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転生魔王の正体は?ー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですー  作者: サトウミ


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【89】第20話:舞踏会(4)

母さんが執事カフェに来たので、俺は空いている席へ案内し、注文した料理を机へ運んで一緒に座って話し始めた。


「このムニエル美味しいわねぇ。この料理、誰が作っているの?」

「クラスメイトで親が飲食店を経営している人がいて、ウチの店の料理は全てその人のお店から仕入れています。」

「へぇ。こんな美味しい料理が作れるお店の子がいるのね。今度ウチの領で採れた果物を使って料理して欲しいわね!」


母さんは嬉しそうに、出された料理を黙々と食べている。

母さんが食べるのに集中しているからか、沈黙が続いた。

せっかくさっきセージャ叔母さんの話題が出たし、いい機会だから話を聞いてみるか。


「母さん、セージャ叔母さんってどんな人だったのですか?」

「あら?そういえば、フレイにセージャの話をあまりしたことはなかったわね。昔の話になるけど、聞いてくれるの?」


「はい、是非。」

「フフっ。ありがとう。」


母さんは懐かしみながら、嬉しそうに語り始めた。


「あの子はね、すっごく真面目で、優しくて、才能があって、自慢の妹だった。


今でこそライトニング領は裕福だけれども、私が生まれた当時は貧しくて、他の貴族達から『プライドだけは高い没落貴族』って馬鹿にされていたのよ。


そんな時に生まれたのがセージャだったの。あの子は誰が見ても分かるくらい、卓越した才能を持った子だったわ。


だから両親もあの子に期待してた。


あの子がもし世界屈指の魔法使いになって、国から特別な称号を与えられたら、ライトニング家の箔がつく。

それだけじゃないわ。

もし国から称号を与えられたら、毎月国から莫大な報酬が支払われるの。

そのお金があればライトニング家再興も夢じゃない。


そのためにも両親は高い授業料を払って、一流の家庭教師を雇って、あの子に英才教育を施したの。それこそ、大好きな家具や宝石、お気に入りのドレスまで売って、全部セージャの教育資金にしていたわ。」


「セージャ叔母さんばかり優遇して、母さんはそれを不満に思わなかったのですか?」

俺が母さんの立場だったら、両親も妹も嫌いになりそうだ。


「いいえ。むしろ『私は凡才で良かった』って思ったわ。何なら、あれだけの期待をかけられているセージャが心配になったくらいよ。


だって、両親が全財産をかけてまで自分の教育に費やしているのよ?

プレッシャーが大きすぎて、私だったら逃げ出しそうだわ。」


そういうものか?

勝手に期待して勝手に金をかけているだけなんだから、親のことは気にせず普通に勉強して、普通に暮らせばいいのに。


「でもセージャの凄いところは、その期待以上の結果を出したところよ。まさか10歳で王立ディシュメイン魔法学園を卒業して、14歳で聖女の称号を与えられるなんて思ってもみなかったわ。」

今ならその凄さが少しわかる。

10歳であの意味不明な卒業試験を合格するなんて、脳みそパンパンでないと無理だろ。


「あの子、両親の期待に応えるために毎日朝から晩まで勉強していたから、当時はいつか体調を崩して倒れるんじゃないかって、ずっと心配していたわ。


だけどセージャはセージャで、ずっと私に申し訳なく思っていたみたい。『本当ならお姉様に使われるはずだったお金を私が奪ってしまった。だから結果を出さなければお姉様に顔が立たない。』って。


私は全然そんな風に思ったことはないし、何なら自由にさせてもらえて幸せだったから気にしなくて良かったのにね。」


「じゃあ、母さんとセージャ叔母さんって、仲は悪くなかったのですか?」


「もちろんよ!むしろ私達は唯一無二の最高の姉妹だったわ。」

満面の笑みでそう答えるくらいだから、本当に仲が良かったんだろうな。


「そうそう!私がここの学校に入学する前もちょっとした問題があったんだけど、あの時も私達はお互いのことを思い合っていたわ。」


「何があったんですか?」


「ただでさえ貧乏な上にセージャの教育費がかさんだこともあって、2人も王立ディシュメイン魔法学園に入れられる程のお金が無くなったのよ。この学校の学費って洒落にならないくらいに高いからね。当時のウチの経済力じゃ、節約しても1人くらいしか入れなかったわ。


