【90】第20話:舞踏会(5)
舞踏会2日目。
昨日はあれから不快感に囚われて、全然舞踏会を楽しめなかった。
今日は俺が執事をする日だ。
いつまでも不快感を引きずっていても意味はない。
昨日のことは忘れて、執事に専念しよう。
今日執事をするのは、俺とホリーだ。
あと、一応レオンもいる。
今日の執事の中ではレオンがぶっちぎりで人気だった。
ホリーは大してイケメンではないが、人当たりの良さと水晶石が便利なのもあってか、レオンに次いで人気だった。
俺はというと、水晶石が無駄に人気なせいで、無駄に指名が多い。
一応仕事だから最低限の接待はするが、とにかく面倒くさい。
かといって適当に客をあしらうと『無愛想だからもっと笑顔でもてなせ』と他の執事から注意されるので、それもまた面倒くさい。
これなら、まだ受付係の方がマシだった。
「フレイくん、また指名が入ったよ。」
「はい!今行きます。」
指名を受けて客のもとへと行く。
「お待たせ致しまし....あっ!」
指名したのは、カタリーナとアリーシャだった。
しかもフォージー侯爵夫妻も一緒だ。
「お久しぶりですね、フレイ卿。」
「カタリーナ様達のお店がどんな感じなのか、気になって来ちゃいました。」
「今いる執事でアリーシャ様と知り合いなのって、フレイくんだけだから指名しちゃった!フレイくんの売り上げにも貢献できるし、良いわよね!」
ありがた迷惑だ。
指名された以上、俺はアリーシャ達をもてなした。
注文を聞いて料理を運んだ後は、今まで通りテーブルの前で待機していた。
「このクラスの料理は、格段に美味しいですね。『料理は見た目も大事』とよく言われますが、味だけしか堪能できない私でも、この料理の素晴らしさがわかります。」
フォージー侯爵は、見えていないはずなのに料理を溢したり掴み損ねたりすることなく、綺麗に平らげた。
「いつも思うのですが、フォージー侯爵って器用ですよね。本当に目が見えていないのですか?」
あまりにも上品に食べるので、思わず不毛な質問が口から出た。
「ふふっ、面白い質問ですねフレイ卿。私には音があればそれで十分なのですよ。例えば武闘会でフレイ卿とアリーシャが戦っている時も、私は音だけで何が起こっているのか理解できましたよ。」
「えっ、凄い!あの時、フレイくんの光で誰も何も見えない状態だったのに。フォージー侯爵、さすがです!」
「しかし、まさかフレイ卿があれ程の手練れだとは思いもしませんでした。アリーシャとエレブン卿以外の選手を一撃で戦闘不能にしてしまうとは驚きです。あの時の音を聞く限り、アリーシャ以外は死んでいてもおかしくないと思いましたが、まさか全員大きな怪我はなく気絶していただけとは意外でした。」
まずい。
まさか武闘会のことで、フォージー侯爵が余計なことを言い出すなんて想定外だ。
「あの時の攻撃はやはりフレイ卿だったのですね!去年まで、あれ程の攻撃を仕掛ける選手はいませんでしたから、1年の誰かだろうとは思っていました。フレイ卿は成績も優秀だと噂で聞いておりますし、何よりバトルロワイアルで優勝されていたので納得です。」
「な、何の話をしているのですか?僕はあの光でみんなが混乱している間に、他の選手から逃げ回るので精一杯でしたよ。」
「謙遜しなくてもいいのですよ。フレイ卿の足音を聞き間違えたりしませんよ。あの時、フレイ卿は逃げるどころか、他の選手達のもとへ一直線に向かって行っていたではありませんか。」
「じゃあフレイくんは、あの光の中で自由に動けたってこと?」
「そ、そ、そんなわけないじゃないですか!僕だって、全然前が見えませんでしたから。フォージー侯爵はきっと、僕とよく似た誰かの足音と勘違いしているのですよ。」
するとフォージー侯爵は急に黙って、顎に手を当てて何かを考え始めた。
「そういえばあの時、突然、フレイ卿の足音に似た音が聞こえました。似てはいるものの、位置的にフレイ卿ではないと判断しましたが....もしや、あちらがフレイ卿だったのでしょうか?」
「きっと、それが僕ですよ!」
誰だか知らないが、そいつのおかげで助かった。
「そうでしたか。その足跡は突然、何もないところから現れたように感じたのですが、フレイ卿はそれまでどこにいたのでしょう?」
『何もないところから現れた』?
もしかして俺に似た足音って....宮藤迅のことか?!
