか?嫌だっ!死にたくないっ!」
ゼルの演技を見ていると、昔の俺を思い出して反吐が出る。
それくらい、ゼルは演技が上手かった。
「なんだ、この木の実は?...どうせこのまま死ぬくらいなら、最後にこの木の実を食べるのも悪くない。」
ゼルは台本通り、目の前の木の実、もとい虹色に輝かせた球体の光魔法に近づく。
...予定では、ゼルが木の実をかじるフリをした瞬間に、光魔法を大きくしてゼルを包み込み、その間にゼルが厄災の魔王の姿へ着替える予定だった。
だがそうなる直前に、ゼルの真上から何かが落ちてきた。
落下物のせいでゼルはその場で倒れ、客席も舞台裏もざわめく。
しかも先程の衝撃のせいで、変身用のペンダントが砕けてゼルが厄災の魔王の姿へと戻ってしまった。
ゼルの姿がみるみるうちに変化する様子を見て、観客席から悲鳴の声が聞こえる。
...おいおい、これは劇どころか、ゼルもマズいんじゃねーか?
「....ん...あれ...?この姿は...?」
起き上がったゼルは状況が理解できておらず、辺りを見回す。
ゼルは困惑した表情を浮かべ、沈黙する。
だが、やがて意を決したように口を開いた。
「すごい...!力が無限に溢れ出るのを感じる!この力は、木の実のお陰か?」
ゼルはまるで何事もなかったかのように、台本通りのセリフを言った。
台本通りに演技することで元の姿になったことを誤魔化そうとするなんて、ゼルは意外と冷静だな。
ゼルの思惑通り、さっきまで騒ついていた客席も『ただの演出か』と納得して落ち着きを取り戻す。
「この力があれば、あのクソ王子を....いや、全世界の人間どもを制裁することができる!待ってろ人間ども!お前らに、この世の終わりを見せてやる!ハーッハッハッハ!!」
予定通りのセリフを言い終えると、ゼルは舞台裏へと移動した。
俺は引き続き劇の様子を魔法で映しつつ、舞台裏の様子も新たに魔法で表示した。
「ゼル、大丈夫か?!っていうかその格好、どうしたんだ?」
「ゼルくん、怪我はない?というか、いきなり倒れたと思ったら、突然宮藤くんそっくりの姿になって...理解が追いつかないんだけど!」
舞台裏へ行くや否や、ゼルはタクトとカタリーナに言い寄られていた。
単刀直入に聞かれたくない質問をされたゼルは、目をキョロキョロ泳がせ、額に汗を掻く。
「この姿は....実は。」
「「実は?」」
「クドージンさんに魔法で変えられたんだ。多分。」
勝手に俺のせいにするな!
「宮藤くんが?どういうこと?」
「それが、その、僕にも分からないんだ。」
「はぁ?じゃあなんでクドージンの魔法で姿を変えられたって思うんだよ。」
下手な嘘のせいでさらに問い詰められて、ゼルは言葉がたどたどしくなっている。
「わ、分からないものは、分からないよ!だって、その...そう!いきなり何かが頭にぶつかったと思ったら、クドージンさんの声で『厄災の魔王の姿に変えてやる』って聞こえたんだ!」
それは流石に無理があるだろ。
そんなみっともない嘘で納得する奴いるかよ。
「それって...もしかして、頭を打ったゼルくんを助けるついでに、気まぐれにゼルくんの姿を変えたのかしら?」
「なんだソレ?相変わらずワケわかんねぇな、アイツ。」
納得するのかよ!
「多分、そういうことなんじゃないかな?」
とりあえず誤魔化せた安堵からか、ゼルの表情から焦りの色が消え、落ち着きを取り戻したようだ。
「でもこの姿、どうすれば戻るんだろう?劇が終わるまではこのままでも良いとして、終わった後も元に戻れなかったらどうしよう。」
「確かに、それは困るわね。宮藤くんがちゃんと戻しに来てくれるとも限らないし。」
「そうだ!後でシヴァ先生に相談しよう。先生なら僕を元に戻せる魔術が使えるかもしれないし。」
「だな。シヴァ先生はなんたって、世界を救った伝説の魔術師だしな!」
シヴァに相談するってことは、ゼルはあの変身用のペンダントの代わりを用意してもらって普段の姿に戻るつもりなのだろう。
その後、程なくして出番が来たゼルは、その姿のまま舞台へとあがった。