だから私は『勉強ができない私よりセージャを学校に入れてあげて』って両親に言ったの。

だけどセージャは『私は絶対に王立ディシュメイン魔法学園の卒業試験に合格するから、予定通りお姉様を学校に入れてください。』って両親に頼んでいたわ。


ふふっ。今思えば、私達って似たもの同士ね。」


「じゃあ母さんは、セージャ叔母さんのお陰でこの学校に入学できたってことですか?」


「その通りよ。あの子のおかげで学校にも通えて、そしてフレイのお父さんとも出会えたってわけ。」


「でしたら、セージャ叔母さんがいなければ、今頃父さんと母さんは結婚していなかったかもしれませんね。」


「そうなのよ。だって、あの人と出会えたのも、結婚に反対する両親を説得できたのも、全部あの子のお陰だもの。」


「えっ?母さん側のおじいちゃん達は、父さん達の結婚に反対していたんですか?!」


「あら、それも言ってなかったっけ?ライトニング家は元々、建国時から続いている名家で、代々名家の貴族としか婚姻関係を結ばない門閥主義の家なのよ。だから私のお父さん達...フレイのおじいちゃん達は、平民上がりの貴族の子と結婚なんて、絶対に許さなかった。」


「昔のライトニング家って、何だかコーキナル派閥に似ていますね。」


「そうね。少なくともおじいちゃん達の価値観は、かなりコーキナル派閥の考えに近かったわ。レックス殿下がお生まれになった時も『悪夢だ』とか『ドカス様が王位を継いでおられたら、こんなことにはならなかった』とか、散々嘆いていたわ。」


「そんなおじいちゃん達を、よく説得できましたね。」


「説得といっても、完全に認めさせたわけじゃないわ。ライトニング家の当主を継ぐのは私の夫ではなくてセージャの夫となる人にすることを条件に、結婚を認めてもらえたの。


セージャが『アーロン卿と繋がりを持てば、アーロン卿から金銭的支援が得られる』とか『私が両親の選んだ人と結婚して、その人に家督を継いでもらえば門閥主義を貫ける』とか言って説得してくれたおかげで、両親も納得して結婚を認めてくれたってわけ。」


「でも、それだと変じゃないですか?今、家督を継いでいるのは父さんじゃないですか。セージャ叔母さんは結婚しなかったのですか?」


「セージャは元々、勇者パーティの1人として世界救済の旅をしていて、それが終わったら結婚する予定だったのよ。だけどその後すぐに修道院に入っちゃったから、結局、結婚はしていないわ。」


「だったら何故、セージャ叔母さんはおじいちゃん達の約束を破ってまで修道院に入ったのですか?」


「それは....」

さっきまで嬉しそうに語っていた母さんだったが、俺が質問した途端、急に表情を曇らせて黙ってしまった。


そういえばライトニング邸で勇者サマ達を呼んでパーティをしていた時も、セージャ叔母さんの話が出た時に気まずくなっていたな。

『罪悪感』がどうとか言っていた気がする。


「叔母さんは、なにか悪いことでもしたのですか?」

「そんなことないわっ!」

今度の質問には、黙らず即座に否定した。

悪いことをしていないのだったら、なぜ罪悪感があるんだ?


「...やっぱり、この話はナシにしましょ。何となくだけど、話さない方が良い気もするし。」


「『話したくない』ならまだ分かりますが、『話さない方が良い』って、どういうことですか?」


「深い意味はないわ。強いて言えば、ただの勘よ。」

ただの勘かよ!


「ここまで焦らされたら、逆に意地でも聞きたいです。」

それに大した理由でもないだろ。

何となくだが、そんな気がする。


「....そうね。フレイには、前に私の勘のせいで嫌な思いをさせちゃっているし、隠さず話すわ。」

母さんの勘のせいで嫌な思い....?