「....それは、秘密です。」
俺は笑って誤魔化した。
「ところでアリーシャさん、カタリーナさんの執事姿は見なくて良かったのですか?」
追求されてこれ以上ボロを出す前に、俺は無理矢理話題を変えた。
「えっ、執事カフェは女性も執事になるのですか?その割には、先程から女性の執事は見当たりませんが...?」
「あぁ、それは女子は魔法で男に変身しているからなのですよ。ほら、あそこの彼も元は女子生徒です。」
それを聞いたアリーシャは口を大きく開けて仰天した。
「それでは、カタリーナ様も男になって執事をするのですか?」
「はい。というか、昨日執事をやっていました。」
「えぇ?!そうだったのですか?カタリーナ様の男性姿を是非見てみたかったのですが、残念です。」
「今のところは一応、明日も執事になる予定ですよ。とはいえ、男になった時の私はお兄様にそっくりなので、あまり目新しいさは感じないと思いますが。」
「それは良かったです。明日はカタリーナ様を指名しにお店に伺いますね。」
「ご指名ありがとうございます!明日、アリーシャ様のご来店をお待ちしております。」
「ちなみに、カタリーナさんの男性姿が見たいのでしたら、ライラさんの水晶石を買えばいいですよ。ライラさんの特殊魔法である『性別変換』が使えますから。」
「なるほど。その特殊魔法を使うことで、執事の性別を変えているのですね。それならば納得です。」
「あら。こちらのお店は水晶石を販売しているのですか?」
それまでほとんど声を発していなかったフォージー夫人は、余程興味があったのか、前のめりになりながら水晶石の話に食いついた。
「はい。僕達のクラスでは、クラス全員が水晶石に魔力を込めて販売しています。」
「それは素敵ですね。私、魔力が込められた水晶石を見るのが大好きですの。よろしければ全員分の水晶石を購入させていただけないでしょうか?」
「もちろん、良いですよ。」
俺は全員分の水晶石を在庫から取ってきて、フォージー夫人へ渡した。
「ウフフ。どの水晶石も素敵ね。水晶石を見れば、その人の人となりが伝わってくるわ。」
「お母様ったら、相変わらず水晶石がお好きですわね。そういえばお父様が告白をした時、お母様に水晶石をプレゼントしたのですよね?」
「えぇ。あの時もらった水晶石は、今でも大切に持っているわ。アナタの魔力が込められた水晶石ほど、美しい水晶石は見たことがないわ。」
夫人に褒められた侯爵は、嬉しそうにはにかんだ。
「素敵なお話ですね。そういえば、エルフは恋人に魔力を込めた水晶石を贈る風習があるのだそうです。フォージー侯爵のプロポーズは、まるでエルフのようですね!」
すると、なぜかさっきまでの朗らかな空気が一瞬で凍りついた。
フォージー一家は怪訝な顔でカタリーナを睨んでいる。
「えっ?な、なにかまずいことを言いましたでしょうか?」
その視線に困惑したカタリーナは、キョロキョロと3人の様子を伺った。
「いえ。カタリーナ嬢は何も悪くありません。言われてみれば確かに、主人の告白はエルフと似ておりますね。」
「お、お母様が水晶石が大好きなのを知っていたから、敢えてお父様は水晶石をプレゼントしたのですよね?」
「その通りよ。私は結婚する前から、王宮専属の魔法使いとして働いたの。仕事柄、水晶石を取り扱うことも少なくなくて、水晶石を取り扱ううちにその輝きや性質に魅了されたの。それを知った上での告白だったから、とても嬉しかったわ。」
フォージー夫人って、王宮専属の魔法使いだったのか。
「そういえば先程、『水晶石を見ればその人の人となりがわかる』と仰っていましたが、それも職業柄身についた技術なのでしょうか?」
「技術と言いましても、そこまで大層なものではございません。あくまで私の趣味でございます。」
そう話すとフォージー夫人は、嬉しそうに購入した水晶石を視だした。
「この水晶石を作った方は、直情的でお調子者ですね。その明るさで場の空気を良くする一方、突拍子もない思いつきで動いて周囲を混乱させることもありそうです。」
フォージー夫人はタクトの水晶石を、そう評価した。
会ったことがないはずなのに当たっている。
まるで占い師のようだ。
「こちらの水晶石は、優しくて感受性が強い人が作っていそうですね。ただ独善的なようにも感じられます。ですが他者の言葉を受け入れる柔軟性もありそうですので、知見を広げれば独善的な部分は改善されそうにも思えます。」
ライラの水晶石の鑑定結果も納得だ。
確かにアイツは、偽善的な態度がうざい時もある。
「この水晶石も面白いですね。穏やかで精神的に成熟した人が作ったように思われます。誰に対しても誠実で優しくあろうとする気持ちが、水晶石から伝わってきます。ですが時折配慮が空回って、逆に相手を不快にさせることもありそうです。それと、無難な性格故に、異性から『結婚相手としては最高だが、恋人としては魅力的に感じない』と評価されているのではないのでしょうか。」
ホリーの水晶石は、鑑定結果が微妙だな。
前半部分は分からなくもないが、後半部分は外れてないか?