あぁ、ライトニング邸で勇者サマ達を呼んだ時のことか。

今思えば、恥ずかしい勘違いをしてたな、俺。


母さんは覚悟を決めて、さっきの俺の質問に答えはじめた。


「あの子が修道院に入ったのは、世界を救えなかった罪悪感からなの。」


「え?セージャ叔母さん達は世界を救ったじゃないですか。」


「今いる私達は確かに救われたわ。でも封印された龍脈の近くにいた人達は救えなかった。」


「確かにそうですけど、セージャ叔母さん達がいなかったら世界は滅亡していたんですよ?全人類が滅びるのに比べたら、断然良い結果じゃないですか。」


母さんは俯いて首を横に振った。


「あの子はね、キメイラ帝国の魔王を倒した後、龍脈抑制装置を取り上げたらしいの。それで、みんなで魔王を説得したの。もう亜人と人間で争うのを止めようって。でもその時、厄災の魔王が.......キメイラ帝国の魔王にトドメを刺したの。」


言われてみれば、そんなこともあったな。

勇者サマ達と魔王を見つけた時、アイツらは何かを話し合っているように見えたが、そんな話をしていたのか。


「優しいあの子は、キメイラ帝国の魔王が死なないように、精一杯回復魔法をかけたの。でも致命傷を受けていて、セージャでも助けられなかった。それどころか、回復魔法をかけるのに夢中で、龍脈抑制装置を手放してしまったの。」


そうそう。

セージャ叔母さんの近くにあった魔道具を拾って、『コレって噂の龍脈抑制装置じゃね?』って思って弄ってみたら正解だったな。

だから俺は、そのまま装置を使って全世界の龍脈を封印して、元に戻せないように装置を破壊したんだった。


「セージャが手放した龍脈抑制装置を、厄災の魔王が拾って....。あとは知っての通りよ。セージャはあの日のことを悔いて『私が龍脈抑制装置を手放さなければ』って自責の念に駆られているの。」


母さんは今にも消えそうなくらい弱弱しい声で、話を続けた。


「セージャは家に帰ってきてから、ずっと苦しそうに部屋の中に閉じこもっていたの。私が話しかけても目が虚ろで、時々現実逃避のように『私のせいじゃない!』って何度も叫んで。あの子、あの日から死の大地で亡くなった人達が夢の中に出てきたらしいわ。その夢では、亡くなった人達が苦しみながらセージャを責めているそうよ。」


「そんなの、おかしいですよ!だってセージャ叔母さんは何も悪くないじゃないですか!なんで責められないといけないんですか!」


俺は無意識のうちに声を荒げていたようで、声に驚いた周囲の客の視線が、俺に集まっているのを感じた。

だけど、その視線以上に不愉快な感覚が、俺の中に現れた。


何かに引っ張られるような、それでいて鋭い針で突かれるような、そんな不快感。

俺はその感覚の正体をよく知っているはずなのに、心のどこかでそれを受け入れたくない俺自身が、必死に拒絶している。

そのせいで不愉快な感覚は、正体を隠したまま俺の心に居座っている。


「そうよ!あの子は悪くない!でも、何度説得してもあの子の罪悪感は拭えなかった。それで、あの子は....罪滅ぼしのために修道院に入ったの。

それからかしら。父さんと母さんが衰弱していったのは。悲惨な状態で修道院に入っていくのを、父さん達は止めなかった。いえ、止められなかったのよ。

あれだけ可愛がっていたセージャがいなくなったせいで、父さん達の心はどんどん弱っていって....いつの間にか、父さん達もいなくなっちゃった。」


気づけば母さんの目は真っ赤になっていて、静かに涙を流していた。

それを見て、俺の中の不快感はさらに大きく成長する。


この不快感の正体は、ちゃんと理解した方がいい気がする。

だけど『理解してはいけない』と本能的に感じている俺もいる。


この不快感は、一体どうすれば無くなるんだ?

俺は不快感に囚われないように、それを忘れようとした。


しかし、その不快感は俺の心から消えることは、一生なかった。

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