「確かに分かります。ホリーくんって、『こんな人と結婚したら幸せになれそう』って感じもしますが、『異性として見れない』感じもしますから。」
「ですがカタリーナさん。ホリーくんは今、かなりの指名をもらっていますよ?」
「確かにホリーくんは指名が多いけど、みんなガチ恋って感じじゃないでしょ?老若男女みんなに好かれているっていうか。」
ガチ恋の意味は分からないが、何となく言わんとすることが分かった。
「あら、この水晶石は....。」
フォージー夫人は俺の水晶石を手に取ると、眉間に皺を寄せ、無言でじっと観察した。
「....あの、その水晶石が、どうかしましたか?」
「これは最早、水晶石ではありません!」
は?
何を言っているんだ?
俺はちゃんと、水晶石に魔力を込めて作ったぞ?
「この水晶石には、複数の高度な魔法がかけられています。この水晶石を使って発動する回復魔法は非常に高度で、死んでさえいなければ完全回復も可能です。しかも壊れない限り、半永久的に使用できます。これ程高度な魔法が施された物は、水晶石どころか魔道具ですら存在しません!」
これはまずい。
王宮専属の魔法使いにそこまで言わせたら、みんなが『フレイは高度な魔法が使える=宮藤迅』と気がついてしまう。
「いくらお世辞でも、そこまで言うのは大袈裟ですよ。それに母の話ですと、セージャ叔母様ならこの程度の水晶石は、同時に1000個は作れるそうです。僕は1度に1個作るので精一杯なので、まだまだです。」
「これ程の代物を、1000個もですか!流石はセージャ様です。」
「フレイくんの魔法が凄いのって、やっぱりセージャ様譲りなのね。」
「いえいえ、それ程でもありません。前に家庭教師に『セージャ様に比べたら貴方は凡才ね』と言われましたから。僕なんか、セージャ叔母様の足元にも及びません。」
「フレイ卿ですら凡才扱いですか。流石はセージャ様です。国から称号を賜る才能は、凡人の理解の範疇を超えております。」
なんとか誤魔化せたか?
カタリーナが疑う様子もないし、多分大丈夫だろう。
「それでも私からすれば、フレイ卿も類稀なる才能があります。フレイ卿であれば王宮専属の魔法使いになるのも容易です。もしよろしければ私の方から推薦状をお出ししても良いでしょうか?」
「いいえ、それには及びません。」
そこまで大事にされると、俺の正体が宮藤迅じゃないかと疑われかねない。
それに一応、進路は決まっているしな。
「え〜!勿体無いわよ!せっかくのチャンスなんだから、ちょっとは考えた方がいいんじゃないの?」
「そう言われましても...。」
「カタリーナ様の言う通りですわ!フレイ卿ほどの才ある方が王宮専属の魔法使いにならないなんて、国にとっても大きな損失です。」
「それは過大評価ですよ。僕の代わりなんて、この国にはごまんといます。」
「私はそうは思いません。フレイ卿の才能は私が保証します。それに私が推薦すれば必ず王宮専属の魔法使いになるとは決まっておりません。推薦があっても試験に合格できなければ、王宮専属の魔法使いにはなれませんし、仮に合格しても辞退することは可能です。
ですから、ご自身の実力を試す程度の気持ちで構いませんので、一度試験を受けてみませんか?」
わざわざ試験を受けるのも面倒くさい。
と思ったが、よくよく考えたらフォージー夫人からの推薦の話があった時点で、俺の魔法の才能が知れ渡るのも時間の問題だよな?
だったら敢えて試験に落ちたら、俺への評価が下がって正体を勘付かれる可能性が下がるんじゃないか?
「....分かりました。そこまで仰るのでしたら、お受けします。」
合格する気は一切ないが、俺はフォージー夫人の話を受け入れた。
その後、フォージー夫人が俺の水晶石をベタ褒めしたこともあってか、それが噂で広がり、いつの間にか俺の水晶石の売り上げがトップになっていた。
明日は舞踏会最終日だからか、売り上げ上位のヤツが執事をやることになっている。
ってことは、明日も執事をやるのかよ。
その現実に、俺は大きなため息をついた。




